Q&A編はこちら はじめに 1型糖尿病ではインスリンを分泌する膵β細胞が壊されてしまうことによりインスリンが分泌されなくなる。したがって、インスリンを補いさえすれば、1型糖尿病のない人と変わらない生活を送ることができるといわれている。しかし、適切にインスリンを補うことが簡単ではない。一人一人の生活、活動、食事の好み、体調、ライフイベント、また経済的状況などに合わせて、十人十色の血糖管理の方法がある。一人一人にベストな方法を見つけて、1型糖尿病のない人と変わらない人生を目指して、患者さんと共に取り組みたいと考える。
はじめに インクレチンは、栄養素の経口摂取に伴い消化管の腸内分泌細胞から血中に分泌され、膵β細胞に作用し、インスリン分泌を増強するホルモンの総称である。グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide:GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)は生体で主要なインクレチンであることが示され、GIPとGLP-1は血糖値が一定以上の際にのみインスリン分泌増強作用を示すことから、2型糖尿病の治療標的として注目され、2009年からGLP-1シグナルを増強する薬剤が2型糖尿病の治療薬として世界中で広く用いられている。本稿ではGIPとGLP-1の膵β細胞への作用、生理的作用、そして分泌の分子機構について触れ、代謝内分泌疾患との関連も述べたい。
はじめに “肥満症”とは、BMI≧25の“肥満”のうち、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合(内臓脂肪型肥満)で、医学的に減量を必要とする病態をいい、疾患単位として取り扱う(表1) 1)。また肥満症のうち、BMI≧35を高度肥満症とし明確に区別する。疾病側からみればその成因はさまざまであるが、肥満・内臓脂肪蓄積がその基盤にある病態とそうでないものを区別し合併症検索を行っていくとともに、肥満症では減量指導を第一に治療介入する意義を明確にすることが重要である。肥満症においては、食事・運動・行動療法を基本とした減量・内臓脂肪減少による健康障害の包括的な改善を目指すことを第一とするが、それらに抵抗性を示す主に高度肥満症例に対し、薬物治療や外科治療が考慮される。25≦BMI<35の肥満症の場合は、3~6カ月で現体重の3%以上の、BMI≧35の高度肥満症では現体重の5%以上の減量を目指す(図1) 1)。
三年以上にわたる新型コロナウイルス感染症との戦いも2023年5月に分類の5類移行に伴って、一つの区切りを迎え、今後、われわれは新型コロナ感染症と共存するニューノーマル時代を迎え、新たな医療の創造が求められている。このコロナのパンデミックの中でその重症化リスクとして肥満の危険性が明らかになり、コロナ以前からすでにパンデミックであった肥満の防止・治療の重要性が再認識された。 日本は世界に先駆けて肥満を病気として扱う肥満症という概念を提唱し、その治療に積極的に取り組んできたが、肥満をもたらす病態は複雑であり、基本治療である栄養・運動療法だけでは減量が困難な例も多い現状であったが、このような中、新たな肥満症治療薬の登場により、肥満症治療は急展開をしており、加えて、減量手術として始まった肥満外科治療(減量・代謝改善手術)は広く糖代謝を含めた代謝改善作用を認め、睡眠時無呼吸症候群、肥満関連がんの予防、NASH関連疾患などへの有用性も次々と明らかになっている。加えて、肥満症の治療に弊害となる肥満スティグマの問題や肥満患者に寄り添うための心理状態の理解も注目を集めており、これらの英知を集めた統合的な肥満症診療が今求められている。 本特集ではこれらの肥満症診療の進歩に焦点を当てて、薬物治療については臨床応用が進んでいるGLP-1受容体作動薬関連ペプチドについて、西澤 均先生・下村伊一郎先生に、さらに今後の肥満症治療薬の進歩・展開について廣田勇士先生に解説いただいた。また、肥満外科治療について最新の臨床応用を龍野が解説し、加えて、肥満外科治療として進歩の著しい内視鏡治療について伊藤 守先生・炭山和毅先生に解説いただいた。そして、最後に肥満症患者の心理状態と肥満スティグマについて野崎剛弘先生・澤本良子先生・小牧 元先生に解説いただいている。 