内科診療において最も現場感覚を要するものが緊急時の対応であろう。糖尿病・内分泌疾患の臨床もその例に漏れないことは言を俟たない。したがって、そのような状況では、十分な経験を有することがまさしく円滑な治療に繋がるが、『糖尿病・内分泌プラクティスWeb』の今号の特集では、若手医師にとっては実体験を補完するものとして、そしてベテランの医師にとってはご自身の臨床を振り返りつつ新たな視点を加えるものとして、身近にご活用いただける企画になっているものと確信している。 本特集では、冒頭、勝山修行先生に、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖状態、さらには乳酸アシドーシスについて、手際よく具体的におまとめいただき、次いで、山田穂高先生には、低血糖症の病態と具体的な対応策について、広い視野に基づいて詳述していただいている。 さらに、内分泌領域では、柳瀬敏彦先生に、放置すれば死に至る、内分泌性緊急症の代表的な疾患である副腎クリーゼと褐色細胞腫クリーゼについて、深いご経験から敷衍していただき、就中、急性副腎クリーゼの原因疾患の一つである下垂体卒中についても別項立てで取り上げていただいた。また、田中祐司先生ほかの先生方には、同じく致命率の高い甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡について、最近のガイドラインや診断基準を踏まえてシステマティックに論考していただいている。 後半では、電解質異常について、まずは宮田 崇先生と有馬 寛先生に、臨床上高頻度に緊急症を来しうる血清ナトリウム異常について、その病態、症状、鑑別診断、治療について代表的な原因疾患とともにご解説いただき、次いで、菱田吉明先生と曽根正勝先生には、ともに麻痺、痙攣、致命的な不整脈などを引き起こしうる高、低カリウム血症について、体内のカリウム調節機構から緊急時の対応まで、実際に即して展開していただいた。そして最後に、山本昌弘先生には、高、低カルシウム血症について、その症候と病態生理、鑑別診断から、さらには具体的な治療に至るまで、具体的に描出していただいた。 本特集の執筆陣は、その分野に広範な経験と知識を有する専門家の方々である。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、今回の特集によって読者諸賢の理解が深まり、それによって得られたものを臨床の現場にフィードバックしていただければ、企画者としてこのうえない喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 酸塩基平衡は必須の知識でありながら、かなり難しく考えられているように思われる。若い医師たちを見ていると、血液ガス解釈のテクニックを習得することだけに満足してしまっていたり、診断や治療のアルゴリズムに盲目的に従うだけで、患者を背景とした病態に思いが至っていない状況も多く経験する。
はじめに 糖尿病治療に用いられる注射薬は、インスリン製剤、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬および配合注射薬に分けられる。自己注射に対する指導管理は「C101在宅自己注射指導管理料」で算定し、注射薬は「薬価基準」、注入器は「C151注入器加算」、注射針は「C153注入器用注射針加算」、血糖測定やインスリン注入に関しては「C150血糖自己測定器加算」、「C152間歇注入シリンジポンプ加算」および「C152-2持続血糖測定器加算」で算定する。そして注射薬の投与に用いられる特定医療保険材料は所定点数に含まれ、医療機器は医療機関などからの給付・貸与となり、注射薬に係る算定については複雑である。 よって今回は、2022年4月の診療報酬改定および12月適用の薬価基準 1)を中心に、自己注射に係る注射薬と特定医療保険材料について概説する。なお、2022年12月21日の中央社会保険医療協議会によると、2023年度薬価改定では、国⺠負担軽減の観点から、平均乖離率♯7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目が改定の対象となる 2)。 ♯平均乖離率とは、{(現行薬価×販売数量)の総和-(実販売単価×販売数量)の総和}/(現行薬価×販売数量)の総和で計算される数値をいう。
