はじめに 臨床現場で用いられる薬物について“どのような薬(what)を” “どのように(how)”使うかと考えながら診療に従事するが、薬物動態(pharmacokinetics)を理解することで、年齢や合併症などで患者に薬物療法を最適化させる際に役立つと考えられる。本稿では臨床現場に役立つ薬物動態のポイントを解説する。
はじめに 動悸や息切れは、日常診療で頻繁に遭遇する症状であり、心血管疾患や呼吸器疾患、貧血、神経・筋疾患、精神疾患など多岐にわたる原因が考えられる。しかし、これらの症状は内分泌代謝疾患によっても引き起こされることがあり、適切な鑑別診断が重要である。本稿では、動悸・息切れの鑑別診断について概説し、内分泌代謝疾患による動悸・息切れの原因(表1, 2)として代表的な甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症)と褐色細胞腫、パラガングリオーマを中心に、その随伴症状や診断のポイント、病態、診断、そして治療について解説する。
はじめに 日常診療において、倦怠感を訴える患者に遭遇することは少なくない。特にコロナ禍の特異的な状況を経て、倦怠感を訴えるケースは増加したと感じる。倦怠感を惹起し得る疾患は多岐にわたる。倦怠感の病因を内分泌疾患に見出すためには、患者の意味する倦怠感を紐解く問診を工夫すること、得られた病歴・理学所見からさまざまな内分泌疾患を鑑別するための随伴症状・身体所見を知り、一般検査での検査値異常にも留意しておく必要がある。
内分泌代謝・糖尿病内科専門医の存在は、医療機関の診療の質の向上に大きく貢献する。周術期の血糖管理はいうまでもなく、何らかの内分泌代謝領域の問題を抱えている患者はまれではない。これらの患者の病態を見逃してしまうか、それとも正しく診断して適切な治療を提供するかによって、治療効果や患者の満足度は大きく変わってくる。ひいてはその医療施設の評価にも大きな影響をもたらすであろう。日常的に出くわすありふれた症状や検査値異常に内分泌代謝疾患が潜む可能性は必ずしも低くなく、それを相談する受け皿があることにより、診療の質全体の向上にも寄与し得ることが期待される。内分泌代謝科を志す医師には、自らの適切な評価と判断が、医療の質を左右していることを肝に銘じていただけるよう、切に願っている。 一方で、内分泌代謝領域の専門医を目指さない医師にとっても、日々遭遇する訴えに多くの内分泌代謝疾患が潜んでいることを理解しておくことは、自らの診療の質の向上に大きく貢献するであろう。臓器別診療科による診療が一般的となり、各領域の専門医は自らの定めた範囲から外れる症状や主訴に無関心となる傾向があることは必ずしも否めない。特に高齢患者の抱える医療的なプロブレムは単純ではなく、そこには多様な病態がオーバーラップしていることがある。全身倦怠感・易疲労感は極めてコモンな愁訴であるが、問診によってその具体的な問題のありかを整理することで、潜在する内分泌代謝疾患の可能性が見えてくることがある。あまりにもありふれた訴えであるがゆえに、つい聞き流してしまったり、自らの専門領域の視点からの評価に止まったりしていることはまれでないと想像される。 本特集は、以上のような背景から、本誌が対象とする内分泌代謝領域の専門医および専門医を目指す医師にとってはいうまでもなく、それ以外の領域の医師にも有意義な情報を提供するものとして企画された。この特集を目にする全ての人々にとって、明日からの診療に役立つものであることを編者一同確信している。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:竹内靖博;講演料(協和キリン、アレクシオンファーマ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 高血糖の急性合併症には、糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群などがあり、このような合併症の場合は救命救急の治療が必要となる 1)。そして診療報酬医科点数表においては、「重症糖尿病」が算定対象になる救命救急入院料、特定集中治療室管理料、ハイケアユニット入院医療管理料、小児特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、新生児治療回復室入院医療管理料、救急医療管理加算、また「治療中の糖尿病患者」が算定対象になるハイリスク妊娠管理加算、ハイリスク分娩等管理加算、および「難治性低血糖症」や「糖尿病性昏睡などにおける救急的治療」などが対象となる人工膵臓検査・療法と皮下連続式グルコース測定について、算定要件や施設基準が示されている。よって今回は、これら特定入院料、入院基本料加算、検査および処置について医科点数表告示・通知(以下、告示、通知)より概説する。
