≪Ⅱ 臨床現場におけるスポーツとホルモン≫ 4.糖尿病、特に1型糖尿病患者におけるスポーツの楽しさと低血糖との関連

  • 前田泰孝 Maeda, Yasutaka
    医療法人南昌江内科クリニック/一般社団法人南糖尿病臨床研究センター センター長
公開日:2024年6月25日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(3): 0041./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(3): 0041.
https://doi.org/10.57554/2024-0041

はじめに

 糖尿病患者、とりわけ1型糖尿病を持つ者が直面する課題として、スポーツと低血糖との関係は重要である。1型糖尿病を持つ者は日々、インスリンの自己管理を行いながら生活しており、適度な運動は健康維持に不可欠であると同時に、低血糖のリスクを高める要因でもある。このような背景から、インスリン治療を受けている患者がスポーツを安全に楽しむための方法を個別に設定することが、臨床医や医療スタッフにとっての大きな目標となっている。本稿では、特に持続血糖モニター(CGM)を用いた低血糖予防策に焦点を当て、1型糖尿病患者がスポーツを安全に楽しむための具体的な方法を探求する。

1.1型糖尿病を持つアスリートの活躍とアドボカシー活動

 1型糖尿病を持ちながらも、各スポーツ界で活躍するアスリートたちのエピソードは、多くの人々にとって大きな勇気と希望の源である。彼らは、日々の血糖管理の中でスポーツに情熱を注ぎ、トレーニングを通して自らの限界を超えることができるという可能性を示してくれる。元阪神タイガース投手の岩田稔氏は、プロ野球界で活躍した1型糖尿病のアスリートである 1)。岩田氏は、1型糖尿病の診断後も、プロ野球選手としてのキャリアを諦めず、病気と向き合いながらプレーを続けた。試合前に血糖値をチェックし、試合中も常に血糖値を意識しながらマウンドに立っていたそうだ。引退後は、さまざまな方の希望になるべく、株式会社 Family Design Mを立ち上げ、各種メディアへの出演を通して、あるいは患者向けのセミナーや学会の市民公開講座などで、自身の豊富な経験を発信している。また、エアロビクスの元ジュニア世界チャンピオンである大村詠一氏も1型アスリートである 2) 。大村氏は、8歳で1型糖尿病を発症し、思春期に血糖管理に大変な苦労をしながらも粘り強く競技生活を続け、ついにはエアロビクスにおける高度な技術と芸術性を体現した。今でもエアロビクス競技の普及と競技レベルの向上に努めながら、患者教育・支援活動に従事し、八面六臂の活躍を見せている。この二人の著書は、病気を抱えながらも自分の限界を超えることのできる強い心を持つことの重要性を教えてくれる。さらに、彼らは互いに協力して患者交流イベントを日本全国で展開しているのでぜひ応援したい。
 日本糖尿病協会もアドボカシー活動として運動の重要性に着目している。当院の南昌江院長によって創設された協会公式のマラソンチーム「Team Diabetes Japan」は、患者とその支援者たちが一緒にマラソンを走ることで、1型糖尿病の認知度を高め、同じ病を持つ人々へ元気を届ける活動を長年行っている。最近、同協会が糖尿病治療における運動療法の重要性の啓発、普及に貢献した者に授与する「南昌江賞」が設立され、運動を通して社会に啓発を行う機運がますます高まっている。

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