本特集の執筆陣はこの分野に広範な経験と知識を有する専門家の方々であり、ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、今回の特集によって読者諸賢の理解が深まり、それによって得られたものを臨床の現場にフィードバックしていただければ、企画者としてこのうえない喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:小川 渉;講演料(住友ファーマ、アボットジャパン、日本ベーリンガーインゲルハイム、ノボ ノルディスク ファーマ)、研究費・助成金(住友ファーマ、帝人ファーマ、日本イーライリリー)、奨学(奨励)寄附(住友ファーマ、武田薬品工業、帝人ファーマ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 糖尿病とその関連疾患に係る検査については、2年ごとの診療報酬改定の際に改定内容を概説してきた。今回は、2022年度の診療報酬改定に従い、「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示)」 1)、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」 2)、および「特掲診療料の施設基準等およびその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)」 3)、これらをもとに、糖尿病とその関連疾患が適応となる検査 4, 5)を、前編・後編に分けて概説する。前編では、検査の通則、検体検査判断料と検体検査管理加算、および検体検査の各項目について、後編では、呼吸循環機能検査、脳波検査、監視装置による諸検査、神経・筋検査、眼科学的検査、負荷試験および画像診断について概説する。各検査の医学的意義については、本誌の各特集などを参考にされたい。
はじめに 甲状腺ホルモンは妊娠の成立、胎児の発達や成長、妊娠維持に必須となるホルモンのため、母体甲状腺機能を妊娠早期から管理することは非常に重要な意味を持つ。未治療やコントロールの困難なバセドウ病の甲状腺機能亢進症の場合には、流早産、死産、妊娠高血圧症候群、心不全や甲状腺クリーゼの発症や低出生体重児出産や新生児甲状腺機能異常発症のリスクが一般妊婦に比較して高く、未治療の甲状腺機能低下症も流早産、妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離、低出生体重児、分娩後出血などの原因となる。これらのリスクは、妊娠前から妊娠中に適切な治療を行うことで軽減することが可能となる。また、潜在性甲状腺機能低下症であっても、妊孕性、流産や早産、妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群の発症、さらには児の精神発達への影響の可能性も報告されているが、レボチロキシン治療によってそれらが改善するかどうかは明らかではない。
はじめに 臨床的に遭遇する甲状腺腫瘍の大部分は良性腫瘍であり、圧迫症状や甲状腺機能亢進症を呈さない限り、治療の必要はほとんどない。外来診療でのポイントは治療を要する甲状腺癌を見落とさないことである。これには超音波検査と穿刺吸引超音波検査が極めて有用である。甲状腺癌の約90%を占める乳頭癌はほぼ診断可能であるが、濾胞癌を診断することは難しい。
1.ポイント 骨折リスクの高い患者に対しては、骨粗鬆症治療薬の有効性評価を参考にするなど、骨折抑制効果が認められている治療薬を選択する。 骨粗鬆症の診断基準とは別に治療開始基準が定められており、骨粗鬆症性骨折リスクが高い場合には骨折予防を目的とする薬物治療の対象とする。 副甲状腺ホルモン製剤、抗RANKL抗体製剤、抗スクレロスチン抗体製剤を含め、わが国における骨粗鬆症治療薬の種類も増えてきている。 今後、わが国における高齢者や男性を含めた骨粗鬆症薬物治療のさらなるエビデンス構築が期待される。
Q&A編はこちら はじめに 二次性高血圧は特定の原因による高血圧であり、本態性高血圧とは病態や治療方針が全く異なるため適切に診断することが極めて重要である。二次性高血圧の有病率は以前考えられていたよりも高く、少なく見積もっても高血圧全体の10%以上が二次性高血圧であるとされる 1, 2)。特に原発性アルドステロン症は近年診断数が増加しており、高血圧患者の5~10%前後との報告もあるため念頭に置く必要がある。本稿ではどのような症例で二次性高血圧を疑うかについて、自験例を提示しながら解説する。また、近年新しくなった原発性アルドステロン症のスクリーニング、診断方法についても概説する。
