ポイント クッシング症候群は症状が非特異的と考えられており、診断が遅れがちな疾患である。しかしながら、診断に役立ついくつかの典型的な身体所見、症状を知っていると診断を早めることができる。クッシング症候群を疑った際の確定診断は、①病的な高コルチゾール血症があることの診断、②血中ACTH値測定によるACTH依存性の有無の確認、③ACTH依存性の場合はクッシング病と異所性ACTH産生腫瘍との鑑別、というように、順を追って行う。 診断確定に時間をかけて、その間に日和見感染症を発症させないことが大事である。著しい高コルチゾール血症(例えば40μg/dL以上など)が見出された場合は、ただちに治療を始めることによりカリニ肺炎や日和見感染症などの重症感染症の発症を予防する必要がある。診断は高コルチゾール血症をコントロールしたのちに行ってもまったく支障はない。この際の治療は、副腎酵素合成阻害薬による自発性コルチゾール分泌を強力に抑制するとともに、コルチゾールが低下してきたらコルチゾールの補充を加える「block and replace療法」で行うことが事故を少なくする秘訣である。
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病性腎症は透析導入原因疾患の38.7%を占め、最多である 1)。また、糖尿病は透析患者の死因の26.4% 1)を占める心血管死の原因とも深く関わり、腎予後・生命予後の観点からも糖尿病治療は重要である。治療経過は長く、薬物療法以外に食事療法、運動療法、生活習慣管理などさまざまな介入を長期間に渡り継続することが必要となる。 本稿では医師、看護師、栄養士、薬剤師などから構成されるチームの糖尿病性腎症患者への療養支援について記載する。
はじめに 女性アスリートは無月経や月経随伴症状など、女性特有の健康問題を抱えながら競技生活を送っていることが少なくない。これらは競技パフォーマンスだけでなく生涯の健康に関わる可能性もあるため、アスリート自身はもちろんのこと、指導者や医療従事者を含む支援者が早期に問題に気付き、対応することが重要となる。本稿では、女性ホルモンと関わりの深い女性アスリートにおける医学的問題について、無月経と月経随伴症状を中心に概説する。
はじめに 最近の一連の研究では、骨が自身からのホルモン分泌を介して全身の対処に影響を及ぼす内分泌臓器としての位置が確立してきている。骨由来の4種のホルモン、オステオカルシン(osteocalcin:OC)、リポカリン2(lipocalin 2:LCN2)、スクレロスチン(sclerostin:Scl)、fibroblast growth factor 23(FGF23)が心血管機能に影響を及ぼし、2型糖尿病(type 2 diabetes:T2DM)や心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)など種々の代謝性疾患の発症に関与するとの報告がみられる。
はじめに 超高齢社会に直面したわが国では、社会保障制度を持続可能なものとすることが不可欠である。また、自然災害の発生や新型コロナウイルス感染症の流行により安全保障や危機管理の観点からも、これらの情報の利活用推進、および医療分野のセキュリティ対策の強化が必須である。2022年6月7日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針 2022」において、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」および「診療報酬改定DX(Digital Transformation)」の取組を行政と関係業界が進めることとし、内閣総理大臣が本部長になり関係閣僚により構成される「医療DX推進本部」が設置され、政府を挙げて施策を推進していく旨が打ち出された 1)。そして、進化するデジタル技術を最大限に活用し、医療機関などにおける負担の極小化を目指すことを最終ゴールとした「診療報酬改定DX対応方針」が示された 2)。 今回は、このような「医療DX」の推進、および「診療報酬改定DX」について、2024年度診療報酬改定の答申を踏まえ、診療報酬改定DXおよび糖尿病とのかかわりについて概説する。
はじめに タンパク質は三大栄養素の一つで、グラム当たりのカロリーは炭水化物と同じく4kcal程度である。脂質は中性脂肪として脂肪組織に、炭水化物はグリコーゲンとして肝臓および筋肉に貯蔵されるのに対して、タンパク質のエネルギー源としての貯蔵を目的とした特定の分子は知られていない。
