1.SGLT2阻害薬を高齢者でどう使うか

  • 久米真司 Kume, Shinji
    滋賀医科大学 内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科 教授
公開日:2024年7月4日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0051./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0051.
https://doi.org/10.57554/2024-0051

はじめに

 SGLT2阻害薬は、尿糖排泄を増加させ血糖降下を期待する糖尿病の治療薬として開発された。しかし、その後の多くの大規模臨床研究により、SGLT2阻害薬には、その種類によらず、血糖降下作用に独立した心腎保護効果が証明され、その適応は慢性腎臓病、心不全にまで拡大された。一方で、浸透圧利尿に伴う脱水、エネルギーロスに伴うサルコペニアの懸念から、高齢者に対する安全性への懸念も存在する。本稿では、SGLT2阻害薬の臓器保護作用、高齢者における注意、そしてその背景にある病態について解説する。

1.SGLT2阻害薬の腎保護効果

 SGLT2阻害薬の腎保護効果として、アルブミン尿の減少効果とeGFR低下速度の改善効果の二つが報告されている。顕性アルブミン尿を有する患者を対象に、カナグリフロジン、ダパグリフロジンの有効性を検証したCREDENCE試験(糖尿病患者のみ)1)、DAPA-CKD試験(非糖尿病患者を含む)2)、いずれの臨床研究においても、SGLT2阻害薬によるアルブミン尿減少効果が示されている。この研究に参加した多くの患者にはすでにレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が投与されていたことから、SGLT2阻害薬には従来の標準治療に上乗せしたアルブミン尿減少効果が期待される。そして、この効果の背景には尿細管糸球体フィードバック機構の改善が関与していることが知られている。
 さらに近年、腎臓病領域の臨床研究の評価項目としてeGFR低下速度が重要視されつつある。この点で、EMPA-KIDNEY試験から興味深い結果が報告されている 3)。この試験では、アルブミン尿の有無に関わらずeGFRが低下している慢性腎臓病患者(非糖尿病を含む)を対象にSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)の腎予後が主要評価項目として評価された。結果、CREDENCE試験、DAPA-CKD試験と同様に、顕性アルブミン尿期における腎予後改善が確認された。その有効性から、試験が早期終了となった影響もあり、正常、微量アルブミン尿期の統計的な腎予後改善効果は示されなかったが、この病期においてもeGFR低下速度の改善は確認されたことから、SGLT2阻害薬にはアルブミン尿期によらない腎機能低下抑制効果が期待できると考えてよいと思われる(図1)。さらに、DAPA-CKD試験のサブ解析結果からは、試験中にアルブミン尿の改善がない症例でも腎機能低下速度の改善が認められており、この点もこれまでの糖尿病性腎臓病治療にない新たな特徴となる 4)図2)。
 現在、RAS阻害薬の普及によるアルブミン尿の改善や高齢化に伴い、アルブミン尿を呈さない腎機能低下患者数が増加傾向にある。このSGLT2阻害薬がアルブミン尿期によらない腎機能低下速度の改善をもたらす点は、従来予想されていたアルブミン尿改善効果に加え、今後の糖尿病関連腎臓病治療に意義深いものである。

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