肥満の外科治療 ―減量・代謝改善手術の最新エビデンス―
https://doi.org/10.57554/2024-0010
ポイント
- 肥満症患者に外科治療(肥満手術)は有用であり、主に3つの術式が行われているが、本邦で保険適用となっているのは、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)のみである。
- 2型糖尿病などの肥満関連合併症の改善を目的としたメタボリックサージェリー(代謝改善手術)も近年注目され、先進医療として、腹腔鏡下スリーブバイパス術(LSG-DJB)も行われている。
- 本邦における手術適応年齢は、現在は18~65歳であるが、世界の動向を鑑みると66歳以上の高齢者や18歳未満の小児・思春期への減量・代謝改善手術も今後行われるようになる可能性が高い。
1.総論
1)肥満症に対する外科治療・内視鏡治療の歴史
肥満症に対する外科治療は、1950年代に米国ミネソタ大学で空腸・結腸バイパス手術が行われ、1960年代に米国アイオワ大学で胃バイパス術が行われた。後者はその後改良が加えられ、Roux-en-Y胃バイパス術(Roux-en-Y gastric bypass:RYGB)として現在でも広く普及される術式となった。1986年には、調節性胃バンディング術(adjustable gastric banding:AGB)が報告された。その後、これらの手術は腹腔鏡下に行われるようになり、腹腔鏡下RYGB(LRYGB)、腹腔鏡下AGB(LAGB)として普及した。近年増加している腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)は、元々、二期的手術(十二指腸変換を伴う胆膵路バイパス)の初回手術として開発されたが、単独でも一定の治療効果が得られることから、その後広く普及した。近年では、LSGに空腸バイパスを付加した腹腔鏡下スリーブバイパス術(laparoscopic sleeve gastrectomy with duodenojejunal bypass:LSG-DJB)も行われている 1)。
これに対して、肥満に対する内視鏡的治療は1980年代に開発された胃内バルーン留置術である。米国ガイドラインでは、最も歴史のあるOrbera Systemを含む5種類のバルーンが記載されている(Orbera、Obalon、Spatz、Ellipse、ReShape) 2)。また、Apollo Endosurgery社の OverStitch というデバイスを用いた内視鏡的スリーブ状胃形成が報告されており、手術と比較すると体重減少率は劣るものの、入院期間は短く、合併症は少ないとされている 3)。