はじめに 私が大学を卒業したのは1985年。今からちょうど40年前です。読者の多くの方は想像が難しいでしょうが、当時はヒトのインスリンが出たばかりで、まだブタやウシのインスリンが出回っており、SMBGも始まったばかりでした。1年先輩の野田光彦先生は「糖尿病は国民病、これからは糖尿病が重要な疾患になる」という言葉を繰り返し話されていました。1970年代から1980年代は、今に繋がる糖尿病学の基礎や臨床の実践の流れが形作られた時期でした。当時のことについて書いてみたいと思います。
はじめに 岡山県は県内に医学部のある大学が2つ(岡山大学、川崎医科大学)あり、医師数は320.1人(人口10万人対)と多いとされているが、地域によって偏在がある。県北には中国山地があり、広域にもかかわらず人口も医師も少ない医療圏である。一方、岡山市や倉敷市がある県南は交通の便もよく、人口や医師も多い医療圏であるが、県民の半数が岡山市に、残りのさらに半数が倉敷市に在住しており、人口あたりの専門医数は県北よりも少ない状況にある。県北、県南いずれの地域事情においても、年々増加している糖尿病や慢性腎臓病(CKD)に罹患した全ての県民を専門医だけでカバーすることは物理的に困難である。そこで岡山県では、2012年から第2次地域医療再生計画において、「糖尿病等生活習慣病医療連携推進事業」が開始された(2016年より「糖尿病医療連携推進事業」に改称)。その体制の下で、糖尿病対策専門会議およびCKD・CVD対策専門会議の独立した2つの会議体が設置されている 1)(図1)。この2つの会議体は、それぞれ行政や医師会、看護協会、薬剤師会や栄養士会などさまざまな団体とともに連携し、糖尿病やCKDの医療連携や普及・啓発活動に取り組んできた。今回は、岡山県における糖尿病やCKDに対する医療連携について紹介したい。
Q&A編はこちら はじめに 脂質異常症は生活習慣病の代表的な疾患である。日常診療で扱う高中性脂肪(triglyceride:TG)血症は糖尿病や生活習慣に起因する続発性のものが多いが、本稿では高TG血症をみた時の鑑別や必要な検査・治療について考えていきたい。
はじめに 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の中でも、糖尿病関連腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)は糖尿病の主要な合併症の一つであり、進行すると末期腎不全から透析療法を必要とする。また、DKD患者では心血管疾患のリスクも著しく増加するため、腎臓病の進行抑制だけでなく、全身的なリスク管理が求められる。そのため、早期からの包括的な管理が重要であり、医師を中心とした多職種連携のチーム医療の実践が不可欠となる。具体的には、医師による診断と治療方針の決定、看護師による日常生活支援、管理栄養士による食事療法の支援、薬剤師による薬剤管理、さらに理学療法士による運動支援やソーシャルワーカーによる社会的支援の提供などが挙げられる。実臨床でのDKD患者に対する多職種連携チーム医療は、腎機能低下速度を抑制し、透析導入回避期間を延長するだけでなく、患者満足度や生活の質(QOL)の向上にも役立つことが報告されている 1, 2)。しかし、多職種連携にはいくつかの課題も存在する。すなわち慢性的な人手不足や時間的制約、患者の心理的・社会的背景なども多職種連携の実践例にはハードルとなる。本稿では、多職種連携の具体的な実践例を紹介するとともに、それを阻む課題についてさらに詳しく考察し、今後の改善策も考えてみたい。
Q&A編はこちら はじめに 近年、人口の高齢化に伴い、高齢の糖尿病患者は増えている。高齢の糖尿病患者は軽度認知障害や認知症が約1.5倍起こりやすくなる 1)。従って、認知症を伴った高齢者の糖尿病患者も増加している。認知症に至っていなくても認知機能障害があると、糖尿病のセルフケアの食事、運動、内服、注射などのアドヒアランスは低下し、セルフケアを肩代わりする介護者の負担は増加する。 本稿では認知症のある糖尿病患者の療養支援について解説する。
はじめに 糖尿病関連腎臓病(DKD)はわが国の末期腎不全の主たる原因疾患である。近年、腎保護効果を持つ薬剤の登場により、DKDからの末期腎不全への進展抑制が大きく期待できるようになった。これらの背景から『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』そして『糖尿病診療ガイドライン2024』においても、DKDの薬物療法に関して大幅なアップデートがなされている。共通しているのはSGLT2阻害薬を中心に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、GLP-1受容体作動薬を併用していくという考え方である。従来から用いられているレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を加えた、これら4つの薬剤がDKD治療の重要な柱になると考えられる。本稿では、これらの薬剤のクリニカルエビデンスとガイドラインでのポジショニング、今後の展望について述べる。
