3.糖尿病関連腎臓病における低栄養とその対策

  • 上殿英記 Uedono, Hideki
    大阪公立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学 病院講師
    森 克仁 Mori, Katsuhito
    大阪公立大学大学院医学研究科 腎臓病態内科学 准教授
公開日:2025年3月21日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(2): 0019./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(2): 0019.
https://doi.org/10.57554/2025-0019

はじめに

 糖尿病性腎症は、2011年に透析患者の主要原疾患の第一位となり、現在維持透析患者の約4割を占めるに至っている。さらに近年、典型的な糖尿病性腎症の臨床経過をたどらない症例を含めた糖尿病関連腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)という概念が提唱され話題を呼んでいる。糖尿病性腎症においては、腎症進行を抑制する目的でタンパク質の摂取制限が行われてきた。一方で社会の高齢化とともに、DKDを含む慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者におけるサルコペニア・フレイルが注目され、また進展したCKD・DKDでは特徴的な栄養障害であるprotein-energy wasting(PEW)も大きな問題となっている。従って、タンパク質摂取制限が望ましくない症例が増加している可能性がある。そのため、DKDの食事療法としては、腎機能と栄養状態の維持を両立させるためのプローチが求められている。本稿ではDKD進行予防のための食事療法やDKDにおける栄養障害、実際の食事療法の考え方について考える。

1.目標体重の目安

 DKDの食事療法の目的は、腎機能低下を抑制するとともに良好な代謝・栄養状態を維持することにより、(生命)予後を改善することにある。従来、1989年代に実施された職域健診において、異常所見が最も少ないBMIが22であるとする研究結果からこれを標準体重としてきた。しかしながら、BMIと死亡率との関係を検討した最近の研究では、アジア人において最も死亡率が低いBMIは、20~25であるとが示されている 1)。2型糖尿病においても、日本人では総死亡率が最も低いBMIは20~25の範囲であり、75歳以上の高齢者ではBMIが25以上でも死亡率の増加は認められていない 2, 3)。また、BMIが非肥満の範囲であっても、脂質異常症や高血圧などメタボリックシンドロームの症候を有する場合には、健康な非肥満者と比較して死亡率が明らかに高くなるが 4)、メタボリックシンドロームのない肥満者では、死亡率の増加が認められないことから 5)、BMIのみでは健康状態を十分に評価できないと言える。つまり、死亡率を考慮する場合、望ましいBMIは20~25の範囲とされ、BMI 22を一様に厳守しなければならない基準とするのは適切ではない。また、目標とする体重は患者の年齢や病態、身体活動量などに応じて個別化して設する必要があるため、日本糖尿病学会のコンセンサスステートメントでは以下のように目標体重の初期設定が提唱されている。

<目標体重(kg)の目安>

  • 65歳未満:[身長(m)]2×22
  • 65歳から74歳:[身長(m)]2×22~25
  • 75歳以上:[身長(m)]2×22~25

※75歳以上の後期高齢者では現体重に基づき、フレイル、(基本的)ADL低下、併発症、体組成、身長の短縮、摂食状況や代謝状態の評価を踏まえ、適宜判断する。

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