第41代アメリカ合衆国大統領を務めたジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ、いわゆるパパ・ブッシュ(図)は1924年6月12日マサチューセッツ州に生まれた。その父のプレスコット・ブッシュは裕福な実業家で、後に上院議員に選出される。家系をさかのぼればイギリス王室にいきあたるような名門であった。ブッシュは私立の有名高校在学中に兵役につき海軍で最も若いパイロットとなる。日本軍の砲撃を受けパラシュートで洋上に脱出し味方の潜水艦に救出された経験もある。復員しイェール大学に入学する直前、バーバラ・ピアースと結婚した。卒業後はテキサス州に移り、石油で富を築くと政界に進出、1964年の上院議員選挙は落選したが、2年後に下院議員に選出された。その後、国連大使、CIA(中央情報局)長官を経て、1980年の大統領選では予備選でレーガンに敗れたものの副大統領に指名され、1988年よりアメリカ大統領となった 1, 2)。
はじめに 甲状腺ホルモンの作用は「代謝の亢進」であり、全身の諸臓器に作用する。甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの作用が不足している状態であり、臨床症状として、全身倦怠感、無気力、動作緩慢、耐寒性の低下、傾眠、体重増加、浮腫、便秘、嗄声、徐脈などを呈する。甲状腺ホルモンは視床下部-下垂体-甲状腺系により制御され、障害部位によって甲状腺におけるホルモン産生・分泌障害に起因する原発性甲状腺機能低下症と、視床下部・下垂体障害による中枢性甲状腺機能低下症に大別される。また重症度により顕性と潜在性に分類され、潜在性甲状腺機能低下症を含めると人口のおよそ10%を占める頻度の高い疾患である。多くは慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症だが、病型や患者背景によって治療目標や治療上の注意点が異なるため、鑑別診断が重要である。
はじめに 甲状腺中毒症の鑑別は、甲状腺摂取率検査が施行できれば比較的容易であるが、施行できる施設は限られている。本稿では、甲状腺摂取率検査が施行できない状況下での鑑別の進め方、特にバセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別について解説する。甲状腺中毒症の治療に関しては、バセドウ病の抗甲状腺薬(ATD)による治療を中心に解説する。
はじめに ストレスは食欲や睡眠といった生理現象に大きな影響を与え、行動面での変化にもつながる。こうした生理応答や行動変容においては、ストレスによって脳内で分泌される神経ペプチドが重要な役割を果たしている。ここでは、①神経内分泌とは何か、②神経内分泌はどのように生理現象や行動を制御しているのか、③ストレスによる神経内分泌の変化はどのような生理応答・行動変容をもたらすのか、の3点について解説する。脳内で分泌される神経ペプチドは100種類を超えるが、ここでは、オレキシン、オキシトシン、バソプレシン、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)など視床下部の神経分泌細胞によって分泌されるいくつかの神経ペプチドに絞って説明する。
はじめに 甲状腺機能検査は、主に血清のTSH値と血清甲状腺ホルモン値、特に遊離T4(FT4)値によって評価される。病態によっては、遊離T3(FT3)値も有用な場合がある。血清TSH値や血清甲状腺ホルモン値の測定にはさまざまなキットが使用され、そのキットごとに使用する測定機器も異なる。それぞれのキットには特性があり、また種々の因子が測定値に影響を及ぼす。本稿では、主に最近の筆者らの研究から得られた結果をもとに、これらの因子について概説する。
Q&A編はこちら はじめに 近年、飽食の時代の到来ともにわが国でも肥満人口が増加し、内臓肥満を基盤に複数の生活習慣病が集積するメタボリックシンドローム(MetS)が予備群合わせて、成人男性の2人に1人、女性の5人に1人にのぼる 1)。国内外の疫学研究より、MetSの危険因子が重積するほど心血管病(CVD)リスクが上昇し、脳卒中、CVDや慢性腎臓病(CKD)の発症率が有意に高くなることが示された 2, 3)。糖尿病においても肥満が原因で発症する患者が急増していたため 4)、当院の糖尿病センターでは、2001年に「肥満・運動療法外来」を開設し、2004年以降は「肥満・メタボリック症候群外来」と改称して、22年にわたり、肥満を専門とした生活習慣病の診療を行ってきた。本稿では、22年来の多職種連携による肥満・メタボ診療の経験に基づいて、効果的な肥満治療の動機付けについて概説する。
