1.糖尿病関連腎臓病の概念と定義

  • 金﨑啓造 Kanasaki, Keizou
    島根大学医学部内科学講座 内科学第一 教授/島根大学医学部統合腎疾患制御研究・開発センター センター長
公開日:2025年3月7日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(2): 0017./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(2): 0017.
https://doi.org/10.57554/2025-0017

はじめに

 糖尿病の併存疾患の中で慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は主要なものの一つである。しかし、その腎障害を表現する名称に関してはDiabetic Nephropathy、Diabetic Kidney Disease、CKD with Diabetes、あるいはDiabetes and CKDなど呼称に関して世界的にもさまざまな混乱がある。同様の混乱は本邦でも認めていた。そこで、2024年より日本糖尿病学会、日本腎臓学会は米国を中心として世界で多く使われている「Diabetic Kidney Disease」に対応する日本語訳を「糖尿病関連腎臓病」とし、その概念を定義した。本稿では、糖尿病症例における腎臓合併症の歴史的背景を振り返るとともに、疾病概念の定義と定義が必要となった背景も概説する。

1.糖尿病における腎臓合併症の歴史

 糖尿病症例におけるタンパク尿(らしい物)の存在を示唆する所見として、Cotugnoは尿を加熱した際に凝固物が形成されることを報告している 1)。1982年にVibertiら 2)により1型糖尿病、Mogensenら 3)により2型糖尿病症例における糖尿病性腎症の早期診断マーカーとしてアルブミン尿の意義が報告された。糖尿病性腎症における病理所見として有名な結節性病変を、Kimmelstielら 4)が1936年に報告した。しかし、その20年前の1916年には、東京帝国大学病理学教授 長與又郎が夏目漱石の遺体を解剖して糖尿病の腎病変を確認しており、1927年に糖尿病の剖検例3例における特徴的腎病変として世界に先駆け報告している 5)。1921年にトロント大学のバンティングとベストが膵臓抽出液からインスリンを見出し、その臨床応用が1922年になされた。従って、長與又郎やKimmelstielらが報告した糖尿病症例に特徴的な腎病変は、糖尿病状態に伴う未治療・純粋な病理学医的変化であった。また、アルブミン尿の糖尿病性腎症における意義が報告された時代の治療内容は現在とは根本的に異なるのは言うまでもない(レニン・アンジオテンシン系〔RAS〕阻害薬以前の時代)。このように「尿」と「腎臓組織所見」に関しての歴史背景のもと、先人たちの手により糖尿病症例における腎臓合併症の診療・研究が確立されてきたが、もちろんこれらは血糖管理が十分になされていない1型糖尿病や未治療2型糖尿病などの観察から得られた情報が基軸となってきた。

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