(扉)特集にあたって

  • 野田光彦 Noda, Mitsuhiko
    国際医療福祉大学 市川病院 教授(糖尿病・代謝・内分泌内科)/埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科 客員教授
    井上玲子 Inoue, Reiko
    帝京大学ちば総合医療センター 第三内科 講師
公開日:2025年7月10日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(4): 0049./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(4): 0049.
https://doi.org/10.57554/2025-0049

 近年のゲノム解析技術の進歩に伴って、遺伝子異常が惹起する代謝疾患、内分泌疾患への理解は飛躍的に深まってきている。これらの多くは、遺伝子変異によるホルモンの分泌異常や代謝経路の障害を伴い、その臨床像や治療戦略はそれによって大きく規定されている。
 本特集では、これらの遺伝子異常に基づく代表的な内分泌代謝疾患を取り上げて、その病態生理や診断法から最新の治療アプローチに至るまでを、国内外の最新研究成果も交えつつ、斯界をリードする執筆陣によって、縦横に解説していただいた。さらに、遺伝学的検査の役割や遺伝カウンセリングの重要性についても、臨床現場における実践的な知見として提供するべく、広い視野で企画を進めた。
 まずは冒頭において、髙橋佳大先生、堀川幸男先生に、MODYの定義から臨床像、診療上の留意点までを手際よくおまとめいただき、次いで、岩﨑直子先生によって、ミトコンドリア遺伝子異常による糖尿病について、ミトコンドリアの基礎医学からその疾患の臨床経過までを俯瞰していただいた。
 また、主に内分泌領域に目を向ければ、石川敏夫先生にMENの病因から診断、治療の実際を、広範な視点から十二分に敷衍していただき、そして斯波真理子先生には、進捗著しい領域の一つである家族性高コレステロール血症について、その病態から今後の治療法に関してまでを、臨床の現場に即して記載していただいた。さらに入江航生先生、伊東伸朗先生には、骨代謝疾患、骨系統疾患について、多様な疾患の臨床像から診断、治療に至る道筋を余さずご解説いただき、のみならず田部勝也先生には、特徴的な疾患であるウォルフラム(Wolfram)症候群について、要点を漏らすことなく掻い摘まんでいただいている。
 また、井原健二先生には、内分泌代謝疾患の領域における遺伝医療について、その倫理的側面も交えて網羅していただき、浦尾悠子先生には、遺伝学的検査におけるSDM(shared decision making)について、現状と具体例に基づいて詳述していただいた。
 本特集の執筆陣は、その分野に広範な経験と知識を有する専門家の方々である。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、本特集によって、読者諸賢の理解が深まり、単一遺伝子異常による内分泌代謝疾患へのより適切な診断・治療の進歩に寄与し得る一助となれば、企画者としてこの上ない喜びである。今後も遺伝子研究の進展とともに、個別化医療の実現に向けた取り組みが一層強固となることを念頭に置きつつ、この「扉」を擱筆する。

著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし

単一遺伝子異常による内分泌代謝疾患 ―隠れたサインを見逃すな― 一覧へ