はじめに 甲状腺疾患の特徴は、甲状腺腫と甲状腺機能異常に基づく多彩な症状を呈することである。表1は、種々の甲状腺疾患を甲状腺腫(びまん性または結節性)の有無と甲状腺機能によって分類したものである。それぞれの疾患の詳細は各論を参照されたい。
甲状腺疾患は内分泌疾患の中での頻度は高いものの、甲状腺ホルモン測定が一般血液検査に含まれない特殊検査であるため、疑って測定しない限りは診断に至りにくい現状がある。そこで、日常診療において甲状腺疾患の可能性を想起するために必要な基礎知識として、甲状腺疾患の頻度、甲状腺疾患を疑うべき症状、見逃さないポイントを京都医療センター 田上哲也先生に解説していただいた。次に、甲状腺機能検査を行った際の評価の注意点、性別や年齢別の評価、偽高値を疑うポイントを群馬大学 山田早耶香先生・堀口和彦先生・山田正信先生に最新の知見を交えてご紹介いただいた。 甲状腺ホルモンが過剰な状態は、全身にさまざまな症状を引き起こす。しかしその原因疾患によって治療法が異なる。教科書には鑑別診断における甲状腺摂取率検査(シンチグラフィ)の重要性が記載されている。しかし、本検査は実施が難しい施設が多いため、その観点から検査の組み立て方、治療法について田尻クリニック 濱田勝彦先生に紐解いていただいた。甲状腺ホルモンが不足する機能低下症についても、検査の組み立て方、原発性と中枢性甲状腺機能低下症、補充療法の仕方や治療の指標について長崎大学病院 中嶋遥美先生、放射線影響研究所 今泉美彩先生に項目を分けて提示いただいた。 頸部超音波にて甲状腺内に結節を認めた際には、対応に戸惑うことがあるかと思われる。甲状腺外科の立場から超音波検査での良悪性の判断、穿刺吸引細胞診を施行する基準、細胞診の実際、病理組織分類、手術適応について伊藤病院 北川 亘先生に図表豊富に指南していただいた。 甲状腺機能異常は妊娠可能年齢の女性に多いことから、妊娠との関連については診療ではよく尋ねられると思われる。甲状腺疾患を持つ女性における妊娠・出産での留意点について国立成育医療研究センター 荒田尚子先生にガイダンスをお願いした。 今回の特集は甲状腺疾患診療において第一線でご活躍の先生方に執筆いただいた。日々の診療に、実践的に活かせるエッセンスが詰まっている。日常の診療の中で甲状腺疾患を疑い、不安なく診断・治療へとつなげる一助になることを願ってやまない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 厚生労働省の2013年度から2017年度の調査 1)によると、SU薬(スルホニル尿素薬)、α-GI(α-glucosidase inhibitor:α-グルコシダーゼ阻害薬)、チアゾリジン薬の薬剤料は減少傾向であるが、BG薬(ビグアナイド薬)、速効型インスリン分泌促進薬、GLP-1受容体作動薬(Glucagon-like peptide-1受容体作動薬)、DPP-4阻害薬(選択的Dipeptidyl peptidase-4阻害薬)、 SGLT2阻害薬(選択的Sodium glucose cotransporter-2阻害薬)、糖尿病配合薬の薬剤料は、徐々に増加傾向である。そして2017年度の血糖降下薬の薬剤料 1)は総額4,271億円であり、その内訳は、DPP-4阻害薬が1,873億円、インスリン製剤が624億円、SGLT2阻害薬が493億円、配合薬が357億円、α-GIが259億円である。そして糖尿病市場規模の予測は、2022年度は6,810億円、2025年度は7,000億円を突破すると予測される 2)。 このような現状の糖尿病治療薬について、2022年12月の薬価基準収載品目リスト 3)を中心に、今回は糖尿病と合併症が適応の内服薬の種類や効能・効果 4, 5)、および薬剤の処方に係る診療報酬の算定 6~9)について概説する。各医薬品の詳細については、本誌の各特集などを参考にされたい。
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