≪Ⅱ 臨床現場におけるスポーツとホルモン≫ 2.男性ホルモンとスポーツ
https://doi.org/10.57554/2024-0039
はじめに
過度で持続的な運動は視床下部~下垂体~性腺系を抑制し性腺機能低下症を引き起こす可能性があり、女性アスリートにおいては無月経の原因となる。無月経に加えて、骨密度の低下、摂食障害を合わせて女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad:Triad)として報告されている 1)。しかし、男性アスリートにおける精巣機能の変化については十分明らかにされてはいない。一方、市民レベルでジョギングなどの有酸素運動や筋肉トレーニングは血中テストステロン上昇につながることも報告されている 2)。
本稿では男性ホルモンとその作用、男性ホルモン低下により出現する症状、運動による男性ホルモン低下、男性ホルモン補充療法のエビデンスなどについて概説する。
1.男性ホルモンの産生と生理作用
男性ホルモンのほとんどはテストステロンであり、主に精巣の間質にあるLeydig細胞で産生される。血中においてテストステロンは、性ホルモン結合グロブリン(sex-hormone binding globulin:SHBG)結合型(35~75%)、アルブミン結合型(25~65%)、遊離型(1~2%)と3つの型に分かれるが、アルブミン結合型と遊離型テストステロンが生物活性を有する。加齢によってSHBGが漸増するので、生物学的活性テストステロンは相対的に減少する。
テストステロンの生理作用は全身の多臓器に及ぶ。2次性徴における陰茎増大、前立腺の発育による精液産生、精巣での精子形成促進、声帯成長に伴う変声、陰毛・髭・腋毛など全身の体毛増加などがある。骨に対しては骨形成促進、骨吸収抑制の両面の作用があるとされている。骨髄での赤血球産生刺激作用もある。蛋白同化ステロイドとして筋肉量の増加作用がある。代謝に関してはインスリン抵抗性改善や糖代謝改善 3)、総コレステロールと中性脂肪の低下が報告されている 4)。