はじめに 超高齢社会の進行とともに原発性骨粗鬆症による脆弱性骨折の発生が、健康寿命の延伸にとり大きな足かせとなっている。特に一度臨床的骨折を発症した患者は、再骨折の発生率が高く、骨折直後からの治療介入が極めて重要である。しかしながら、骨折後の治療率が低いことが世界的な問題となっており、新しい診療支援の取り組みが必要となってきた。海外で始まった骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は、まさに骨折直後の診療支援を推進するものであるが、わが国ではさらに一次予防や社会啓発も含めた骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が日本骨粗鬆症学会により策定された 1)。令和4年4月の診療報酬改定では、手術を行った大腿骨近位部骨折患者に対するFLSに対して、新しく二次性骨折予防継続管理料が設けられ、OLS活動の一部が経済的な担保を得られるようになった 2)。
1.ポイント ・高LDL-C血症は動脈硬化リスクとなる。特に遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)はリスクが高く見逃さないように気をつける。・LDL-C低下薬は動脈硬化リスクを軽減する。動脈硬化リスクが高いほど、LDL-Cの管理目標値を低く設定して治療する(the lower, the better)。・まず内服薬をエビデンスの順に(スタチン>小腸コレステロールトランスポーター阻害薬[エゼチミブ]>陰イオン交換樹脂[レジン])適宜組み合わせて使用し、内服でも管理目標値に達しなければPCSK9阻害薬を用いる。・二次予防の場合など、速やかなLDL-C低下が望ましい場合は、スタチンに加えて早期のPCSK9阻害薬の導入を検討する。・高LDL-C血症の動脈硬化リスクは、LDL-C値が高いほど、またその期間が長いほど高くなる(cholesterol x years risk:生涯コレステロールリスク)。どのくらい下げるか、とともに、いつから下げるか、いかに早期に診断し治療を進めるか、が大切である(the lower, the earlier, the better)。
Q&A編はこちら はじめに 低Na血症は、日常臨床において最も遭遇する頻度の高い電解質異常である。高度な急性低Na血症は種々の神経学的症状をきたし、致死的なこともある。一方、慢性的な低Na血症は転倒や骨折、骨粗鬆症、認知機能低下などさまざまな病的状態に関連する。低Na血症の症状は基本的に低浸透圧血症による。実臨床においては、診断がつかないままに放置されている低Na血症や鑑別に難渋する例が少なくない。本稿では基本事項として血漿浸透圧についての再確認と、低Na血症の診断・治療について実際の症例を提示しながら考えていきたい。
1.薬物療法の開始基準 骨粗鬆症の治療の目標は、合併症としての脆弱性骨折を防ぐことである。では、骨粗鬆症の薬物療法はいつから開始すべきなのだろうか。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」には、原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準が定められている 1)。まず、大腿骨近位部骨折または椎体骨折の脆弱性骨折がある場合には、骨密度に関係なく骨粗鬆症として薬物療法の開始が推奨されている。肋骨や骨盤(恥骨、坐骨、仙骨を含む)、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨に脆弱性骨折がある場合には、骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)の80%未満で薬物療法を開始する。脆弱性骨折がない場合は、骨密度がYAMの70%以下あるいはTスコアー2.5以下で薬物療法を開始する。骨密度がYAMの70%より大きく80%未満の場合についても、大腿骨近位部骨折の家族歴がある場合、あるいはFRAX®の10年間の骨折確率(主要骨折)15%以上の場合には、薬物療法の開始が推奨される。これらに加えて、「生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド2019年版」においては、試案ではあるものの、2型糖尿病、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)で骨折リスクが高いと判断される場合には、薬物療法の開始が推奨されている 2)。ちなみに、2型糖尿病では、罹病歴10年以上、HbA1c 7.5%以上、インスリン使用、閉経後女性チアゾリジン使用、喫煙、重症低血糖が危惧される薬剤の使用、転倒リスクが高い場合を骨折リスクが高い状態と考える。
