2.週1回インスリン製剤がもたらす変革

  • 吉川芙久美 Yoshikawa, Fukumi
    東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 講師
    弘世貴久 Hirose, Takahisa
    東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 教授
公開日:2024年7月18日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0052./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0052.
https://doi.org/10.57554/2024-0052

はじめに

 インスリンは糖尿病治療になくてはならない存在である。しかしながら、その投与手技の煩雑さゆえに患者のQOLを著しく損ない、実効性に乏しい治療法としての側面も併せ持つ。従来は黙認されてきたこうした課題も、複雑化し高度化する社会的ニーズの中で必然的に解決が求められてきた。こうした時代の変遷の中でインスリンは飛躍的な進化を続け、さらなる新境地を開こうとしている。本稿では実用化が目前に迫る週1回インスリン製剤の特徴や臨床試験データの紹介と、週1回投与という新機軸がもたらす変革について考察する。

1.週1回インスリン製剤の登場

 幾重にも進化を重ねてきたインスリンは、今また新たな局面を迎えようとしている。週1回インスリン製剤の登場である。本稿では現在臨床試験段階にある2種類の製剤について概説する。

1)Insulin icodec(イコデク)

 血中半減期70時間の長時間作用型経口インスリン製剤の骨格を基本に、3つの部位のアミノ酸を置換することで分子安定性を高め、インスリン受容体(IR)との親和性を低下させることで血中半減期を延長している(図11)。さらに、溶解性も向上させることにより通常のU100インスリン配合物よりも7倍濃い濃度を実現し、週1回投与時の液量を1日1回の持効型溶解インスリン(BI)と同程度とすることを可能にした。さらにC20の脂肪酸付加によりアルブミンとの結合を増強し分子量を増大させることで、組織への拡散遅延や腎臓からの排泄を阻害し循環血液中に長く留め、血中半減期をさらに延長している。余談だが、本製剤名のicodecは、今回新たに付加されたC20脂肪酸:1,20 icosanedioic acid(イコサン二酸)を由来としている。こうした遺伝子組換え技術の進歩により196時間という長い半減期を獲得したが、代償的に最高血中濃度までの到達時間16時間、臨床的定常状態(トラフ濃度が90%を超える状態)への到達までに3~4回の投与を要する。定常状態においてイコデクは週1回の投与で7日以上の持続的かつ安定した血糖低下効果を示し、その血糖低下作用はグラルギンU100(U100)の連日投与とイコデクの週1回投与(U100の7日分の総量)が同等であることが確認されている 2)。前述の通り、長い血中半減期ゆえに効果がピークに到達するまでにタイムラグが生じ、既存のBIから同量で切り替えた際にこの期間の空腹時血糖値(FPG)の上昇が危惧された。このために導入されたのがloading dose(LD)である。これは初回投与時にイコデクを高用量で投与することで、血中濃度が不十分な期間を穴埋めするというユニークなアイデアである。第2相試験(Ph2)では開始用量の2倍を初回に投与したところ低血糖が増加した 3)ことを踏まえ、第3相試験(Ph3)のONWADS 1-6 trialsでは1.5倍に変更され、調整アルゴリズムも見直された(表14)。結果を概説すると(図2)、HbA1cは2型糖尿病(T2D)における初回導入・basal supported oral therapy(BOT)からの切り替えで対照薬に比して有意に低下し、強化療法(MDI)でのBIの切り替えでは1型糖尿病(T1D)・T2Dともに非劣性が示された。低血糖はT2Dを対象としたONWARDS 1-5では対照薬と同等であったが、T1Dを対象としたONWARDS 6ではデグルデク(Deg)に比して有意に多く 1)、インスリン抵抗性の低い患者での調整には課題が残された。インスリン分泌能の低下した患者を多く抱える本邦でも懸念点の一つであり、実臨床下での使用経験の蓄積が求められている。イコデクは2024年中の発売を目指しており、その朗報に期待が寄せられる。

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