(扉)特集にあたって

  • 鈴木 亮 Suzuki, Ryo
    東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学分野 主任教授
公開日:2024年7月4日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0050./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0050.
https://doi.org/10.57554/2024-0050

 高齢者の慢性疾患の長期にわたる診療をどのように実践していくかという課題は、世界共通の重要な社会的テーマである。その水準は、経済状況や利用可能な医療資源によって自ずと異なる。わが国は、国民皆保険制度や医療への良好なアクセスが達成された結果、国際的にも一二を争う長寿社会を実現してきたが、一方で超高齢社会において増大する医療コストへの対処を余儀なくされる課題先進国でもある。私たち医療従事者は、わが国固有の状況に適合した医療の在り方を新たに探っていく必要がある。
 糖尿病は加齢関連疾患であり、わが国では糖尿病を有する人の約7割が高齢者である。高齢者は複数の合併症や併存疾患を持っていることが多く、治療に付随する低血糖に対して脆弱なため、高齢者糖尿病の診療はさまざまな配慮を必要とする。一方で、近年の治療薬やデバイスの進歩は目覚ましく、従来エビデンスが乏しいといわれてきた高齢者糖尿病についても、今後の診療に大きく影響を与えそうな結果が次々と報告されている。
 本特集では、高齢者糖尿病に関するトピックスおよび課題として、6つの項目を取り上げた。まず、SGLT2阻害薬を高齢者でどう使うかについて、滋賀医科大学の久米真司先生に解説していただいた。心不全やCKDの併発例は珍しくなく、日々診療で直面する重要テーマの筆頭である。次に、製造販売承認を取得し巷間でも大きな話題となっている週1回インスリン製剤について、東邦大学の吉川芙久美先生と弘世貴久先生に執筆をお願いした。インスリンイコデクだけでなく開発中の製剤についても触れてくださっている。高齢1型糖尿病の問題については、岡山済生会総合病院の利根淳仁先生が、CGMやインスリンポンプなど先進機器の活用という観点も含めて、その現状と今後の展開について詳述してくださった。糖尿病専門医もしばしば悩むところだが、リテラシーに配慮しながら効率的に導入する体制構築のヒントが多く示唆されている。受診者や家族から多く質問される認知症の予防については、国立長寿医療研究センターの杉本大貴先生と櫻井孝先生に解説をお願いした。糖尿病治療と密接に関わる生活習慣介入のエビデンスについて、日本で実施された多因子介入研究 J-MIND-Diabetesを含めて、現在の知見が詳しく説明されている。高齢者のオンライン診療については、野村医院の野村和至先生に執筆をお願いした。「高齢者のオンライン診療に関する提言」が発表され、社会実装が進みつつある現在、第一線で実践する声は貴重である。最後に、医療スタッフが知っておくべき高齢者糖尿病の支援サービスについて、東京都健康長寿医療センターの豊島堅志先生に解説していただいた。介護や支援について、地域包括支援センターの重要性を含め、具体的なポイントがわかりやすく記載されている。
 詳細かつコンパクトで読み応えのある記事をご執筆いただき、筆者の皆様に心より感謝申し上げるとともに、本特集が幅広い読者にとって診療の質の向上に役立つことを確信している。

著者のCOI (conflicts of interest)開示:鈴木 亮;講演料(日本イーライリリー、ノボ ノルディスク ファーマ、住友ファーマ、MSD、日本ベーリンガーインゲルハイム、アステラス製薬、サノフィ、帝人ヘルスケア、興和、第一三共)、研究費・助成金(住友ファーマ)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、田辺三菱製薬)

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