3.小児・思春期1型糖尿病患者・家族への看護師からの指導・支援
https://doi.org/10.57554/2025-0004
はじめに
令和5年(2023年)の日本人の平均寿命は、男性81.1年、女性87.1年となり、女性は90歳で約半数が生存するなど 1)、人生100年時代を迎えている。また、糖尿病のある症例の平均死亡年齢は、男性74.4 歳、女性77.3 歳で、日本人一般の平均寿命に比して短命ではあるものの、その差は縮まってきている 2)。人生は長くなっても小児の成長発達のスピードは変わらないため、相対的に短くなった小児・思春期の中で、その後の長い人生の基礎が培われるようになったといえる。近年、糖尿病医療は、持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)と持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)を組み合せたSAP(sensor-augmented pump)療法、CGMと連動しグルコース値に応じてベーサルインスリン量を自動的に増減する機能をもつHCL(Hybrid Closed Loop)が開発されるなど、急速に進歩している。1型糖尿病のある小児を取り巻く社会や医療が大きく変化する中で、小児期から成人期への移行を見据え、小児自身が力をつけていくための支援について看護師の立場から述べていきたい。
1.成長発達を中心に据えた支援
1型糖尿病はどの年代でも発症し、生涯にわたり生活の中で管理していくことが求められる。また、1型糖尿病はライフステージや罹病期間が変化しても、インスリンの補充と血糖モニタリング、そして食事や運動、ストレス管理などの健康的な生活が療養の基本となる。成人では年齢というより、生活習慣や糖尿病管理、慢性合併症などの状況、セルフケア能力などをアセスメントし支援が行われる。一方、成長発達の途上にある小児では、成長発達段階により身体の構造や生理・機能、認知機能や社会性などが大きく異なるため、成長発達段階を中心に据えて支援が行われる特徴がある。
1型糖尿病発症時の成長発達段階により、発症時に必要な支援だけでなく、思春期に必要となる支援も異なってくる。幼児期から小学校低学年の年少で発症した思春期患者では、糖尿病のある生活体験が豊富で疾患管理が普通になっており、成長とともに少しずつ疾患管理ができるようになっている。一方で、親や周囲からサポートされてきたことで、思春期に自ら説明したり医療者と直接話すことに困難を生じやすく、小児自身で判断し行動できるような支援が重要となる。思春期発症の患者では、発症時に本人が大きなショックを受けやすく、短期間で基本的な疾患管理ができるようになっても、退院と同時に多様な場で適切な疾患管理を求められ、状況に応じたインスリン調整や生活の工夫、周囲への説明やストレス対処などが必要となり、周囲からのサポートを必要としている。その一方では、医療者と親を介さずに話ができ、疾患管理が役立つと認識できると前向きに捉えられる強みもある 3)。患者がCSIIやCGMなどの知識や技術を習得していても、患者の気持ちや生活での困りごと、周囲のサポートについてよく話を聞き、本人の望む生活が実現できるように具体的に情報提供をしたり相談に乗る支援が重要になる。
疾患管理の基盤となる生活習慣についても、小児は生活習慣を築いていく過程にあり、糖尿病の有無によらず、生きるための基本で小児の健全育成に必須となる健康的な生活習慣を育む視点が重要である 4)。小児期に獲得された生活習慣は生涯にわたり継続されやすいとされており、小児期に健康的な生活習慣を育む支援は、成人期以降の健康的な生活習慣のためにも必要である。