はじめに 多くの高齢者は何らかの疾患を持っていて、内科医を受診することが多い。骨粗鬆症は高齢者に頻度が高く、それに起因する骨折はADL、QOLを損ない、要支援・要介護の主要な原因の一つになっている。しかし骨粗鬆症は、症状がなく日常的に受診していても見逃されやすく、薬物治療率は骨粗鬆症女性患者の約30%程度と低率である。 65歳以上の人口割合が29%に達した超高齢社会において、潜在的な骨粗鬆症・骨折の危険性が高い患者を判別して、骨粗鬆症の診断・骨折リスクの評価から、薬物治療介入へつなげることは大切である。
はじめに 脳や末梢臓器では、食欲亢進または食欲抑制作用を持つ多数の物質が産生され、神経回路網や血流を介してその情報が伝達される。減量を成功させるためには、適正な摂食行動ならびに食事の量や質が、必要となる。摂食調節機構の解明や、その知見を応用した治療法の開発が重要である。摂食調節と内分泌疾患との関連を学び直すために、視床下部を取り上げる。この分野の基礎研究は大きく進歩しており、顕著な減量効果を示す薬剤も開発されている 1)。摂食調節研究に関する近年の知見も紹介し、またわが国でも処方が期待される食欲制御薬の機序について言及する。
後に第35代アメリカ合衆国大統領となるジョン・フィッツジェラルド・ケネディ(図)は、1917年5月29日ブルックリンに生まれた。曽祖父がアイルランドからアメリカに移民し、祖父のパトリック・ジョセフ・ケネディが実業家、政治家として成功したため裕福な家庭であった。ジョンは次男であっため長男ほどの大騒ぎはされなかったが、誕生がボストンの新聞にお披露目された 1, 2)。ケネディは幼少期に気管支炎、水疱瘡、風疹、麻疹、おたふく風邪、猩紅熱、百日咳にかかり、ベッドでの生活が長かった。3歳前にかかった猩紅熱は重篤で2カ月の入院と2週間の療養を要した 2)。10代になっても病気がちで、チョート校に入学後も風邪などで入退院を繰り返している 1)。
はじめに 糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(quality of life:QOL)を保つことである。そのためにはさまざまな合併症の予防が重要であり、これを実現するためには、血糖のみならず、血圧や脂質なども含めた統合的な治療が求められる。近年では加えて、糖尿病で認めることの多い併存症にも配慮する必要性が指摘されており 1)、骨粗鬆症や骨折もその中に含めて捉えるべきと考えられる。 本稿では糖尿病と骨粗鬆症・骨折の関連について概説するとともに、われわれが進めてきた臨床試験のサブ解析の結果を紹介しながら、日常臨床においてどのようにアプローチをすべきか考えていきたい。
前編 医師の立場から Q&A編はこちら はじめに 糖尿病の合併症が進行した患者の足病変は、チーム医療なくしては下肢切断を回避できない。順天堂医院「足の疾患センター」のような多職種が参加したチーム医療で関わることが望ましいが、多職種でのチーム医療を単一の医療機関で実施できない施設もあると思われる。特に足病変発生リスクが高い透析病院においては、他の医療機関と連携することが必須だと思われる。これは筆者の所属する大学病院においても例外ではなく、足病変予防期間、治療後の再発予防期間の管理をする医療機関なくしては足病医療の実施は不可能であり、医療機関を超えたチーム医療が必要となる。日本の医療制度は病院の機能分化を推進しており、地域全体でチーム医療を行っていくという考え方が必要だと思われる 1)。
はじめに 1991年にコペンハーゲンで開催された骨粗鬆症のコンセンサス会議にて、骨粗鬆症は「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患」と定義された 1)。遺伝的素因、生活環境、閉経および加齢以外に明らかな原因疾患を特定できない骨粗鬆症を「原発性骨粗鬆症」と診断するのに対し、骨量や骨質の低下を来す背景疾患を認める病態を「続発性骨粗鬆症」と区別する。一般的に続発性骨粗鬆症を来す病態では、骨形成と骨吸収のバランスが破綻し、骨密度の明らかな低下がなくても骨質の劣化により骨折リスクは上昇していることが多い。骨粗鬆症の患者の中で、閉経後女性の30%、男性の50~80%が続発性骨粗鬆症と推定されるが、続発性骨粗鬆症の管理における原則は、原疾患の治療と原因薬物の減量ないしは中止である。そのため、適切なマネジメントを行う上で病態の評価は不可欠である。
