5.高齢者糖尿病のオンライン診療

  • 野村和至 Nomura, Kazushi
    医療法人社団野村医院 理事長
公開日:2024年8月22日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0055./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0055.
https://doi.org/10.57554/2024-0055

はじめに

 令和5年10月に板橋区医師会が一般区民向けに行ったアンケート(総数579人中、70歳以上131人)では、70歳以上の高齢者でのオンライン診療経験者は4%と少なかったが、同集団で不測の事態の際にかかりつけ医によるオンライン診療を希望するという方が52%、かかりつけ医でない初診でも希望するという方が20%おり、高齢者であってもオンライン診療に対するニーズが広がってきていることを示す結果であった。
 高齢者はオンライン診療の良い適応であるか? と問われるとその答えは良い適応とはいえない。なぜなら、高齢者の特徴である「症状が非定型的」「多疾患を抱えている」などの特性があるため、特に初診でのオンライン診療、処方に関してはかなり慎重にならざるを得ない。また、高齢者では情報端末を持っていない、操作ができない、音声が聞き取れないなどの諸問題があり、このような場合にはオンライン診療支援者のサポートが必要となる。では、オンライン診療は高齢者に対して有用であるか? については、有用であると断言できる。通常診療を補完するような使用方法、さらにはこれまで不可能であったことを可能としたさまざまな工夫が現場では始まってきている。
 一方、オンライン診療と糖尿病との相性については、採血結果に基づく診断や初診時では全く役に立たないものの、その治療においては良い適応であり、有用であると考えられる。なぜなら糖尿病診療は日常生活そのものに密接に関連しており、これらの情報が問題解決のために大いに役立つこと、血糖自己測定などのPHR(Personal Health Record)の情報が把握できる場合には通常の診療とほぼ同レベルの診療を行うことができること、さらには多職種の介入やシックデイ時の介入機会を増やしやすいなど利点は多く相性が良い。
 本稿では2022年4月に日本老年医学会から発出された「高齢者のオンライン診療に関する提言」 1)を元にかかりつけ患者(再診時)を中心とした高齢者糖尿病におけるオンライン診療の利活用について紹介する。

1.高齢者糖尿病のオンライン診療の適応条件

 前述したように高齢者ではスマートフォンなどの情報端末をそもそも持っていない、操作がうまくできない、音声が聞き取りにくいなどの諸問題があり、単独でオンライン診療を行うことが困難であるものも多い。また、日常生活や内服管理の正確な問診を得るためには高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」 2)でのカテゴリーⅡ以上(軽度認知障害以上または手段的ADL低下以下)、このような方にオンライン診療を行う場合には診療支援者(ご家族やケアマネジャー、看護師など)のサポートが必要となる。
 また、通常の糖尿病診療としてオンライン診療を行う場合、問診だけの情報で診療を行うことは難しいため、ある程度の医学的根拠となるデータが必要となる。そのため、診療前採血、または血糖自己測定を基本としたPHRの情報が必須であり、さらに病態に合わせて体重、血圧、食事、運動などの情報も記録してもらう。これらの情報はビデオ画面経由では画像が不鮮明であるため、それぞれのツールを用いて事前に写真などで共有しておくことが望ましい。もちろんこれらの管理が難しい場合にも診療支援者のサポートが必要となる場合が発生する。
 つまり、高齢者糖尿病の通常診療におけるオンライン診療の良い適応としては、ある程度生活が自立し電話でのやりとりが可能であり、情報端末を持っている方、あるいは支援者の協力が得られる方で、かつ血糖自己測定、診療前採血などを行っている方ということになる。

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