甲状腺結節の日常臨床での取り扱い―甲状腺結節の診断・経過観察の最新エビデンス―
https://doi.org/10.57554/2024-0026
ポイント
- 甲状腺のしこりを「甲状腺結節」、結節により甲状腺が腫れている状態を「結節性甲状腺腫」という。
- 経過観察期間についてのエビデンスは乏しいが、ACR-TIRADSでは5年としている。
- 欧米では細胞診検体による遺伝子パネル検査が実用化され、診断的治療を目的とした甲状腺手術は抑制される方向になりつつある。
- 多結節性甲状腺腫は遺伝性疾患に関連していることがあり、該当する疾患を知っておくことが必要である。
1.用語について
甲状腺内のしこり(腫瘤性病変)は慣習的に「結節」が使用され、臓器名と合わせて「甲状腺結節」と呼称される。結節により甲状腺が腫脹している状態を「結節性甲状腺腫」といい、バセドウ病や橋本病など結節を伴わずに甲状腺全体が腫脹する「びまん性甲状腺腫」と対比して使用される。同様の成り立ちの用語は他領域ではまれで、混乱を招きやすいが、しこりがあることの臨床的・暫定的診断名であると考えれば理解しやすい。多発している場合に「多結節性甲状腺腫」、甲状腺機能亢進症を伴う場合には「中毒性結節性甲状腺腫」や「機能性甲状腺結節」、超音波・細胞診検査などを経て良性の可能性が極めて高い場合には「甲状腺良性結節」などの派生した用語がある。
また類似した用語に「濾胞性腫瘍」があるが、超音波検査や細胞診の結果により、濾胞癌との鑑別が困難な病変であることを強調した用語である。濾胞癌は定義上、手術により病変全体を切除し、組織検査を行わなければ診断の確定は不可能であるため、こちらも術前の暫定診断として使用される。
甲状腺結節の多くは腺腫様甲状腺腫をはじめとする良性疾患であり、また仮に悪性腫瘍が合併していても乳頭癌をはじめとして、悪性度が低く、予後も良好なものが多い。このため、近年は超音波検査をはじめとする画像診断機器の高精度化に伴う過剰診断・過剰治療がむしろ問題となっている。また有病率は高いが、予後良好であるがゆえに、RCTなど質の高いエビデンスはほとんどない。こうした点が理解を妨げ、専門家以外には扱いづらい疾患になっていると思われる。本稿では日常臨床で最もよく遭遇する甲状腺中毒症を伴わない、嚢胞以外の甲状腺結節、特に細胞診で悪性の疑いに至らない結節の扱いについての現状を、限られたエビデンスとともに述べる。