はじめに 下垂体機能低下症患者では障害されたホルモンに応じて継続的な補充が必要である(表1)。一方で、ホルモンの需要はライフステージやライフイベントにより大きく異なるため、都度調整の必要がある。本稿では妊娠中・出産時・授乳期の女性における課題とホルモン補充について概説する。 表1 下垂体機能低下症女性に対する補充療法の例 ACTH:adrenocorticotropic hormone、TSH:thyroid stimulating hormone、LH:luteinizing hormone、FSH:follicle stimulating hormone、GH:growth hormone、PRL:prolactin、AVP:arginine vasopressin 1.妊娠に関連した課題と管理 ゴナドトロピン分泌低下症の女性が妊娠するためには、子宮などが萎縮しないよう婦人科でエストロゲン・プロゲスチンの周期的投与などのホルモン補充を行った上で、排卵誘発などの生殖医療を受けることが必要である。下垂体機能低下症の女性であっても、ゴナドトロピン分泌が正常であれば妊娠は通常と同様に成立するが、下垂体機能が正常である女性に比べ妊娠率は低く流産率が高い 1)。近年では、産婦人科・内分泌代謝科・小児科が協同してサポートすることで出産に至る汎下垂体機能低下症の患者が増加している 2)が、本稿で述べるような内科的管理の観点から計画的な妊娠が望ましい。
Q&A編はこちら はじめに 慢性疾患を有する外来患者へのパーソナルヘルスレコード(personal health record: PHR)をはじめとしたデジタル技術の応用が、治療アドヒアランス、自己管理または自己効力感改善に有効であることが報告されてきている 1)。糖尿病治療においてもデジタル化の波が進んできており、間歇スキャン式持続グルコースモニタリング(intermittently scanned continuous glucose monitoring:isCGM)、コネクテッドインスリンデバイス、PHRを中心とした臨床応用が広がっている。 これら糖尿病関連デジタルデバイスを有効に用いることで、糖尿病治療に関連するさまざまな情報を統合し、治療にフィードバックすることが可能となる。本稿では糖尿病関連デジタルデバイスに関するキーデバイスとその実臨床での応用法、および現在までに得られているエビデンスを含め概説する。 1.間歇スキャン式持続グルコースモニタリング(isCGM) isCGMであるFreeStyleリブレは、従来の持続グルコースモニタリングと異なり、指先採血による自己血糖測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)でのキャリブレーション作業が不要となっている。使用法が簡便なこと、令和4年度診療報酬改定に伴い、インスリン療法を行っているすべての糖尿病患者に適用となったことにより、その使用が広く拡大している。 FreeStyleリブレは上腕背側に500円玉大のセンサーを装着することにより、14日間、連続的に間質液中のグルコース値を毎分測定し、15分ごとに保存することで連続的に血糖をモニタリングすることを可能としている。FreeStyleリブレは間質液中のグルコース濃度を測定しているため、急速な血糖変動時には血糖値と5~10分程度のタイムラグが発生する可能性に注意を要する。グルコース値の確認はFreeStyleリブレReader、もしくはスマートフォンアプリのFreeStyleリブレLinkからでき、FreeStyleリブレLinkでは自動で測定結果がクラウド上にアップロードされ、医療機関とのデータ共有も可能となる(図1)。また、記録されたグルコース値を集約し、その傾向を視覚的に把握しやすくしてくれる解析方法である ambulatory glucose profile(AGP;図2)により、低血糖や高血糖となる可能性の高い時間帯や、血糖変動が大きい時間帯を容易に把握することを可能としている。近年、HbA1cとともに臨床で用いられる血糖コントロール指標としてtime in range(TIR)が用いられてきている 2)。治療域血糖値を70~180mg/dLとし、この血糖範囲を維持できた時間割合をTIR(%)と定義し、このTIR が70%以上の場合、HbA1c 7.0%未満を達成できる可能性が高いとされている。良好なTIRを維持することは糖尿病網膜症や糖尿病性腎症の進行抑制につながり 3)、逆にTIRの低下は、総死亡、心血管死リスクの増加につながることが報告されている 4)。isCGMの導入は従来のSMBGと比べ、1、2型糖尿病を問わず、インスリン加療中患者の低血糖発現時間を抑制し 5, 6)、非インスリン加療中の2型糖尿病患者においても、良好な血糖域維持時間(TIR)を増加させHbA1cも改善することが報告されている 7)。
