2.糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点

  • 和栗雅子 Waguri, Masako
    大阪府立病院機構 大阪母子医療センター 母性内科 主任部長
公開日:2024年1月19日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(1): 0003./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(1): 0003.
https://doi.org/10.57554/2024-0003

はじめに

 糖尿病を有する女性は周産期合併症予防のため、妊娠前から妊娠中、分娩後にわたり、厳格な血糖・血圧・体重管理が必要である。妊娠可能年齢の女性には計画妊娠の方法・内容について事前に十分説明しておく必要がある。本稿では、糖尿病を有する女性の妊娠前管理(計画妊娠)と妊娠中、分娩時、授乳期における治療とケアについて解説する。

1.妊娠前管理

 妊娠初期の母体高血糖により、先天異常児の発生頻度が高くなることはよく知られている。器官形成期、特に妊娠7週までに胎児が高血糖にさらされると、先天異常率が上昇するといわれているので、妊娠判明後から血糖管理を始めても遅い。妊娠前からHbA1c<6.5%を目標にして管理しておくことが推奨されている 1~4)。ただし、重症低血糖を回避しつつ可能な限り正常に近づけることにも留意する。
 食事療法で血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を導入する。また、インスリン以外の糖尿病治療薬を使用している場合は、インスリンに変更しておく。メトホルミンは胎盤を通過し、薬剤添付文書上には、採卵までに内服を中止と記載されているが、多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome:PCOS)による排卵障害に対してメトホルミンを用いることで、流産率や早産率が低下し、妊娠初期の内服による催奇形性への関与は否定されている 5)。また、GLP-1受容体作動薬は体重を減らす効果が高く、メトホルミンと比較して妊孕性の改善効果も高い 6)が、妊娠中使用の安全性は確認されていない。妊娠可能年齢の女性に使用する場合は避妊を厳命し、薬剤が十分に体内からwashoutされた時期を待ち妊娠許可することが望ましい。妊娠前の中止時期については明確な推奨はほとんどないが、半減期が最も長いセマグルチドについては、妊娠2カ月以上前からの中止を推奨されている。
 糖尿病網膜症(DR)に関しては、糖尿病罹病期間、血糖管理状況、急激な血糖コントロール、高血圧の合併、糖尿病腎症の合併があると、妊娠中にDRの発症・増悪しやすいといわれている。1型糖尿病女性において、妊娠前からDRがあり、糖尿病罹病期間が長く、妊娠前のHbA1c高値でDRが進行・増悪し、持続皮下インスリン療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)のほうがDR進行のリスクが低かった 7)。急激な血糖変動を起こさないよう妊娠前から徐々に改善して、HbA1c<7.0%目標に血糖管理し、単純網膜症までに保っておく、増殖網膜症であれば治療しておく、インスリンポンプ、特にリアルタイムでグルコース変動を確認し低血糖時(前)停止機能のあるsensor augmented pump(SAP)で管理しておく、などが推奨される。
 糖尿病腎症に関しては、システマティックレビュー、メタアナリシスで、アルブミン尿・腎機能障害を認める症例では妊娠高血圧症候群、早産、妊娠中の腎機能悪化、胎児発育不全などのリスクが高かった 8)。さらに、妊娠中に厳格な管理をしても妊娠初期の血清Crレベルが高い(血清Cr≧1.5mg/dL)と、32週以前の分娩、1,500g以下の低出生体重児など悪い周産期結果と関係していたことなどより、腎症3期以降は妊娠・出産は勧められず、腎症2期までにしておくことが推奨されている。
 降圧薬に関しては、妊娠前から腎臓の保護や高血圧のためアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が使用されている場合もある。ACE-I/ARB使用で胎児の低血圧、腎血流の低下を引き起こし、無尿・乏尿、羊水過少、頭蓋冠低形成などの頭蓋・顔面の異常、肺低形成、胎児発育不全・子宮内胎児死亡・新生児死亡に至ることが報告されている。ACE-Iの使用で心血管系・中枢神経系先天異常発症リスクが増加した報告もあるが、その後の報告では妊娠初期のACE-Iの使用で形態異常の発症リスクは高くなく、催奇形性は否定的であった 9)。妊娠希望時点でACE-I/ARBを中止し、妊娠中使用可能な降圧薬(メチルドパ、ラベタロール、ヒドララジン、ニフェジピン)に変更すべきだが、中止すると腎機能が増悪する可能性が高い場合、十分な説明と同意の上、妊娠成立まで継続し、妊娠成立後、可及的速やかに中止・変更することが提案される。
 脂質異常症治療薬に関しては、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)系薬剤、特に脂溶性のスタチンと催奇形性との関連性が報告されたが、その後の報告では、催奇形性は否定的であった 10)。フィブラート系薬剤の妊娠中使用例での有害事象の報告はないが、 妊娠中に脂質異常症治療薬を中止しても長期的な影響はないと考えられ、妊娠中の使用は推奨されない。各国のガイドラインでも、スタチン系・フィブラート系薬剤の妊娠前からの中止を推奨している。ただし、家族性脂質異常症があり、これらの薬剤が必要であるが、いつ妊娠するかわからないような場合は、全か無の時期を活用し、妊娠判明まで使用、妊娠成立後、妊娠中使用可能な薬剤(レジン、エゼチミブなど)に変更することも提案される。
 以上、表1に示す計画妊娠(妊娠前管理)の重要性について十分に説明し、妊娠前から管理しておく。管理不十分な間は避妊する必要があることも説明しておく。

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