5.LOH症候群とテストステロン補充療法

  • 小川純人 Ogawa, Sumito
    東京大学大学院医学系研究科老年病学 教授
公開日:2025年2月27日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(1): 0006./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(1): 0006.
https://doi.org/10.57554/2025-0006

はじめに

 男性においては、加齢に伴う性ホルモン低下と男性更年期障害との関連性が知られており、中には骨強度低下、筋肉量減少、筋力低下を伴うことにより運動機能や身体機能の低下を引き起こすことが指摘されている。加齢に伴うさまざまな機能変化の中でも、運動機能、歩行能力などの人間の身体機能、生理機能は年齢とともに低下していくことが知られている。また、生殖内分泌器官の機能低下により性ホルモンの動態も大きく変化し、性ホルモンレベルの低下、アンドロゲン受容体(AR)をはじめとする性ホルモン受容体シグナルの減弱が考えられる。男性において、加齢による性ホルモン低下は、抑うつ、性欲低下、性機能の減退、知的活動や認知機能の低下、睡眠障害をはじめとする男性更年期障害とも関連し、Partial androgen deficiency in aging male(PADAM)あるいはLate-onset hypogonadism(LOH)という概念が提唱されている。また、加齢に伴い骨強度の低下、筋肉量の減少、筋力低下(サルコペニア)を認め、高齢者の身体機能は一層低下し、activities of daily life(ADL)の自立がより困難となり、結果的に転倒、骨折による要介護状態に陥る場合も多い。このように、骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折やサルコペニアなどは、運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを規定し、高齢者本人、介護者のquality of life(QOL)を低下させてしまう場合が多く、その対策は重要である。

1.LOH症候群とは

 LOH症候群の症状、徴候としては、①抑うつ、不安、疲労感などの「精神症状」、②睡眠障害、記憶や集中力の低下、肉体的疲労感、筋肉量と筋力の低下、骨塩量の低下などの「身体症状」、③性欲低下、勃起障害などの「性機能関連症状」の3つに大別される 1)
 LOH症候群では、不定愁訴で受診する場合も少なくなく、質問紙を通じた問診、スクリーニング、他疾患との鑑別を実施し、血中テストステロン濃度の測定をはじめとするホルモン学的検査を中心に、性腺機能を評価することが重要である。一般に、男性ではテストステロンは主として精巣ライディッヒ細胞より分泌され加齢とともに低下する一方で、その程度には個人差を認める場合が多い。また、性ステロイドの前駆体であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は、その硫酸抱合体である。
 DHEA-sulfate(DHEA-S)とともにそのほとんどが副腎で産生され、それ自体が弱いアンドロゲン活性を有することから副腎アンドロゲンといわれている。DHEA、DHEA-Sは20代以後加齢とともに直線的に減少することが明らかとなってきている。加齢に伴い、テストステロン血中濃度は徐々に低下する一方で、性ホルモン結合グロプリン(SHBG)の増加を認め、生理活性の強い遊離テストステロンの加齢による低下はより顕著となる 2)図1)。これらの結果として、男性におけるテストステロンの低下は、うつ症状、性欲低下、勃起障害といった男性更年期障害(PADAM、LOH)や、サルコペニア・フレイル、骨粗鬆症、肥満、脂質異常症、認知症をはじめとする老年疾患や生活習慣病と関係することが指摘されている。

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