はじめに 甲状腺中毒症の鑑別は、甲状腺摂取率検査が施行できれば比較的容易であるが、施行できる施設は限られている。本稿では、甲状腺摂取率検査が施行できない状況下での鑑別の進め方、特にバセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別について解説する。甲状腺中毒症の治療に関しては、バセドウ病の抗甲状腺薬(ATD)による治療を中心に解説する。
はじめに ストレスは食欲や睡眠といった生理現象に大きな影響を与え、行動面での変化にもつながる。こうした生理応答や行動変容においては、ストレスによって脳内で分泌される神経ペプチドが重要な役割を果たしている。ここでは、①神経内分泌とは何か、②神経内分泌はどのように生理現象や行動を制御しているのか、③ストレスによる神経内分泌の変化はどのような生理応答・行動変容をもたらすのか、の3点について解説する。脳内で分泌される神経ペプチドは100種類を超えるが、ここでは、オレキシン、オキシトシン、バソプレシン、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)など視床下部の神経分泌細胞によって分泌されるいくつかの神経ペプチドに絞って説明する。
はじめに 甲状腺機能検査は、主に血清のTSH値と血清甲状腺ホルモン値、特に遊離T4(FT4)値によって評価される。病態によっては、遊離T3(FT3)値も有用な場合がある。血清TSH値や血清甲状腺ホルモン値の測定にはさまざまなキットが使用され、そのキットごとに使用する測定機器も異なる。それぞれのキットには特性があり、また種々の因子が測定値に影響を及ぼす。本稿では、主に最近の筆者らの研究から得られた結果をもとに、これらの因子について概説する。
Q&A編はこちら はじめに 近年、飽食の時代の到来ともにわが国でも肥満人口が増加し、内臓肥満を基盤に複数の生活習慣病が集積するメタボリックシンドローム(MetS)が予備群合わせて、成人男性の2人に1人、女性の5人に1人にのぼる 1)。国内外の疫学研究より、MetSの危険因子が重積するほど心血管病(CVD)リスクが上昇し、脳卒中、CVDや慢性腎臓病(CKD)の発症率が有意に高くなることが示された 2, 3)。糖尿病においても肥満が原因で発症する患者が急増していたため 4)、当院の糖尿病センターでは、2001年に「肥満・運動療法外来」を開設し、2004年以降は「肥満・メタボリック症候群外来」と改称して、22年にわたり、肥満を専門とした生活習慣病の診療を行ってきた。本稿では、22年来の多職種連携による肥満・メタボ診療の経験に基づいて、効果的な肥満治療の動機付けについて概説する。
はじめに 甲状腺疾患の特徴は、甲状腺腫と甲状腺機能異常に基づく多彩な症状を呈することである。表1は、種々の甲状腺疾患を甲状腺腫(びまん性または結節性)の有無と甲状腺機能によって分類したものである。それぞれの疾患の詳細は各論を参照されたい。
甲状腺疾患は内分泌疾患の中での頻度は高いものの、甲状腺ホルモン測定が一般血液検査に含まれない特殊検査であるため、疑って測定しない限りは診断に至りにくい現状がある。そこで、日常診療において甲状腺疾患の可能性を想起するために必要な基礎知識として、甲状腺疾患の頻度、甲状腺疾患を疑うべき症状、見逃さないポイントを京都医療センター 田上哲也先生に解説していただいた。次に、甲状腺機能検査を行った際の評価の注意点、性別や年齢別の評価、偽高値を疑うポイントを群馬大学 山田早耶香先生・堀口和彦先生・山田正信先生に最新の知見を交えてご紹介いただいた。 甲状腺ホルモンが過剰な状態は、全身にさまざまな症状を引き起こす。しかしその原因疾患によって治療法が異なる。教科書には鑑別診断における甲状腺摂取率検査(シンチグラフィ)の重要性が記載されている。しかし、本検査は実施が難しい施設が多いため、その観点から検査の組み立て方、治療法について田尻クリニック 濱田勝彦先生に紐解いていただいた。