3.橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・分娩期の指針と不妊治療時の留意点
https://doi.org/10.57554/2024-0004
はじめに
妊娠、分娩は女性のライフステージにおいて大きなイベントである。甲状腺疾患は妊娠可能年齢の女性に多く、妊娠前、妊娠中、産褥期のケアについてあらかじめ知識を得ておくことで甲状腺機能異常への対応が臨機応変に可能となり、専門医への紹介のタイミングや産科や新生児科との連携、治療の見通しが立てやすくなる。
1.甲状腺機能低下症、橋本病
甲状腺機能低下症では、むくみ、徐脈、便秘、寒がり、筋痛などの臨床症状をきたす。原発性甲状腺機能低下症では橋本病が原因の大部分を占める。橋本病は自己免疫による慢性甲状腺炎であり、びまん性甲状腺腫と甲状腺自己抗体(サイログロブリン抗体〔TgAb〕、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体〔TPOAb〕)陽性、細胞診で甲状腺にリンパ球浸潤を認めることが診断の要件となる。甲状腺機能は正常が8割程度、潜在性を含め甲状腺機能低下症を示すのは1~2割である。橋本病は女性の10~20人に1人の頻度で認められるといわれているが、橋本病の患者の多くが甲状腺機能正常であるため病院受診をするきっかけは少ない。近年、不妊治療のスクリーニング検査として甲状腺機能や自己抗体が測定されることが多くなった。
甲状腺機能低下症の治療はT4製剤での補充療法である。頻度は低いが副腎機能低下症を合併する場合には、副腎皮質ステロイドの補充が優先される。T3製剤は非妊娠時には特殊な場合に使用することがあるが、妊娠においては胎盤をT3が通過しないため、補充はT4製剤のみで行う。T4製剤は起床時での内服、もしくは就寝時が推奨されている。鉄剤や鉄のサプリメントは妊娠希望女性で頻繁に使用される傾向にあるが、T4製剤とは4時間以上間隔を空けて内服する。
1)妊娠前
妊娠前に甲状腺機能低下症が判明した場合にはT4製剤で補充を行い、開始量は心血管疾患を有さない若年者では少量から漸増せずに治療目標量(50~100μg/日)で開始可能である。甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)とも基準範囲内を目標に補充量を調整する。