≪6.妊娠と内分泌疾患 ―特論―≫ 6-2.鞍上部に進展するプロラクチン産生PitNET患者の妊娠中の管理
https://doi.org/10.57554/2024-0008
はじめに
プロラクチン産生PitNET(プロラクチノーマ)は下垂体前葉から発生するプロラクチン(PRL)を自律分泌する腫瘍である。治療の第一選択はドパミンアゴニスト(DA)、特にカベルゴリンによる薬物療法であり、血清PRLの低下と腫瘍縮小が得られる。プロラクチノーマの多くは女性に発生し、ほとんどはミクロプロラクチノーマ(<10mm)であり、マクロプロラクチノーマ(>10mm)、特に鞍上部進展を伴うものは少ない。高プロラクチン血症は中枢性に性腺機能を抑制し、女性では月経不順や無月経で診断されることが多く、不妊の原因となる 1)。
1.プロラクチノーマと妊娠
プロラクチノーマでは、一般にカベルゴリンが奏効すると半年以内にPRLが正常化することが多い 1)。PRLが低下することで抑制されていた性腺機能は回復し、妊娠が可能となる。腫瘍はPRLの正常化に遅れて緩徐に縮小するが、その場合もPRLが正常化していれば妊娠は可能となる。また、なかには血清PRLが正常化しても腫瘍縮小が得られない症例も存在する。
妊娠した場合にはDAは胎盤を通過するため、中止することが推奨されている 1, 2)。ただし、妊娠6週までのDA曝露は母体および胎児のリスクを増加しないことが分かっている 2, 3)。
2.妊娠中の腫瘍増大
妊娠中は胎盤からエストロゲンが大量に分泌され、その刺激により正常下垂体においてもPRL分泌が亢進する。妊娠後期~出産直後までに下垂体高位は最大12mmまで増加し、出産後6カ月以内には通常の大きさまで戻る 3)。プロラクチノーマもエストロゲン刺激により増大するリスクがあり、PitNETの中で妊娠中の増大はプロラクチノーマが最も頻度が高い 4)。妊娠中のプロラクチノーマが大幅に増大するリスクは、ミクロプロラクチノーマでは3%と低いが、マクロプロラクチノーマでは20~30%と高くなる。マクロプロラクチノーマでも妊娠前に十分に腫瘍が縮小した場合や、手術または放射線療法を受けた場合は5%以下に腫瘍増大リスクが下がる 2, 3)。そのため、鞍上部進展を伴うようなマクロプロラクチノーマでは妊娠中の増大により視機能障害を呈するリスクがあることから、十分に腫瘍の縮小が確認できるまで適切な避妊を指導することが望ましい 5)。DAが有効な腫瘍では経口避妊薬の併用は安全である 5)。また、DAによる腫瘍縮小効果がない場合や妊娠を急ぐ状況では妊娠前の手術も選択肢となる 1, 3)。