≪6.妊娠と内分泌疾患―特論―≫ 6-1.妊娠中に診断された原発性副甲状腺機能亢進症の治療
https://doi.org/10.57554/2024-0007
はじめに
原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)は比較的頻度の高い内分泌疾患であり、40歳以上での発症が多く、男女比は約1:3と女性に多い 1)。そのため、妊娠可能年齢の女性や妊娠中に診断されるケースもある。高カルシウム(Ca)血症をきたしたPHPT合併妊娠では、母体および児にさまざまな合併症をきたし得る。本稿では、妊娠合併PHPTの診断・治療や母体・児への影響について解説する。
1.原発性副甲状腺機能亢進症の診断
高Ca血症があり、副甲状腺ホルモン(PTH)上昇を認めれば比較的容易にPHPTと診断できる。ただし、PTH、Caの一方が、もしくは両者が基準範囲内高値にとどまることもある。一般的な合併症として尿路結石症や骨粗鬆症などがみられるが、高Ca血症のみから診断に至る無症候性PHPTが多い。産婦人科診療ガイドラインの妊娠初期のスクリーニング検査には、血清Caは含まれていない 2)。そのため、妊娠中の軽症PHPTは見過ごされている可能性もある。
1)妊娠中のCa代謝
妊娠中のCa代謝の評価にあたっては母体特有の変化を理解しておくことも重要である。妊娠中は循環血漿量の増加による体液希釈や糸球体濾過率の増加に伴い、高Ca尿症、低Alb血症を呈する。通常、細胞外Caの約半分はAlbと結合して存在し、その他はイオン化Caとして存在する。したがって、低Alb血症がある場合には以下の補正式を用いてCa濃度を評価する。
補正Ca濃度(mg/dL)=血清Ca濃度(mg/dL)+(4−血清Alb濃度〔g/dL〕)
妊娠中は生理的な低Alb血症により見かけ上の総Ca値は低下する。軽度の高Ca血症は、Alb補正を行わないと見逃してしまう可能性がある。
また、妊婦の血清1,25(OH)2D値は胎盤での1,25(OH)2D産生により非妊娠時の2~3倍に増加している。母体の腸管Ca吸収の一部はビタミンD非依存性に増加する。その結果、母体のPTH濃度は基準値内下限~基準値未満に抑制される。また、胎盤や乳腺由来のPTHrP(PTH-related protein)は母体骨からのCa動員および胎盤を介したCa輸送を促し、胎児へのCa供給に貢献している(図1) 3)。