甲状腺ホルモンが不足する機能低下症についても、検査の組み立て方、原発性と中枢性甲状腺機能低下症、補充療法の仕方や治療の指標について長崎大学病院 中嶋遥美先生、放射線影響研究所 今泉美彩先生に項目を分けて提示いただいた。 頸部超音波にて甲状腺内に結節を認めた際には、対応に戸惑うことがあるかと思われる。甲状腺外科の立場から超音波検査での良悪性の判断、穿刺吸引細胞診を施行する基準、細胞診の実際、病理組織分類、手術適応について伊藤病院 北川 亘先生に図表豊富に指南していただいた。 甲状腺機能異常は妊娠可能年齢の女性に多いことから、妊娠との関連については診療ではよく尋ねられると思われる。甲状腺疾患を持つ女性における妊娠・出産での留意点について国立成育医療研究センター 荒田尚子先生にガイダンスをお願いした。 今回の特集は甲状腺疾患診療において第一線でご活躍の先生方に執筆いただいた。日々の診療に、実践的に活かせるエッセンスが詰まっている。日常の診療の中で甲状腺疾患を疑い、不安なく診断・治療へとつなげる一助になることを願ってやまない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 厚生労働省の2013年度から2017年度の調査 1)によると、SU薬(スルホニル尿素薬)、α-GI(α-glucosidase inhibitor:α-グルコシダーゼ阻害薬)、チアゾリジン薬の薬剤料は減少傾向であるが、BG薬(ビグアナイド薬)、速効型インスリン分泌促進薬、GLP-1受容体作動薬(Glucagon-like peptide-1受容体作動薬)、DPP-4阻害薬(選択的Dipeptidyl peptidase-4阻害薬)、 SGLT2阻害薬(選択的Sodium glucose cotransporter-2阻害薬)、糖尿病配合薬の薬剤料は、徐々に増加傾向である。そして2017年度の血糖降下薬の薬剤料 1)は総額4,271億円であり、その内訳は、DPP-4阻害薬が1,873億円、インスリン製剤が624億円、SGLT2阻害薬が493億円、配合薬が357億円、α-GIが259億円である。そして糖尿病市場規模の予測は、2022年度は6,810億円、2025年度は7,000億円を突破すると予測される 2)。 このような現状の糖尿病治療薬について、2022年12月の薬価基準収載品目リスト 3)を中心に、今回は糖尿病と合併症が適応の内服薬の種類や効能・効果 4, 5)、および薬剤の処方に係る診療報酬の算定 6~9)について概説する。各医薬品の詳細については、本誌の各特集などを参考にされたい。
Q&A編はこちら はじめに 骨粗鬆症治療の目的は、骨折を予防しQOLの維持・向上を目指すことにある。骨粗鬆症では一度骨折を起こすと次々と骨折を起こすようになるため、一次骨折(最初の脆弱性骨折)を予防することが肝要であるが、二次骨折(既存骨折がある患者で新たに起こった骨折)を予防することも重要である。 二次骨折を予防するための取り組みである骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は1990年代後半にイギリスで開始され、以降、世界の国々で発展している。日本では骨粗鬆症による脆弱性骨折防止のための取り組みとして骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が展開されているが、特に脆弱性骨折患者における二次骨折予防に対しては重点的な対策が必要であることから、2019年に「日本版 二次骨折予防のための骨折リエゾンサービス(FLS)クリニカルスタンダード」(FLSクリニカルスタンダード作成ワーキンググループ)が策定された。また、2022年4月の診療報酬改定では大腿骨近位部骨折患者の二次骨折予防に対する取り組みを評価した「二次性骨折予防継続管理料」が新設 1)されたことから、今後FLSに対する取り組みがより一層広がっていくと考えられる。 今回は、骨粗鬆症を治療する観点から各薬剤の特長・使用上の注意について再確認していくとともに、骨粗鬆症を予防する視点から骨粗鬆症のリスクや転倒のリスクとなる薬剤について紹介する。