ポイント 男性性腺機能低下症は原発性(高ゴナドトロピン性)と続発性(低ゴナドトロピン性)がある。 器質的な異常のないLOH症候群が男性更年期障害として徐々に認知されつつある。 男性性腺機能低下症は臨床症状と血中総テストステロン低値から診断されることが多い。 テストステロン補充療法は男性性腺機能低下症に関連した性機能低下などの改善に有効である。 テストステロン補充療法に伴う前立腺癌や心血管疾患のリスク増加に関しては否定的な研究が多い。 日本ではテストステロン製剤は筋注製剤が中心であり、塗布製剤や貼付製剤などより安定した血中濃度が得られる薬剤の承認が求められている。
はじめに 糖尿病性腎症は、2011年に透析患者の主要原疾患の第一位となり、現在維持透析患者の約4割を占めるに至っている。さらに近年、典型的な糖尿病性腎症の臨床経過をたどらない症例を含めた糖尿病関連腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)という概念が提唱され話題を呼んでいる。糖尿病性腎症においては、腎症進行を抑制する目的でタンパク質の摂取制限が行われてきた。一方で社会の高齢化とともに、DKDを含む慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者におけるサルコペニア・フレイルが注目され、また進展したCKD・DKDでは特徴的な栄養障害であるprotein-energy wasting(PEW)も大きな問題となっている。従って、タンパク質摂取制限が望ましくない症例が増加している可能性がある。そのため、DKDの食事療法としては、腎機能と栄養状態の維持を両立させるためのプローチが求められている。本稿ではDKD進行予防のための食事療法やDKDにおける栄養障害、実際の食事療法の考え方について考える。
はじめに 薬物が生体に投与されると、その多くは小腸から吸収され、門脈を経て、肝臓を通過する。この過程で、薬物の一部は代謝される。その後、薬物は血流によって体内の各組織に分布し、標的分子に作用する。そして、尿中や胆汁中に排泄される。効果を発揮するために必要な作用部位における薬物濃度は、こうした薬物の体内動態により決定される。すなわち、副作用を抑え、十分な薬効を得るためには、薬物の体内動態を把握することが必要不可欠である。この過程は、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の頭文字をとってADMEと呼ばれる。本稿では、薬物の消失に関わる代謝および排泄について概説し、薬物の効果や薬物相互作用との関係について述べる。
はじめに 糖尿病を持つ方は、臨床的特徴、すなわち、病態、合併症の起こり方、治療反応性などが個々で異なるため、これらすべて考慮しながら、一人ひとりに最適な医療をすすめることが推奨される 1)。これを、糖尿病の個別化医療(personalized or individualized medicine)と呼ぶ 1)。糖尿病を持つ方の個別化医療を考える場合、合併症の病態と(発症と進展の)プロセスを明らかにすることが肝腎である。近年、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性に注目が集まっている 2)。本稿では、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性を、人工知能を用いた糖尿病分類という視点から考えてみたい。
はじめに 糖尿病の併存疾患の中で慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は主要なものの一つである。しかし、その腎障害を表現する名称に関してはDiabetic Nephropathy、Diabetic Kidney Disease、CKD with Diabetes、あるいはDiabetes and CKDなど呼称に関して世界的にもさまざまな混乱がある。同様の混乱は本邦でも認めていた。そこで、2024年より日本糖尿病学会、日本腎臓学会は米国を中心として世界で多く使われている「Diabetic Kidney Disease」に対応する日本語訳を「糖尿病関連腎臓病」とし、その概念を定義した。本稿では、糖尿病症例における腎臓合併症の歴史的背景を振り返るとともに、疾病概念の定義と定義が必要となった背景も概説する。
