はじめに 現代社会では、科学技術の発達と生活の利便性向上により身体を動かす機会が減少し、種々の生活習慣病を発症させる要因となっている。また、information technology(IT)の普及に伴い、巷に溢れた情報が精神的な負担となり、うつやストレスの原因となっている。こういった健康を蝕むさまざまな脅威に直面する現代人にとって、主体的に運動・スポーツに親しむことは、体力の維持・増進、疾病やうつの予防、ストレスの軽減など、心身の健康に大きな効果をもたらすことが期待されている 1)。
「スポーツ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか…? 春であれば新たなシーズンが始まる野球、サッカー、冬であればラグビー、スキーなどさまざまな競技スポーツを思い起こす方が多いのではないかと思う。柔道、剣道、相撲、レスリングなどの格闘技や、バレーボール、バスケットボールなどの球技を想起される方もいらっしゃると思う。しかし、中世の英国では狩猟、乗馬、釣りがスポーツであった。スポーツ(sport)の語源はラテン語の“deportare(運び去る、運搬する)”という言葉である。つまり、気分の転換、仕事や家事などの日常生活からの解放こそがスポーツ、スポーツは遊ぶことであり、楽しむことなのである。 しかし日本では運動嫌いの人たちが少なくない。その理由の一つとして、体育の授業が挙げられる。私自身も鉄棒では前方支持回転ができずに劣等感に打ちひしがれたし、授業中に「達成感」を実感したこともない。一部の教師は何をするにも命令口調で、辟易とした覚えがある。大学ではサッカー部に所属し、有能な先輩たちの活躍で東日本医科学生総合体育大会での優勝も経験したが、私がスポーツとして心から楽しむことができたのは、40歳の中盤から始めたフルマラソンだった。 ゴルフの際になかなか人数が集まらなかったので、一人でできるジョギングを始めた。手始めに10kmのロードレースを走り、3カ月後には、ハーフマラソンを経験した。そして、半年後に無謀にもホノルルマラソンに挑戦したのである。フルマラソンはハーフマラソンの「2倍」の距離を走るレースだが、苦しさと辛さは、5倍にも10倍にも思えた。レースの後半には、もう2度とマラソンなんか走らない…と繰り返し呟いていた。しかし、レースが終わって数時間経つと、何とも言えぬ達成感と充実感を覚えたのである。そして、その後もマウイマラソン、シドニーマラソン、NAHAマラソン、北海道マラソンなど30を超える大会に参加した。走るということが、何も考えずに自由になれる、楽しいものだと実感したのである。スポーツはまさに遊ぶことであり、楽しむことなのである。 ひとが遊び、楽しむことのサイエンスをまとめてみたいと思い「スポーツと内分泌疾患」というタイトルの特集を組んでみた次第である。遊び好きの私が原案を作り、まじめで勉強家の細井雅之先生が多くのエキスパートの先生たちに声をかけてくださり、今回の特集が出来上がった。 メンタルヘルス、骨格筋・骨関連ホルモン、ジェンダー、水電解質、糖代謝異常など多くの側面からのスポートロジーをお楽しみいただきたい。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:細井雅之;講演料(サノフィ、住友ファーマ、日本イーライリリー) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)は、日本の成人の12.9%、約1,330万人以上が罹患していると報告されており、一般診療で遭遇することの多い疾患である。CKD患者の多くは高血圧を合併しており、高血圧の合併はさらなる腎機能低下へつながるため、CKD合併高血圧患者では適切な血圧管理が求められる。本稿では、CKD合併高血圧の薬剤治療について解説する。
『人間喜劇』で知られるフランスの小説家、オノレ・ド・バルザック(図)は1799年5月20日、フランス中央に位置するトゥールに生まれた。出生証明書はトゥールの市役所に現在も保管されているが、貴族の称号である「ド」は見当たらず自称である。父のベルナール・フランソワは農民の出身であったが、故郷を出て成り上がり、第22師団の兵站(補給部隊)部長であった。母は父よりも30歳以上年下であった。
はじめに 食塩制限は栄養指導の中でも最も基本となるところであり、多くの慢性腎臓病(CKD)患者は食塩制限を指導されている。CKD患者にとって食塩制限は非常に理にかなっていそうだが、臨床研究に裏打ちされたエビデンスはどの程度あるのだろうか。2023年に日本腎臓学会による「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」が発行されたが 1)、筆者は「CKD患者への食塩制限は推奨されるか?」に対するステートメントに対してシステマティックレビューの取りまとめを担当させていただいた。本稿ではCKD患者の高血圧管理に関して、食塩制限を中心に概説したい。