はじめに 血清Ca濃度は、i)腸管からのCa吸収、ii)骨吸収によるCa動員、および iii)腎尿細管でのCa再吸収で規定され、共用基準範囲は8.8~10.1mg/dLである。このうち生理作用に関わるのは約50%を占める遊離イオン化Caだが、血清蛋白の影響を受けるため、アルブミン濃度が4.0mg/dL未満では以下のように補正して評価する。 補正Ca濃度(mg/dL)=実測Ca濃度(mg/dL)+〔4 -血清アルブミン濃度(g/dL)〕 軽度で緩徐な基準範囲の逸脱は気付かれないことが多い。一方、症状を伴う血清Caの異常値は適切な対応を必要とする緊急症である。
はじめに ナトリウムイオン(Na+)が細胞外液の主要な陽イオンであるのに対し、カリウムイオン(K+)は細胞内液の主要な陽イオンである。全身のK貯蔵量は約3,000mEq(50~75mEq/kg体重)であり、細胞内にはこの約98%が存在することになる。細胞内K濃度は約150mEq/L、また細胞外は約3.5~5.5mEq/Lであり、この濃度勾配が細胞の静止膜電位の最重要形成因子である 1)。これは細胞膜に存在するNa-K-ATPaseにより、能動的に細胞内へ2つのK+を取り込み、細胞外へ3つのNa+を放出することによって成立している。静止膜電位は正常な神経・筋の機能に不可欠な活動電位発生に寄与しており、細胞外K濃度が低くなると静止膜電位はより陰性になり(=過分極)、細胞外K濃度が高くなると静止膜電位は陰性が減弱する(=脱分極)。この変化に最も影響を受ける臓器は筋肉と心臓であり、低K血症と高K血症は共に麻痺、痙攣、あるいは致命的な不整脈を引き起こし得る。ここではその診断と緊急時の対応について述べることとする。
1.ポイント ・約90%は副腎に発生する褐色細胞腫、約10%は傍神経節に発生するパラガングリオーマである。・転移・再発の予測が極めて困難であり、転移の可能性がある腫瘍に分類されている。全例で生涯にわたる再発・転移の経過観察が必要である。・診断において、カテコールアミンと比べてカテコールアミン代謝産物であるメタネフリン・ノルメタネフリンの感度・特異度が高い。・転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ(pheochromocytoma/paraganglioma:PPGL)の根治治療はいまだ存在しない。カテコールアミン過剰症状のコントロール、無増悪生存期間の延長を目標として集学的治療を行う。
はじめに 血清ナトリウムの異常は最も頻度の高い電解質異常である。本稿では、低ナトリウム血症と高ナトリウム血症の病態、症状、鑑別診断、治療について、原因となる代表的な内分泌疾患とともに述べる。
はじめに 甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡は、甲状腺疾患(主にバセドウ病や橋本病)を基盤に発症する致死的な内分泌緊急症(死亡率は前者が約10%、後者が約30%)であり、的確な早期診断と迅速な集学的治療の開始が患者の生死を左右する。しかしながら、両緊急症の疫学的データの不足により、2005年ごろに診断基準や治療指針が国際的にも未確立であった経緯があり、日本甲状腺学会は両緊急症の診断基準と治療指針の作成を臨床重要課題に指定した(甲状腺クリーゼは日本内分泌学会でも指定)。甲状腺クリーゼは、全国疫学調査で収集した臨床データをもとに診断基準と治療指針が作成され、「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017」として刊行されている 1)。粘液水腫性昏睡は、日本甲状腺学会員を対象とした2008年の実態調査により収集した臨床データをもとに診断基準第3次案と治療指針案が作成・公表されている。両緊急症ともに死亡率が高く、緊急治療が必要な病態であるため、救急医・一般内科医・循環器内科医などの非甲状腺専門医が初期診療にあたるケースが多い。そのため、救急診療に携わる医療従事者は本症の診断や治療法についてよく理解しておくことが重要である。本稿では両緊急症の診断基準と治療指針を中心に概説する。
