5.糖尿病関連腎臓病に対する多職種連携の実践とその課題
https://doi.org/10.57554/2025-0021
はじめに
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の中でも、糖尿病関連腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)は糖尿病の主要な合併症の一つであり、進行すると末期腎不全から透析療法を必要とする。また、DKD患者では心血管疾患のリスクも著しく増加するため、腎臓病の進行抑制だけでなく、全身的なリスク管理が求められる。そのため、早期からの包括的な管理が重要であり、医師を中心とした多職種連携のチーム医療の実践が不可欠となる。具体的には、医師による診断と治療方針の決定、看護師による日常生活支援、管理栄養士による食事療法の支援、薬剤師による薬剤管理、さらに理学療法士による運動支援やソーシャルワーカーによる社会的支援の提供などが挙げられる。実臨床でのDKD患者に対する多職種連携チーム医療は、腎機能低下速度を抑制し、透析導入回避期間を延長するだけでなく、患者満足度や生活の質(QOL)の向上にも役立つことが報告されている 1, 2)。しかし、多職種連携にはいくつかの課題も存在する。すなわち慢性的な人手不足や時間的制約、患者の心理的・社会的背景なども多職種連携の実践例にはハードルとなる。本稿では、多職種連携の具体的な実践例を紹介するとともに、それを阻む課題についてさらに詳しく考察し、今後の改善策も考えてみたい。
1.多職種連携の重要性とそれぞれの役割
DKD患者の治療目標は、腎機能の維持と合併症の予防である。血糖コントロール、血圧管理、脂質管理、食事療法などがその柱とされてきたが、最近では腎臓に保護的に作用する薬剤のエビデンスが次々に報告され、適切な薬剤選択も重要なチーム医療の一翼を担っている。しかしながら、薬剤投与だけでは限界もあり、これら全てを一貫して実施するためには、多職種の専門知識とスキルが求められる。具体的には以下の役割が挙げられる。
1)医師:診断、治療方針の立案、薬物療法の調整
医師は、DKD治療において中心的な役割を担うことは言うまでもない。まず、正確な診断を行い、患者の病態を総合的に評価した上で治療方針を立案する。この際、血糖コントロール、血圧管理、脂質管理などの基本的な管理に加え、近年のエビデンスに基づいた腎保護効果のある薬剤の適切な選択が重要となる。特に、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などのレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬 3, 4)に加えてSGLT2阻害薬 5~7)やGLP-1受容体作動薬 8, 9)、さらには非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬 10, 11)においては、腎機能の維持や心血管イベントのリスク低減に有効であることが示されており、これらの薬剤を患者の個別の病態に応じて適切に使用することが求められる。