はじめに 妊娠、分娩は女性のライフステージにおいて大きなイベントである。甲状腺疾患は妊娠可能年齢の女性に多く、妊娠前、妊娠中、産褥期のケアについてあらかじめ知識を得ておくことで甲状腺機能異常への対応が臨機応変に可能となり、専門医への紹介のタイミングや産科や新生児科との連携、治療の見通しが立てやすくなる。 1.甲状腺機能低下症、橋本病 甲状腺機能低下症では、むくみ、徐脈、便秘、寒がり、筋痛などの臨床症状をきたす。原発性甲状腺機能低下症では橋本病が原因の大部分を占める。橋本病は自己免疫による慢性甲状腺炎であり、びまん性甲状腺腫と甲状腺自己抗体(サイログロブリン抗体〔TgAb〕、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体〔TPOAb〕)陽性、細胞診で甲状腺にリンパ球浸潤を認めることが診断の要件となる。甲状腺機能は正常が8割程度、潜在性を含め甲状腺機能低下症を示すのは1~2割である。橋本病は女性の10~20人に1人の頻度で認められるといわれているが、橋本病の患者の多くが甲状腺機能正常であるため病院受診をするきっかけは少ない。近年、不妊治療のスクリーニング検査として甲状腺機能や自己抗体が測定されることが多くなった。 甲状腺機能低下症の治療はT4製剤での補充療法である。頻度は低いが副腎機能低下症を合併する場合には、副腎皮質ステロイドの補充が優先される。T3製剤は非妊娠時には特殊な場合に使用することがあるが、妊娠においては胎盤をT3が通過しないため、補充はT4製剤のみで行う。T4製剤は起床時での内服、もしくは就寝時が推奨されている。鉄剤や鉄のサプリメントは妊娠希望女性で頻繁に使用される傾向にあるが、T4製剤とは4時間以上間隔を空けて内服する。 1)妊娠前 妊娠前に甲状腺機能低下症が判明した場合にはT4製剤で補充を行い、開始量は心血管疾患を有さない若年者では少量から漸増せずに治療目標量(50~100μg/日)で開始可能である。甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)とも基準範囲内を目標に補充量を調整する。
はじめに 糖尿病を有する女性は周産期合併症予防のため、妊娠前から妊娠中、分娩後にわたり、厳格な血糖・血圧・体重管理が必要である。妊娠可能年齢の女性には計画妊娠の方法・内容について事前に十分説明しておく必要がある。本稿では、糖尿病を有する女性の妊娠前管理(計画妊娠)と妊娠中、分娩時、授乳期における治療とケアについて解説する。 1.妊娠前管理 妊娠初期の母体高血糖により、先天異常児の発生頻度が高くなることはよく知られている。器官形成期、特に妊娠7週までに胎児が高血糖にさらされると、先天異常率が上昇するといわれているので、妊娠判明後から血糖管理を始めても遅い。妊娠前からHbA1c<6.5%を目標にして管理しておくことが推奨されている 1~4)。ただし、重症低血糖を回避しつつ可能な限り正常に近づけることにも留意する。 食事療法で血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を導入する。また、インスリン以外の糖尿病治療薬を使用している場合は、インスリンに変更しておく。メトホルミンは胎盤を通過し、薬剤添付文書上には、採卵までに内服を中止と記載されているが、多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome:PCOS)による排卵障害に対してメトホルミンを用いることで、流産率や早産率が低下し、妊娠初期の内服による催奇形性への関与は否定されている 5)。また、GLP-1受容体作動薬は体重を減らす効果が高く、メトホルミンと比較して妊孕性の改善効果も高い 6)が、妊娠中使用の安全性は確認されていない。妊娠可能年齢の女性に使用する場合は避妊を厳命し、薬剤が十分に体内からwashoutされた時期を待ち妊娠許可することが望ましい。妊娠前の中止時期については明確な推奨はほとんどないが、半減期が最も長いセマグルチドについては、妊娠2カ月以上前からの中止を推奨されている。 糖尿病網膜症(DR)に関しては、糖尿病罹病期間、血糖管理状況、急激な血糖コントロール、高血圧の合併、糖尿病腎症の合併があると、妊娠中にDRの発症・増悪しやすいといわれている。1型糖尿病女性において、妊娠前からDRがあり、糖尿病罹病期間が長く、妊娠前のHbA1c高値でDRが進行・増悪し、持続皮下インスリン療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)のほうがDR進行のリスクが低かった 7)。急激な血糖変動を起こさないよう妊娠前から徐々に改善して、HbA1c<7.0%目標に血糖管理し、単純網膜症までに保っておく、増殖網膜症であれば治療しておく、インスリンポンプ、特にリアルタイムでグルコース変動を確認し低血糖時(前)停止機能のあるsensor augmented pump(SAP)で管理しておく、などが推奨される。 糖尿病腎症に関しては、システマティックレビュー、メタアナリシスで、アルブミン尿・腎機能障害を認める症例では妊娠高血圧症候群、早産、妊娠中の腎機能悪化、胎児発育不全などのリスクが高かった 8)。