3.こむら返り・筋肉痛・筋力低下
https://doi.org/10.57554/2025-0034
はじめに
こむら返り(筋肉のけいれん)、筋肉痛、筋力低下といった運動器症状は、日常診療において頻繁にみられる主訴であり、多くは神経内科や整形外科、総合内科を初診する。しかし、その背後に内分泌代謝異常が潜在することは少なくなく、糖尿病・内分泌代謝内科医の的確な病態把握と診断介入が求められる場面は多い。
特に、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低リン血症、低カリウム血症といった電解質異常は、症候の多様性ゆえに鑑別が難しいこともあり、見逃されやすい。本稿では、これらの疾患に共通する症候の発現機序と、それぞれの病態に応じた診断・治療のポイントについて、他科からのコンサルト対応を念頭に置きながら解説する。
1.症状から内分泌代謝疾患へのアプローチ
こむら返り、筋肉痛、筋力低下といった症状は、初期診療では整形外科あるいは神経疾患として評価されることが多い。また、救急外来や総合内科においては、症状の性質が非特異的であるため、病歴聴取と身体所見のみで診断に至ることは困難である。これらの主訴から内分泌代謝疾患を見逃さないためには、症状と内分泌異常との関連を想起した問診、ならびに電解質やホルモンを含む初期検査が重要となる 1~7)。
糖尿病・内分泌代謝内科医が他科からのコンサルトを受けた時点では、すでに神経学的検査や整形外科的検査が行われていることも多く、スクリーニング検査で評価されていない項目を補完する役割が期待される。非特異的な運動器症状の中に内分泌的異常が潜んでいることを想定しておくことが診断遅延を防ぎ、予後を改善する第一歩となる。優先的に鑑別すべきは代謝性ミオパチーや急性電解質異常であり、特に低カリウム血症や低リン血症は早期に補正すべき救急疾患である。一方、慢性的に進行する筋力低下や筋肉痛では、甲状腺機能低下症、糖尿病性神経障害、ビタミンD欠乏症などが背景にある可能性を鑑別すべきである(表1, 2)。