糖尿病における持続的な高血糖状態は、細胞内代謝異常や糸球体過剰濾過を引き起こし、糸球体障害を主な病変とする糖尿病性腎症を発症させる。そして、糖尿病性腎症では、糸球体障害に伴うアルブミン尿の増加が腎予後の悪化リスクとなることが明らかになっている。このため、厳格な血糖マネジメントやレニン・アンジオテンシン系阻害薬を用いた集学的治療によりアルブミン尿を予防・改善することが、糖尿病性腎症治療の最優先課題として確立された。その結果、現在ではわが国における糖尿病性腎症からの新規透析導入者数は減少に転じつつある。一方で、糖尿病治療の進歩に伴い、糖尿病患者の高齢化が進んでおり、その結果、アルブミン尿を伴わずに緩やかに腎機能が低下する症例が増加するなど、糖尿病患者が呈する腎障害の病態は多様化している。そこで、これら多様な病態を包括的に表現するため、「糖尿病関連腎臓病」という新たな概念が定義された。治療においては、従来の食事・運動療法を含む血糖・血圧の厳格なマネジメントを基本としつつ、Sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬、非ステロイド型Mineralocorticoid receptor(nsMR)拮抗薬といった新しい薬剤の使用により、さらに腎予後を改善することが可能となっている。このように、高齢化や治療の進展が急速に進むわが国において、糖尿病関連腎臓病のさらなる予後改善を目指した診療の実践が求められている。そこで本特集では、糖尿病関連腎臓病研究および診療のエキスパートである金﨑啓造先生(島根大学)、島袋充生先生(福島県立医科大学)、森克仁先生(大阪公立大学)、川浪大治先生(福岡大学)、豊田雅夫先生(東海大学)、内田治仁先生(岡山大学)に、それぞれ糖尿病関連腎臓病の「定義と概念」、「病態の多様性」、「食事療法」、「薬物療法」、「多職種連携」、「地域連携」をテーマに解説いただいた。いずれも糖尿病関連腎臓病の理解を深め、明日の診療に役立つ内容となっている。本誌が皆様の糖尿病関連腎臓病診療のさらなる向上にお役立ていただければ幸いである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:繪本正憲;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、協和キリン)奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム)、久米真司;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、協和キリン、アステラス製薬、アストラゼネカ、田辺三菱製薬)、研究費・助成金(日本ベーリンガーインゲルハイム)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、住友ファーマ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 男性においては、加齢に伴う性ホルモン低下と男性更年期障害との関連性が知られており、中には骨強度低下、筋肉量減少、筋力低下を伴うことにより運動機能や身体機能の低下を引き起こすことが指摘されている。加齢に伴うさまざまな機能変化の中でも、運動機能、歩行能力などの人間の身体機能、生理機能は年齢とともに低下していくことが知られている。また、生殖内分泌器官の機能低下により性ホルモンの動態も大きく変化し、性ホルモンレベルの低下、アンドロゲン受容体(AR)をはじめとする性ホルモン受容体シグナルの減弱が考えられる。男性において、加齢による性ホルモン低下は、抑うつ、性欲低下、性機能の減退、知的活動や認知機能の低下、睡眠障害をはじめとする男性更年期障害とも関連し、Partial androgen deficiency in aging male(PADAM)あるいはLate-onset hypogonadism(LOH)という概念が提唱されている。また、加齢に伴い骨強度の低下、筋肉量の減少、筋力低下(サルコペニア)を認め、高齢者の身体機能は一層低下し、activities of daily life(ADL)の自立がより困難となり、結果的に転倒、骨折による要介護状態に陥る場合も多い。このように、骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折やサルコペニアなどは、運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを規定し、高齢者本人、介護者のquality of life(QOL)を低下させてしまう場合が多く、その対策は重要である。
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