ポイント 甲状腺のしこりを「甲状腺結節」、結節により甲状腺が腫れている状態を「結節性甲状腺腫」という。 経過観察期間についてのエビデンスは乏しいが、ACR-TIRADSでは5年としている。 欧米では細胞診検体による遺伝子パネル検査が実用化され、診断的治療を目的とした甲状腺手術は抑制される方向になりつつある。 多結節性甲状腺腫は遺伝性疾患に関連していることがあり、該当する疾患を知っておくことが必要である。
新型コロナウイルスの脅威がすっかり過ぎ去ったかのような社会全体のムードに伴って人々が行き交うようになり、学会や講演会も現地で開催されることが増えてきた。昨年12月には2週連続で週末開催の学会に参加し、リアルタイム(rt)CGMに関するランチョンセミナーでの講演を行ってきた。
はじめに 糖尿病治療の目的は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの実現を目指すこと」とされており、糖尿病に関連する合併症を防ぐことである。英国で行われたUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)において血糖以上に血圧コントロールがより有効に、効率的に合併症を防げることが明らかとなり、糖尿病合併高血圧患者の降圧治療は必須である。
Q&A編はこちら はじめに ―運動療法に行動経済学を取り入れる 皆さんは、目の前の患者に対して、「なぜ、この方は運動しようとしないのか?」「なぜ、この方も運動療法が続かないのだろう?」と感じたことはないだろうか? そう、「ヒトは不合理な行動をとる生き物」 1)である。運動が体にいいことは100人中100人は分かっている。行動経済学とは、人間が必ずしも合理的な行動をとらないことに注目し、人間の心理的、感情的側面の現実に即した分析を行う学問である。「ヒトは不合理な行動をとる生き物」と考えるのである。
はじめに 医療計画 1)は、都道府県が国の定める基本方針に即し、地域の実情に応じて都道府県における医療提供体制の確保を図るために策定するものである。1985年に医療計画制度が導入され、2006年の第五次医療法改正においては、糖尿病を含む4疾病と5事業の具体的な医療連携体制が位置付けされた。そして2024年度からの第8次医療計画では、対象が「5疾病・6事業および在宅医療」となり、都道府県別に6年間の医療計画が策定されて推進される。5疾病は、「がん」、「脳卒中」、「心筋梗塞などの心血管疾患」、「糖尿病」、「精神疾患」、6事業は、「救急医療」、「災害時における医療」、「新興感染症発生・まん延時における医療」、「へき地の医療」、「周産期医療」、「小児医療(小児救急を含む)」であり、これらに「在宅医療」が加わる。今回は、この医療計画と、その中核に含まれる糖尿病について概説する。
はじめに 二次性高血圧は、ある特定の原因による高血圧であり、一般に難治性である。しかし原因を正しく診断し治療が行われれば、その後血圧の改善の見込みもある疾患であり、適切な診断、治療が求められる。今回、二次性高血圧の中でも内分泌異常が原因となる原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫・パラガングリオーマについて述べる。
はじめに 本態性高血圧の成因については複数の因子が互いに関連しながら関与しているという、いわゆるモザイク説が約80年前にPageにより提唱された 1, 2)。その中でも食塩、本稿で述べるところのナトリウム(Na)調節異常は中心的因子といえる。Guytonらは血圧上昇とともに尿中食塩排泄が増えることを発見し、血圧と腎におけるNaと水排泄との関係、すなわち圧利尿(Na利尿)曲線を明らかにし、この曲線が右側にリセットされることにより高血圧が持続するとした。これは高食塩下において腎でのNa排泄が不十分であることが細胞外液増加につながり、心拍出量の増加と末梢血管抵抗が上昇することで血圧が上がるとする理論である 3)。本稿では、高食塩下でのNa(ここでは食塩と同義)調節異常と本態性高血圧について述べる。
Q&A編はこちら はじめに 糖質コルチコイド(以下ステロイド)はどの分野においても診療の中で使用することの多い薬剤である。しかし、ステロイドには血中半減期・生物活性半減期・力価の異なるさまざまな製剤が存在することや、各疾患によって投与量や投与方法、減量速度などが異なること、副作用に注意しなければならないことなどから、煩雑だと感じる医師も少なくない。本稿では各種ステロイドの特徴とその使い分けについての基本事項と、内分泌領域での使用例、ステロイドカバーについて述べ、実際の症例を紹介する。
はじめに 血管調節は血管平滑筋と血管内皮による収縮と弛緩の均衡維持により担われている。本態性高血圧の病態では交感神経系やレニン・アンジオテンシン(RA)系の活性化、酸化ストレス、血行動態の変化、機械的伸展力や物理的刺激の増大によりこの均衡が崩れ、血管収縮の亢進、動脈リモデリング、血管内皮機能障害が生じて、血管緊張(トーヌス)異常をきたし、動脈壁が硬くなり伸展性を失った動脈スティフネスの進行とともに慢性的な高血圧が形成されていく 1, 2)(図1)。本稿では高血圧における血管調節異常の機序を解説し、診断や治療について触れていく。
