4.体重減少
https://doi.org/10.57554/2025-0035
はじめに
体重減少は日常的に遭遇する症候である。「医学的に対処すべき体重減少」に関する明確な共通認識は国際的に確立されていない。一般的に、「医学的に対処すべき体重減少」は「意図的な体重管理を行っていないにもかかわらず、半年から1年の期間で5kg以上の体重減少、あるいは、体重の10%以上の減少が見られる場合」と定義される 1)。体重は個人差が大きく、健康な状態で長期間にわたって安定的な低体重(やせ)を呈する場合は医学的に対処すべき体重減少とはみなされない。本稿では「医学的に対処すべき体重減少」に該当する可能性のある疾患群を概説し、特に、糖尿病・内分泌領域に関連する疾患群を詳述する。
1.体重減少をきたす疾患群
体重減少を引き起こす疾患群の中で頻度が高いものの筆頭格は消化器疾患である。高頻度に遭遇する疾患として胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群が挙げられる。また、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患や動脈硬化に関連する慢性腸管膜虚血も体重減少の原因となる。まれではあるが、ガストリン産性腫瘍や血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal polypeptide:VIP)産生腫瘍などの吸収不良症候群も体重減少を引き起こす可能性がある 2)。次いで種々の悪性腫瘍である。胃がん、膵がん、肝がんなど消化器系悪性腫瘍や肺がんなどの呼吸器系悪性腫瘍、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんが進行すると高度の体重減少(カヘキシア)を呈する 3)。カヘキシアは悪性腫瘍だけではなく、うっ血性心不全や慢性閉塞性肺疾患、慢性肝不全、慢性腎不全、関節リウマチや血管炎などの膠原病、制御不充分な慢性感染症(結核、HIV、寄生虫)など、持続的炎症を伴う疾患でも生じる 4)。
加齢自体もサルコペニアやフレイルを引き起こし、結果として体重減少をもたらす。高齢者においては歯牙の減少、嚥下機能低下、味覚・嗅覚の低下に伴い食欲も低下し、体重減少が生じることがある 5)。多くの高齢者が医薬を内服しており、副作用としての味覚障害が加齢に関連した食欲低下・体重減少の一因になっている場合も少なくない 6)。また、慢性便秘症に対する下剤の乱用やゾニサミドなどの抗てんかん・抗パーキンソン病薬による薬剤性の体重減少にも注意が必要である。高齢者において有病率が上昇するうつ病やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの精神・神経変性疾患も体重減少の原因となる。アルコール使用障害(アルコール依存症)や統合失調症、摂食障害も体重減少の原因となり 7~9)、特に神経性やせ症(神経性食欲不振症)では顕著な体重減少が必発である。体重減少をきたす疾患群の全体像を図1 10)に示す。以後は糖尿病・内分泌領域に焦点を当て、診療のポイントを解説する。