Q&A編はこちら はじめに 妊娠糖尿病は、日本において妊婦の12.1%で合併する妊娠中の比較的頻度の高い合併症であり 1)、母体の高血糖によって、母体の妊娠高血圧症候群・早産・帝王切開のリスク、胎児の巨大児・肩甲難産・高ビリルビン血症・低血糖・呼吸障害・NICU入室などのリスクが増大する 2)。一方で、妊娠中に血糖を良好に管理することでそれらの合併症を抑制できる 3)ことが知られているが、妊娠糖尿病と診断された妊婦は、その病気の受容や治療管理に関わる負担は大きいことが臨床の場面では多く経験される。妊娠中は精神的にも不安定な状態になりやすいこともあり、適切なサポートには多職種で取り組む心理的配慮が大変重要であろう。 多職種医療従事者の各知見をもとに、妊娠糖尿病に対するチーム医療と心理的配慮に注目した新たな取り組みとして、近年関心を集めているモバイル・アプリケーションやオンライン診療について先進的な取り組みも含めて紹介する。
はじめに 高尿酸血症(>7.0mg/dL)は結晶沈着による痛風性関節炎を引き起こすのみならず、メタボリックシンドローム発症や心血管疾患・死亡との関連も多数報告されている。一方で、低尿酸血症(≦2.0mg/dL)も腎障害リスクがあり、注意が必要な場合がある。本稿では、尿酸異常症が患者や一般住民に及ぼす問題について解説し、日常臨床や健康診断における尿酸値測定の意義を述べる。
はじめに Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)は細胞膜タンパク質における最大のファミリーで、ヒトでは800種を超えるメンバーから構成される。ホルモン、神経伝達物質、感覚刺激などさまざまな細胞外シグナル分子(リガンド)に対する細胞応答を仲介する。多様な生理反応に関わり、数多くの疾患に関わることも報告されていることから、創薬の標的としても注目度が高く、実際にGPCRを標的とした治療薬が臨床で用いられている。昨今、糖尿病および肥満症の治療薬として使用され、適応外使用でも問題となっているGLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬も、その分子標的であるGLP-1受容体はGPCRである。
はじめに 脂質異常症は冠動脈疾患を中心とする動脈硬化性疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)の予後を決定する重要な危険因子であり、遺伝的な脂質異常症においてでさえ食生活の是正が予防や治療の基本である 1)。そのため、食事に関する脂質(エネルギー源である脂肪とエネルギー源でないコレステロールを合わせたもの)の生化学的な代謝と臨床的なエビデンスを正しく知ることが重要になる。またダイエットパターンとしての日本食や地中海食、dietary approach to stop hypertension diet(DASH食)が注目されている。本稿では、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』 1)と『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』 2)を中心にASCVD予防のための食事療法を解説する。なお、内容の詳細や引用文献、また食物繊維(穀物、野菜、果物)、果糖を含む加工品、海藻、ナッツ類などは誌面の都合上割愛するが上記ガイドラインを参照されたい。
Q&A編はこちら はじめに Glucagon-like peptide-1(GLP-1)は小腸の消化管内分泌細胞であるL細胞から分泌されるペプチドである。食事による血糖上昇に応答する形で膵β細胞のGLP-1受容体に結合し、β細胞からのインスリン分泌を促進するため、血糖上昇時のみにインスリン分泌をもたらすことが特徴である。GLP-1はdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)により分解され活性を失うため、GLP-1受容体作動薬はDPP-4による分解を受けにくい構造を持ち、GLP-1受容体を刺激することで血中GLP-1を薬理学的濃度まで上昇させ血糖降下作用が得られるように開発された。GLP-1の膵外作用として、胃内容物排泄遅延、食欲中枢における食欲抑制も認めることから、GLP-1受容体作動薬には体重減少効果も期待される。加えて、近年では心血管イベントや腎イベント進行抑制のエビデンスも明らかとなってきていることから、実臨床で使用されるケースが年々増加しており、本稿では各製剤の特徴および実際に使用した症例に関して解説する。
はじめに 高トリグリセライド血症(高TG血症:hypertriglyceridemia)は、血中トリグリセライド濃度(TG値)が異常高値となる状態であり、高コレステロール血症とともに脂質異常症の代表的な疾患である 1)。TG値が空腹時採血で150mg/dL以上、または随時採血で175mg/dL以上であれば高TG血症となる(表1)。高TG血症は動脈硬化性疾患の重要な危険因子の一つであるほか、TG値が著明高値の状態は急性膵炎の発症要因である 2)。一般外来で日常的に遭遇する高TG血症は、そのほとんどがいわゆる生活習慣病として生活習慣の改善を含めた治療介入を必要とする。本稿では高TG血症の病態とともに、治療介入のポイントについて、特に動脈硬化性疾患発症予防の観点でどのようにすべきかを中心に解説する。