Q&A編はこちら 2023年7月31日に訂正した。訂正内容については、下記を参照されたい。https://practice.dm-rg.net/correction/0103_a0044 はじめに インスリン発見から100年の時を経て、近年のインスリン製剤やデバイスは著しい進化を遂げている。インスリン製剤やデバイスの組み合わせによって治療法にも選択肢が増え、1型糖尿病においてもオーダーメイド医療が意識されるようになってきた。血糖コントロールは、食事、運動量、ストレスなど、生活のすべてが影響する。患者のライフスタイルに合わせた治療法を提案するためには、インスリン製剤やデバイス類に精通し、それぞれのメリット・デメリットを把握しておく必要がある。本稿では、現在本邦で行うことのできる1型糖尿病の治療法についてデバイスを中心に述べる。
はじめに 副腎クリーゼ(急性副腎不全症)や褐色細胞腫クリーゼは、放置すれば致死的病態に至る内分泌性緊急症の代表的疾患である。副腎クリーゼではステロイドが急激に絶対的または相対的に欠乏することで循環障害やショックに至る。慢性副腎不全症患者に種々のストレス(感染、外傷など)が加わり、ステロイド需要量が増加した場合や膠原病、自己免疫疾患などで長期服用中のステロイド薬が不適切に減量・中止された場合の発症が多い 1)。ステロイド補充や投与の病歴聴取が診断の鍵となるが、症状が非特異的であるため、救急対応において診断に難渋する場合も少なくない。下垂体卒中は副腎クリーゼの成因の一つであり、下垂体腺腫の突然の出血や梗塞によってACTH、コルチゾールの急激な分泌低下をきたす 2)。一方、褐色細胞腫・パラガングリオーマは副腎髄質または副腎外傍神経節に存在するクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生性の神経内分泌腫瘍で、潜在的に転移性であることから、悪性腫瘍の取り扱いとなっている。薬剤、造影剤、食事、排尿など種々の要因によりカテコールアミンの急激な過剰分泌をきたし、顕著な高血圧(高血圧クリーゼ)や標的臓器障害が誘発される 3)。本稿ではこれらの病態と加療について概説する。
日曜日の昼下がり、突然、温泉に行きたくなる。福井に住んでいた三十数年前なら、夕陽が沈む時間を見計らって車を飛ばし、越前海岸の日帰り温泉「漁火(いさりび)」に向かっていたところだ。露天風呂にゆったりと浸かり、潮騒に耳を澄ませながら、夕陽が水平線に完全に沈むまで日本海の景色を堪能する。丸い太陽が水平線に隠れるほんの少し前には、オレンジ色の光が一瞬真横に広がって、今日一日への別れの挨拶のように見える。日が完全に沈んだ後の、海の碧と空の青との間に横たわる茜色のグラデーションも、太陽が退場した後の余韻として誠に相応しい幕引きだ。
はじめに 生理的条件下でヒトの血糖値(グルコース濃度)はおおむね70~130mg/dL程度の範囲に維持されている。中枢神経はグルコースをエネルギー源として利用し、肝臓や腎臓は糖新生を行い、神経系やホルモンを介して糖代謝恒常性が維持されている。低血糖はこの糖代謝恒常性維持機構に何らかの異常をきたすことで発生する。すなわち低血糖症を見つけ、原因を追究することはその背景にあるさまざまな疾患を診断・治療する契機にもなり得る。本稿では低血糖症を病因別にまとめ、外来や病棟での鑑別、緊急時の対応方法を概説する。
はじめに 糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)と高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)は高度のインスリン作用不足と脱水を背景によって生じる糖尿病の急性合併症で、救急外来でしばしば遭遇する。また、乳酸アシドーシスはビグアナイド薬の副作用として知られており、まれではあるが致死率の高い疾患である。本稿ではこれらの病態と、診断・治療について解説する。
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