はじめに 運動は糖尿病や肥満症、高血圧症、脂質異常症などの心血管リスクファクターの改善、QOLやうつ状態、認知機能障害の改善、がんの予防効果など、さまざまな作用が知られている(図1)。運動が健康につながるメカニズムは未解明な部分が多いが、筋肉量と寿命とに有意な相関があることが数多くの疫学的研究で報告されるなど 1)、運動の中心的役割を担う器官である骨格筋がその鍵となる可能性が示唆されている。骨格筋は体重の約40%を占め、運動器としての役割以外にも、多臓器と連関し、全身に影響を与えていると考えられており、特にマイオカインが運動と健康のメカニズムを解明する上で注目されている。マイオカインは、ギリシャ語のmyo-(筋)とkine-(作動物質)から作られた造語であり、骨格筋から分泌され、オートクライン、パラクライン、エンドクライン作用により骨格筋自身や遠隔の臓器、組織に作用する生理活性物質の総称である 2)。現在までに数多くのマイオカインが発見され、これらが骨格筋を中心とした多臓器連関として、健康維持や疾患改善に役立っていることが明らかになっている(図2)。本稿では運動によって分泌が変化するマイオカインに着目し、骨格筋や代謝への影響と今後の展望を中心に概説する。
はじめに 現代社会では、科学技術の発達と生活の利便性向上により身体を動かす機会が減少し、種々の生活習慣病を発症させる要因となっている。また、information technology(IT)の普及に伴い、巷に溢れた情報が精神的な負担となり、うつやストレスの原因となっている。こういった健康を蝕むさまざまな脅威に直面する現代人にとって、主体的に運動・スポーツに親しむことは、体力の維持・増進、疾病やうつの予防、ストレスの軽減など、心身の健康に大きな効果をもたらすことが期待されている 1)。
「スポーツ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか…? 春であれば新たなシーズンが始まる野球、サッカー、冬であればラグビー、スキーなどさまざまな競技スポーツを思い起こす方が多いのではないかと思う。柔道、剣道、相撲、レスリングなどの格闘技や、バレーボール、バスケットボールなどの球技を想起される方もいらっしゃると思う。しかし、中世の英国では狩猟、乗馬、釣りがスポーツであった。スポーツ(sport)の語源はラテン語の“deportare(運び去る、運搬する)”という言葉である。つまり、気分の転換、仕事や家事などの日常生活からの解放こそがスポーツ、スポーツは遊ぶことであり、楽しむことなのである。 しかし日本では運動嫌いの人たちが少なくない。その理由の一つとして、体育の授業が挙げられる。私自身も鉄棒では前方支持回転ができずに劣等感に打ちひしがれたし、授業中に「達成感」を実感したこともない。一部の教師は何をするにも命令口調で、辟易とした覚えがある。大学ではサッカー部に所属し、有能な先輩たちの活躍で東日本医科学生総合体育大会での優勝も経験したが、私がスポーツとして心から楽しむことができたのは、40歳の中盤から始めたフルマラソンだった。 ゴルフの際になかなか人数が集まらなかったので、一人でできるジョギングを始めた。手始めに10kmのロードレースを走り、3カ月後には、ハーフマラソンを経験した。そして、半年後に無謀にもホノルルマラソンに挑戦したのである。フルマラソンはハーフマラソンの「2倍」の距離を走るレースだが、苦しさと辛さは、5倍にも10倍にも思えた。レースの後半には、もう2度とマラソンなんか走らない…と繰り返し呟いていた。しかし、レースが終わって数時間経つと、何とも言えぬ達成感と充実感を覚えたのである。そして、その後もマウイマラソン、シドニーマラソン、NAHAマラソン、北海道マラソンなど30を超える大会に参加した。走るということが、何も考えずに自由になれる、楽しいものだと実感したのである。スポーツはまさに遊ぶことであり、楽しむことなのである。 ひとが遊び、楽しむことのサイエンスをまとめてみたいと思い「スポーツと内分泌疾患」というタイトルの特集を組んでみた次第である。遊び好きの私が原案を作り、まじめで勉強家の細井雅之先生が多くのエキスパートの先生たちに声をかけてくださり、今回の特集が出来上がった。 メンタルヘルス、骨格筋・骨関連ホルモン、ジェンダー、水電解質、糖代謝異常など多くの側面からのスポートロジーをお楽しみいただきたい。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:細井雅之;講演料(サノフィ、住友ファーマ、日本イーライリリー) 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)は、日本の成人の12.9%、約1,330万人以上が罹患していると報告されており、一般診療で遭遇することの多い疾患である。CKD患者の多くは高血圧を合併しており、高血圧の合併はさらなる腎機能低下へつながるため、CKD合併高血圧患者では適切な血圧管理が求められる。本稿では、CKD合併高血圧の薬剤治療について解説する。