ポイント NAFLD患者はわが国で2,000万人以上存在するといわれている。 NAFLD/NASHは肝硬変および肝がんに至る病態である。 NAFLD/NASHに対する薬物治療について多くの臨床試験が進行中である。 新たな概念として脂肪肝をSLDという形でまとめ、その下でのMASLD/MASHなどの新しい名称による疾患分類が提唱された。 MASLD/MASHは代謝、循環器など臓器横断的な疾患としての意味合いも包含している。
はじめに 家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は、LDL受容体関連遺伝子の変異を原因とする常染色体顕性遺伝疾患である。その臨床的特徴は高LDL-C血症、アキレス腱肥厚をはじめとする腱または皮膚結節性黄色腫、早発性冠動脈疾患の3つである。 高LDL-C血症患者を診察する際はFHを常に念頭に置く必要がある。本稿では、『成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』を基にFH診断のコツ(行間・考え方)と積極的な脂質低下治療の重要性について概説する。また、1人のFH患者を診断した後には、家族スクリーニングを実施し、家族も早期に治療することが若年死の予防につながることを忘れてはならない。
この原稿が読者である先生方のお目に届くのはおそらく食欲の秋が到来した頃と思われるが、私どもが本原稿を執筆しているのは「土用の丑の日」を過ぎたばかりの酷暑真っ只中である。「土用の丑の日」というのは江戸時代の名コピーライター平賀源内翁による夏場のウナギ販促コピーであると伝えられているが、そのような事情を抜きにしても、滋養強壮に優れたウナギは実際に夏バテ対策として適した食品である。 さてウナギの栄養価を食品成分表で確認してみると、100g当たり炭水化物3.5gに対して脂質5.3g、そしてタンパク質13gと、高脂質高タンパクの食材である。すなわち、ウナギのような「滋養強壮に効く」食材は、脂質異常症と高尿酸血症を惹起しやすいのである(血中尿酸は食品内プリン体に由来するのが20~30%で、残りの70~80%はアミノ酸からのde novo経路を介した合成に由来する)。そしてウナギに限らず、われわれが美味しいと思うものをたくさん摂取することは、脂質異常症と高尿酸血症の発症に直結するわけである。 近代から現代にかけての食糧事情の改善は、われわれが欲する食料品へのアクセスを容易にし、それに伴い脂質異常症や高尿酸血症を含む生活習慣病はコモンディジーズとなった。ちなみに、かつて「成人病」と称されていた疾患群を「成人になることが病気を作るのではなく、われわれを取り巻く現代の生活習慣が病気を作るのだ」と喝破して「生活習慣病」と呼び換えたのは、昭和から平成にかけての医療界における名コピーライター日野原重明先生(元聖路加国際病院 院長)である。 今回の特集は、脂質異常症および高尿酸血症(尿酸異常症)に関して日常診療で直ちに役立つ内容とすべく、脂質異常症に関しては原が、高尿酸血症(尿酸異常症)に関しては寺脇が、現時点において最もお教えをいただきたい先生方に原稿のご執筆をお願いした。そして結果として、いずれも編者らの期待を大きく超えるすばらしい論文をご執筆いただき、脂質異常症・高尿酸血症(尿酸異常症)に関して大掴みできる一冊に仕上がった。今回の特集が平賀源内翁と日野原重明先生にちなみ、読者諸賢の「臨床現場での“滋養強壮に効く”」「診療の“習慣”が変わる」のに役立つことを、強く願う次第である。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:原 眞純;講演料(興和、ノボ ノルディスク ファーマ、住友ファーマ、日本べーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、第一三共、アステラス製薬)、寺脇博之;アドバイザー料(アプローズ)、講演料(協和キリン、持田製薬) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 2024年度診療報酬改定については、2023年12月20日予算大臣折衝を踏まえ、診療報酬の改定率は+0.88%(医科 +0.52%、歯科 +0.57%、調剤 +0.16%)となった 1)。そして2024年1月12日付けの厚生労働大臣諮問に対し、2月14日に中央社会保険医療協議会より改定案が答申された 2)。答申書では、賃上げ全般、医療DX(Digital Transformation)、働き方改革・人材確保など、28項目の附帯意見が記載され、これらの意見に従って個別項目が改定され、「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」は、6月1日からの適用となった 3)。 よって今回は、改定された医科点数表の、糖尿病に係る項目の告示、通知および施設基準について、表1に示す「個別改定項目」 4)に従って概説する。なお、本稿で示す各表では、新設・改定箇所を青字で記した。また次回では、内分泌疾患を中心に改定内容を概説し、DPC (Diagnosis Procedure Combination:包括評価)制度については、別途概説する。
はじめに わが国における65歳以上の高齢者の割合は2023年9月の推計で29.1%と世界で最も多く、80歳以上の人口も10.1%と10人に1人が80歳以上という超高齢社会のただなかにある。 こうした背景から日常の臨床でも、生活に見守りや支援が必要だと思われる例が増加している。高齢糖尿病患者を支えるサービスはさまざまあり、本稿では高齢糖尿病患者や介護者が特に必要とすると思われるサービスについて概説する。忙しい外来診療の中で全てを調整するのは非常に困難であるが、高齢糖尿病患者への支援の第一歩は、診療の中で意識して支援が必要な人や将来要介護となるリスクが高い人をスクリーニングし、速やかに地域包括支援センターなどにつなげることである。