さらに、妊娠中に厳格な管理をしても妊娠初期の血清Crレベルが高い(血清Cr≧1.5mg/dL)と、32週以前の分娩、1,500g以下の低出生体重児など悪い周産期結果と関係していたことなどより、腎症3期以降は妊娠・出産は勧められず、腎症2期までにしておくことが推奨されている。 降圧薬に関しては、妊娠前から腎臓の保護や高血圧のためアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が使用されている場合もある。ACE-I/ARB使用で胎児の低血圧、腎血流の低下を引き起こし、無尿・乏尿、羊水過少、頭蓋冠低形成などの頭蓋・顔面の異常、肺低形成、胎児発育不全・子宮内胎児死亡・新生児死亡に至ることが報告されている。ACE-Iの使用で心血管系・中枢神経系先天異常発症リスクが増加した報告もあるが、その後の報告では妊娠初期のACE-Iの使用で形態異常の発症リスクは高くなく、催奇形性は否定的であった 9)。妊娠希望時点でACE-I/ARBを中止し、妊娠中使用可能な降圧薬(メチルドパ、ラベタロール、ヒドララジン、ニフェジピン)に変更すべきだが、中止すると腎機能が増悪する可能性が高い場合、十分な説明と同意の上、妊娠成立まで継続し、妊娠成立後、可及的速やかに中止・変更することが提案される。 脂質異常症治療薬に関しては、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)系薬剤、特に脂溶性のスタチンと催奇形性との関連性が報告されたが、その後の報告では、催奇形性は否定的であった 10)。フィブラート系薬剤の妊娠中使用例での有害事象の報告はないが、 妊娠中に脂質異常症治療薬を中止しても長期的な影響はないと考えられ、妊娠中の使用は推奨されない。各国のガイドラインでも、スタチン系・フィブラート系薬剤の妊娠前からの中止を推奨している。ただし、家族性脂質異常症があり、これらの薬剤が必要であるが、いつ妊娠するかわからないような場合は、全か無の時期を活用し、妊娠判明まで使用、妊娠成立後、妊娠中使用可能な薬剤(レジン、エゼチミブなど)に変更することも提案される。 以上、表1に示す計画妊娠(妊娠前管理)の重要性について十分に説明し、妊娠前から管理しておく。管理不十分な間は避妊する必要があることも説明しておく。
はじめに 血糖値の恒常性は、インスリンとグルカゴンに代表されるホルモンによって、肝臓の糖産生と末梢組織におけるグルコース利用が調節されることで維持されている。本稿では、これらのホルモンによる肝臓と骨格筋・脂肪組織における糖代謝調節機構について概説する。また後半では、その他の臓器を標的とする糖尿病治療薬としてメトホルミンとSGLT2阻害薬を取り上げ、消化管および腎臓を介した血糖降下作用の機序を紹介する。 1.肝臓における糖代謝調節 摂食時には、経口摂取した炭水化物由来のグルコースが主にATP(アデノシン三リン酸)の供給源となる。また余剰なグルコースや遊離脂肪酸は、グリコーゲンや中性脂肪に変換されエネルギー源として、前者は骨格筋や肝臓に、後者は主に脂肪組織に貯蔵される 1)。 肝細胞では、グルコースはGLUT2(glucose transporter type 2)を介して細胞内へ取り込まれる。摂食時には、グルコースはグルコキナーゼによりグルコース-6-リン酸へとリン酸化され、グリコーゲン合成と解糖系で利用される。グルコース-6-リン酸は解糖系によりピルビン酸へと変換され、ミトコンドリア内に輸送されてアセチルCoAとなり、クエン酸回路に入っていく。また、アセチルCoAは、脂肪酸や中性脂肪の合成にも用いられる。解糖系とクエン酸回路で作られたNADHとFADH2は、電子伝達系への電子供与体となり、これらが酸化される過程で形成されるプロトン(水素イオン)の濃度勾配を駆動力とするATP合成酵素によってATPが生じる。呼吸商(respiratory quotient:RQ)は酸素消費量に対する二酸化炭素排出量の体積比であり、グルコース(C6H12O6)が酸化される際は、RQ = 6CO2/6O2 = 1となる。脂質のRQは平均すると約0.7、タンパク質のRQは約0.8であるため、生体のRQは通常0.7~1の間で推移する。 肝細胞における摂食時の糖・脂質代謝はインスリンによって制御されている。インスリン受容体は、α-サブユニットとβ-サブユニットからなり、インスリンが結合するとβ-サブユニットのチロシンキナーゼ活性が増加する。インスリン受容体の自己リン酸化が起こると、インスリン受容体基質(insulin receptor substrate:IRS)がリクルートされてリン酸化される。IRSタンパク質は、次にPI3キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase:PI3K)をリクルートして活性化し、PI3Kはホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)をリン酸化してホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)を生成する。