はじめに 高血圧の発症や進展、高血圧性臓器障害において、交感神経活性化を主体とした神経調節異常が重要な役割を果たしている。交感神経系は、血圧調節に関与する心臓、腎臓、血管などの末梢臓器に強力に作用し、血圧上昇の方向に働く。また、脳は末梢からさまざまな入力を受け、それらを統合・調節し交感神経出力を制御している。本稿では、心・腎・血管の各臓器に対する交感神経系の働きについて概説し、さらに、高血圧における中枢性循環調節機構と、交感神経系亢進の診断と関連する治療について、最新の知見も含めて述べる。
2022年の国民生活基礎調査によると、男女とも「高血圧症」での傷病別通院者率(男性146.7人/人口1,000人、女性135.7人/人口1,000人)が最も高く、その数は年々増加している。高血圧の大半は本態性であるが、近年では検査・治療の進展に伴い二次性高血圧の診断が増えてきている。そこで、この「国民病」に対する造詣をあらためて深め、診療の質の向上を図る企画として本特集を組んだ。 高血圧の最適な診療には、成因・診断・治療エビデンスを適確に理解することが不可欠である。また、高血圧に合併する頻度が高い糖尿病やCKDの病態も同時に把握することが適確な治療薬選択につながる。同時に、近年続々と登場している高血圧およびその関連疾患についての診療ガイドラインの活用も有用である。 本特集では、病因・病態の解説から始まり治療と予後の説明へとシステマティックに展開する読みやすい形式で、この分野のエキスパートドクターにそれぞれ詳説を執筆していただいた。本態性高血圧の成因・診断・治療法に関して、篠原啓介先生には神経調節異常、河原崎和歌子先生には血管調節異常、荒川仁香先生にはナトリウム調節異常の解説をしていただいた。吉田雄一先生・柴田洋孝先生には、主な内分泌性二次性高血圧疾患である原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫・パラガングリオーマを中心とした最新情報を解説していただいた。さらに、角谷裕之先生・杉本 研先生には、本誌の読者にとって非常に関心があるポイントだと思われる糖尿病と高血圧を合併したケースでのマネージメントをご執筆いただいた。また、昨年上梓された「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」を踏まえ、長浜正彦先生には生活習慣修正、亀井啓太先生・今田恒夫先生には降圧薬治療を中心に、 CKD合併高血圧のマネージメントを詳細していただいた。 本特集は、基礎医学的側面と実臨床的側面の両方向からのアプローチによる充実したものとなっていると自負している。読者の方々に、本特集を明日からの日常診療や研究に積極的に活かしていただければ、特集の企画者として至上の喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:下澤達雄;報酬(積水メディカル、EPメディエイト)、講演料(ノバルティス ファーマ、第一三共、サノフィ、大塚製薬)、研究費・助成金(日本ベーリンガーインゲルハイム)、能登 洋;講演料(住友ファーマ、日本イーライリリー、ノボ ノルディスク ファーマ)、研究費・助成金(マルホ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 生体膜の主要な構成成分やエネルギー貯蔵体として重要な役割をもつ脂質の代謝異常はさまざまな疾患の原因となる。肝臓や脂肪細胞での異常は脂肪肝、肥満などのcommonな疾患やまれな脂質蓄積病を引き起こす。また、血中の脂質の大部分を占めるリポタンパクの代謝異常は脂質異常症と動脈硬化症の原因となる。本稿では、これらの臨床的に重要な病態と関連する脂質の代謝異常に関して生化学的観点から概説する。
Q&A編はこちら はじめに 特定薬剤管理指導加算は、適正使用ができていないことで患者に大きな健康被害を及ぼす可能性のあるハイリスク薬に関する服薬指導について、薬剤師の専門的能力を活かし、適正かつ安全な使用ができるよう2010年度調剤報酬改定で新設された。 薬学的知見を最大限活かすことが求められる点数であり、薬剤師の対人業務の中核の一つと言える。 日本薬剤師会が「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン」 1)を策定したことなどを背景とし、ハイリスク薬に関する服薬指導について診療報酬だけでなく、調剤報酬においても処方箋受付1回につき特定薬剤管理指導加算として10点を算定できるようになった。糖尿病薬関連では、「糖尿病用剤」および「膵臓ホルモン剤」が該当する。 つまり、医師のみならず、薬剤師が患者または患者家族に対して、正確に必要な薬剤の情報を伝えることが法的に認められたことを意味し、多くの保険薬局で糖尿病薬を交付する際に責任をもって対応している。しかし、一方で保険薬局での服薬指導にかかる平均時間は3~4分であり 2)、法的に求められる情報提供量を短時間に正確に伝えることは大変難しい。 今回は、糖尿病治療薬の特定薬剤管理指導加算および関連加算の算定条件と、これまでに筆者らがさまざまな背景の患者に対して行ってきた服薬指導について紹介する。
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