『人間喜劇』で知られるフランスの小説家、オノレ・ド・バルザック(図)は1799年5月20日、フランス中央に位置するトゥールに生まれた。出生証明書はトゥールの市役所に現在も保管されているが、貴族の称号である「ド」は見当たらず自称である。父のベルナール・フランソワは農民の出身であったが、故郷を出て成り上がり、第22師団の兵站(補給部隊)部長であった。母は父よりも30歳以上年下であった。
はじめに 食塩制限は栄養指導の中でも最も基本となるところであり、多くの慢性腎臓病(CKD)患者は食塩制限を指導されている。CKD患者にとって食塩制限は非常に理にかなっていそうだが、臨床研究に裏打ちされたエビデンスはどの程度あるのだろうか。2023年に日本腎臓学会による「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」が発行されたが 1)、筆者は「CKD患者への食塩制限は推奨されるか?」に対するステートメントに対してシステマティックレビューの取りまとめを担当させていただいた。本稿ではCKD患者の高血圧管理に関して、食塩制限を中心に概説したい。
ポイント 甲状腺のしこりを「甲状腺結節」、結節により甲状腺が腫れている状態を「結節性甲状腺腫」という。 経過観察期間についてのエビデンスは乏しいが、ACR-TIRADSでは5年としている。 欧米では細胞診検体による遺伝子パネル検査が実用化され、診断的治療を目的とした甲状腺手術は抑制される方向になりつつある。 多結節性甲状腺腫は遺伝性疾患に関連していることがあり、該当する疾患を知っておくことが必要である。
新型コロナウイルスの脅威がすっかり過ぎ去ったかのような社会全体のムードに伴って人々が行き交うようになり、学会や講演会も現地で開催されることが増えてきた。昨年12月には2週連続で週末開催の学会に参加し、リアルタイム(rt)CGMに関するランチョンセミナーでの講演を行ってきた。
はじめに 糖尿病治療の目的は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの実現を目指すこと」とされており、糖尿病に関連する合併症を防ぐことである。英国で行われたUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)において血糖以上に血圧コントロールがより有効に、効率的に合併症を防げることが明らかとなり、糖尿病合併高血圧患者の降圧治療は必須である。
Q&A編はこちら はじめに ―運動療法に行動経済学を取り入れる 皆さんは、目の前の患者に対して、「なぜ、この方は運動しようとしないのか?」「なぜ、この方も運動療法が続かないのだろう?」と感じたことはないだろうか? そう、「ヒトは不合理な行動をとる生き物」 1)である。運動が体にいいことは100人中100人は分かっている。行動経済学とは、人間が必ずしも合理的な行動をとらないことに注目し、人間の心理的、感情的側面の現実に即した分析を行う学問である。「ヒトは不合理な行動をとる生き物」と考えるのである。
はじめに 医療計画 1)は、都道府県が国の定める基本方針に即し、地域の実情に応じて都道府県における医療提供体制の確保を図るために策定するものである。1985年に医療計画制度が導入され、2006年の第五次医療法改正においては、糖尿病を含む4疾病と5事業の具体的な医療連携体制が位置付けされた。そして2024年度からの第8次医療計画では、対象が「5疾病・6事業および在宅医療」となり、都道府県別に6年間の医療計画が策定されて推進される。5疾病は、「がん」、「脳卒中」、「心筋梗塞などの心血管疾患」、「糖尿病」、「精神疾患」、6事業は、「救急医療」、「災害時における医療」、「新興感染症発生・まん延時における医療」、「へき地の医療」、「周産期医療」、「小児医療(小児救急を含む)」であり、これらに「在宅医療」が加わる。今回は、この医療計画と、その中核に含まれる糖尿病について概説する。
はじめに 二次性高血圧は、ある特定の原因による高血圧であり、一般に難治性である。しかし原因を正しく診断し治療が行われれば、その後血圧の改善の見込みもある疾患であり、適切な診断、治療が求められる。今回、二次性高血圧の中でも内分泌異常が原因となる原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫・パラガングリオーマについて述べる。
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