PIP3によって活性化された3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ(PDK1)は、次にセリンスレオニンキナーゼであるAKTをリン酸化することで活性化する。活性化したAKTはグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK3)依存性の経路を含む複数のメカニズムでグリコーゲン合成を誘導する。また、糖新生系酵素遺伝子の発現を誘導する転写因子であるFoxO1をリン酸化して阻害することにより、糖新生系酵素の発現を抑制するとともに、グルコキナーゼの発現を誘導して解糖を促進する。さらに、AKTはTSCタンパク質をリン酸化し阻害することにより、mTORC1(mTOR複合体1)を活性化して、タンパク質合成、脂質合成を促進する(図1)2)。
Abstract Objective Diabetes mellitus is reportedly associated with mortality, intensive care unit (ICU) admission, and other poor outcomes in COVID-19 patients. Although there have been studies examining the relationship between glycemic control and COVID-19 outcome in other countries, there have been few reports from Japan. This study aims to clarify the relationship between outcome and glycemic control in COVID-19 patients with diabetes. Methods A single-center retrospective cohort study was conducted for COVID-19 patients with diabetes who were admitted to St. Luke's International Hospital. We analyzed the association between inpatient glycemic control status and death and intensive care unit (ICU) admission as primary endpoints, and the periods of hospitalization as a secondary endpoint. Results Of the 275 patients, 37 were in the poor outcome group who died or were admitted to the ICU; these patients had a significantly higher mean blood glucose level during hospitalization (164.3 [100-343] mg/dL) than the 238 patients in the good outcome group (123.4 [69-401] mg/dL, p<0.001). The mean blood glucose cutoff for the two groups was 122.2 mg/dL. A multivariate logistic regression analysis showed a significant association between a higher mean blood glucose level and a poor outcome (odds ratio [OR]: 14.0, 95% confidence interval [CI]: 1.73-114, p<0.05). Furthermore, patients with a lower mean blood glucose level of <122.2 mg/dL had a significantly shorter periods of hospitalization (7.5 [7-8] days) than those with a higher level of ≥122.2 mg/dL (11.0 [9-13] days, p<0.001). Conclusion A lower mean blood glucose level during hospitalization was associated with significantly lower mortality and ICU admission rates and shorter periods of hospitalization.