後編 医療スタッフの立場から はじめに 糖尿病の足病変は、無症候性から不可避的な切断を伴う致命的な難治性潰瘍までさまざまである。主な病因は虚血、神経障害、および感染症であり、外傷、末梢浮腫、足の変形が加わると、糖尿病性足潰瘍の切断のリスクがさらに高まる可能性がある。単一診療科では治療困難であり、多職種、複数科がそれぞれの専門の知識を統合し、足病変から生じる症状を一つずつ順番に管理・解決して、予防から治療までチームで取り組む必要がある 1)。
はじめに 骨粗鬆症は骨強度の低下により脆弱性骨折を来す症候群である。一般に骨強度は約70%が骨密度で、残りの約30%が骨質で規定されると考えられている。原発性骨粗鬆症は加齢依存性の疾患であり、高齢者に多い。どのようにして加齢が骨密度低下および骨質劣化をもたらすのか?本稿では主に内分泌代謝の視点からその病態を概説する。
骨粗鬆症は高齢者の骨折の原因である。一方で、適切に骨粗鬆症を治療することにより骨折を減らせることが実証されている。高齢者の骨折予防は喫緊の社会的課題であり、医療の最前線を担う多くの内科医が果たすべき役割は大きい。内科医は生活習慣への介入と薬物療法を中心にして治療にあたることから、疾患を病態から診ることが習慣となっている。そのため、骨粗鬆症の診療にあたっても、その病態をしっかりと理解することによって、初めて、自信を持って骨折予防という目的を見据えた治療に臨むことができる。しかしながら、骨折予防は薬剤による骨粗鬆症治療で完結するものではなく、骨に大きな外力が及ぶことを予防することも必要である。そのためには、適切な運動および食事の指導による転倒予防やフレイル対策など、非薬物療法が重要である。さらに、薬物療法は長期にわたって継続して初めて骨折予防が可能となることから、治療を継続するための患者支援も必要となる。これらの対応は、糖尿病をはじめとする生活習慣病を診療する内分泌代謝・糖尿病内科医が日々実践しているものであり、そのような診療姿勢を骨粗鬆症診療にも適用することに障壁はないと思われる。 このような背景から、本特集は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの読者に向けた、骨粗鬆症診療のエッセンスを網羅した内容になっている。治療を必要とする患者のスクリーニング、内分泌代謝の視点からみた病態、多くの内分泌疾患や糖尿病と骨粗鬆症との関係について、各々の領域の第一人者に解説していただいている。さらに、薬物療法の考え方や集学的治療、そして骨粗鬆症治療の支援に至るまで幅広い内容を網羅している。本特集は、これまで骨粗鬆症に馴染みの薄かった医師にとってはもちろんのこと、ある程度日々の診療で対応していた医師にとっても、明日からの骨粗鬆症診療の実践の糧となる充実した内容となっているものと確信している。多忙な中、労を惜しまず充実した論文を執筆していただいた筆者の皆様に感謝するとともに、読者の皆様の診療に活用していただけることを願って止まない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System制度(DPC/PDPS:1日当たりの包括評価制度)は、2003年に82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度であり、DPCは「診断群分類」を、PDPSは「1日ごとの支払い方式」を意味し「包括医療費支払い制度」とも呼ばれている 1)。その後、2年ごとの診療報酬改定時には対象病院は段階的に拡大され、2022年の診療報酬改定時には対象病院1,764病院483,425床、準備病院259病院22,464床となり 2)、急性期一般入院基本料などに該当する病床の約85%を占める 3)。そして2022年においてもDPC/PDPSが改定されている。 よって今回は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの第1回(通算64回)連載のテーマとしてDPC/PDPSを選び、2022年の診断群分類点数表や定義テーブルなどの改定内容に基づき、制度の基本的概要および糖尿病に係るDPC/PDPSについて概説する。
正直に告白しよう。もう、かれこれ1年ほどサイクリングをしていない。最後にロードバイクに跨がったのは、2021年11月14日に立川の国営昭和記念公園を往復した84kmの行程である。自転車通勤に至っては、同年11月4日が最後になっている。
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