「近代絵画の父」として知られるポール・セザンヌ(図)は、1839年1月19日、南フランスのプロヴァンスに生まれた。父のルイ=オーギュスト・セザンヌは、一介の行商人から銀行家まで成り上がった人物であった。彼は長男であり、妹が2人いた。1858年、セザンヌは父の勧めでエクス大学(現・エクス=マルセイユ大学)の法学部に進んだが、画家になる夢を諦めきれず、1861年についには父を説得し、月125フランの仕送りをもらいパリで絵画を学んだ。一旦は自分の才能の絶望し帰郷したものの、翌年パリに出戻り、画塾で学んだ。そこで、モネやルノワールと出会ったようである。その後1865年から1871年まではサロン(官展)に応募しては落選を続けた。彼がサロンに入選したのは1882年の一度きりであったが、1889年の万国博覧会に作品を展示したころには前衛的な若い芸術家や批評家たちの間でセザンヌに対する評価は高まっていった。1895年、画商ヴォラールによって開かれた初の個展は1868年ごろから1895年までにわたる約150点の油彩画でセザンヌの画業の集大成ともいわれる作品で、好評を得た 1~4)。
はじめに 令和5年10月に板橋区医師会が一般区民向けに行ったアンケート(総数579人中、70歳以上131人)では、70歳以上の高齢者でのオンライン診療経験者は4%と少なかったが、同集団で不測の事態の際にかかりつけ医によるオンライン診療を希望するという方が52%、かかりつけ医でない初診でも希望するという方が20%おり、高齢者であってもオンライン診療に対するニーズが広がってきていることを示す結果であった。 高齢者はオンライン診療の良い適応であるか? と問われるとその答えは良い適応とはいえない。なぜなら、高齢者の特徴である「症状が非定型的」「多疾患を抱えている」などの特性があるため、特に初診でのオンライン診療、処方に関してはかなり慎重にならざるを得ない。また、高齢者では情報端末を持っていない、操作ができない、音声が聞き取れないなどの諸問題があり、このような場合にはオンライン診療支援者のサポートが必要となる。では、オンライン診療は高齢者に対して有用であるか? については、有用であると断言できる。通常診療を補完するような使用方法、さらにはこれまで不可能であったことを可能としたさまざまな工夫が現場では始まってきている。 一方、オンライン診療と糖尿病との相性については、採血結果に基づく診断や初診時では全く役に立たないものの、その治療においては良い適応であり、有用であると考えられる。なぜなら糖尿病診療は日常生活そのものに密接に関連しており、これらの情報が問題解決のために大いに役立つこと、血糖自己測定などのPHR(Personal Health Record)の情報が把握できる場合には通常の診療とほぼ同レベルの診療を行うことができること、さらには多職種の介入やシックデイ時の介入機会を増やしやすいなど利点は多く相性が良い。 本稿では2022年4月に日本老年医学会から発出された「高齢者のオンライン診療に関する提言」 1)を元にかかりつけ患者(再診時)を中心とした高齢者糖尿病におけるオンライン診療の利活用について紹介する。
Q&A編はこちら はじめに バセドウ病や慢性甲状腺炎に代表される甲状腺疾患は女性に多く、若年で診断される頻度が高い 1)。このため、内分泌疾患を診療する医師であれば、甲状腺疾患患者の妊娠に関連したマネージメントに携わる機会は多い。本稿では、代表的な甲状腺疾患であるバセドウ病、甲状腺機能低下症、甲状腺腫瘍について、妊娠前、妊娠中、産後のそれぞれの時期に注意すべきポイントについて概説する。
はじめに 糖尿病は認知症のリスクを約2倍に増加させる。糖尿病では、認知症の前駆段階と考えられている軽度認知障害のリスクも高くなり、遂行機能や注意力、記憶力などの障害により、服薬や食事・運動療法のアドヒアランス低下をきたし得る。そのため、認知症を予防することは重要である。糖尿病治療においては、高齢者の個々の状態に合わせた柔軟な血糖コントロール目標の設定や低血糖への配慮、血糖変動の抑制が必要である。また、運動療法や食事療法だけではなく、人との交流などの社会的活動を積極的に行うことも認知症予防に有効である可能性が示されている。近年では、これらの要因に同時にアプローチすることで、より大きな認知症予防効果が得られることが期待されている。本稿では、糖尿病における認知症予防のエビデンスに加えて、2019年からわが国で開始された「高齢者2型糖尿病における認知症予防のための多因子介入(J-MIND-Diabetes)」の成果について概説したい。
Q&A編はこちら はじめに スティグマとは、特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」という意味を持ち、誤った知識や情報が拡散することにより、対象となった者が精神的・物理的に困難な状況に陥ることを指す 1)。糖尿病のある人に対する社会からの差別と偏見は、糖尿病のある人に社会的・経済的に不利益を与え、彼ら自身の社会的地位と自尊感情を著しく損なっている。この状況を糖尿病スティグマという 2)。
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