はじめに 妊娠中に血糖の異常をきたす「妊婦の糖代謝異常」は、母児の健康問題を引き起こすことが知られている(表1)。母体に惹起される問題は流産および早産、羊水過多、帝王切開となる率の増加、妊娠高血圧症候群の合併などがある。児については、妊娠初期から高血糖状態にある場合には胎児死亡(母体の流産につながる)や先天異常、妊娠経過中の母体の高血糖状態の児への影響としては巨大児・large for gestational age(LGA)児(過体重児)、新生児低血糖症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、呼吸窮迫症候群などが挙げられる 1)。妊婦の糖代謝異常は全妊婦のうちのおよそ10%にみられると考えられており、妊娠中に血糖測定などの検査を行い、見逃すことなく発見し母児の健康問題のリスクを回避しなければならない。本稿では、妊婦の糖代謝異常について、診断を中心に述べる。 表1 糖代謝異常妊婦による母児合併症(日本糖尿病学会編・著: 糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂, 東京, 2019, p.283.より) 1.妊婦の糖代謝異常の分類 妊婦の糖代謝異常は、①妊娠糖尿病、②妊娠中の明らかな糖尿病、③糖尿病合併妊娠の3つに分けられる 2)。 ①妊娠糖尿病:妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常で、糖尿病に至っていない耐糖能異常は妊娠糖尿病に分類される。妊娠糖尿病は、糖尿病合併妊娠や妊娠中の明らかな糖尿病に比べ軽度な糖代謝異常である。 ②妊娠中の明らかな糖尿病:妊娠前から糖尿病があった可能性が高いが、妊娠中に糖代謝異常が初めて発見された場合で、糖尿病網膜症を認めないときには、妊娠中の明らかな糖尿病に分類される。妊娠中における糖代謝の変化の影響から糖代謝異常が惹起され、妊娠中の明らかな糖尿病となるほか、妊娠前に見逃されていた糖尿病、妊娠中に発症した劇症1型糖尿病および急性発症1型糖尿病も妊娠中の明らかな糖尿病に含まれる。 ③糖尿病合併妊娠:妊娠前からすでに糖尿病に罹患している場合、糖尿病合併妊娠に分類される。妊娠中に初めて糖尿病と診断された者であっても、眼底検査で確実な糖尿病網膜症がある場合には、妊娠前からすでに糖尿病に罹患していたはずなので、糖尿病合併妊娠に分類される。 妊婦の糖代謝異常は、妊娠自体がインスリン抵抗性増大をもたらすことに起因する。妊娠中(特に妊娠後期)は胎盤からのインスリン拮抗ホルモン(胎盤由来のエストロゲン、プロゲステロン、胎盤ラクトゲン)の分泌が増加する。また、妊娠によってグルカゴン分泌抑制、サイトカインの分泌が促される 3)。これらを受けて、妊婦はインスリン抵抗性の増大をきたす。インスリン抵抗性の増大によって血糖値が上昇しやすくなり、母体の膵β細胞からのインスリン分泌も増加する。しかし、その代償性のインスリン分泌増加が不十分であると、正常レベルまで血糖値を下げることができず、糖代謝異常が惹起される。この妊娠中の糖代謝の変化の影響から、妊娠中の明らかな糖尿病や妊娠糖尿病を発症する。妊娠糖尿病では、妊娠中の明らかな糖尿病のように、本来の糖尿病の病態ほどの耐糖能異常には至っておらず、比較的軽度な糖代謝異常である。また、糖尿病合併妊娠では、妊娠前に比べ、妊娠するとより高血糖になりやすくなり、治療として用いるインスリンの必要量が妊娠週数が進むにつれてより多くなっていく。
医学と医療の進歩とともに、妊娠中の女性の健康を守るための知識と技術が高度化してきた。その中でも糖尿病・内分泌代謝領域においては、高血糖と高血圧の管理が、母体と児の健康を守る上で重要な課題となっている。また、生殖年齢の女性に好発するバセドウ病をはじめとする甲状腺機能異常症への対応についても多くの経験が蓄積されてきた。さらに、妊娠希望者の高齢化や生殖補助技術の進歩により、さまざまな疾患や病態を抱えて妊娠・出産を希望する女性が増えており、これらの女性への対応も重要な課題となっている。このような背景から、プレコンセプションケアという考え方が注目されるようになり、多くの医療機関で実践されるようになっている。 本特集では、糖尿病・内分泌代謝領域に焦点を絞って、妊娠・出産もしくはそこに至る過程において生じるさまざまな問題について実践的な知識と情報を提供することを目指した。糖尿病もしくは糖代謝異常を有する患者においては、妊娠前から出産後の授乳に至るまで、さらには糖代謝異常に関するその後のフォローアップまで、きめ細やかな対応が必要であり、そのための解説を提供できるよう配慮した。 また、妊娠中の高血圧症は、とりわけ妊娠後期の母児の健康に重大な影響を及ぼす。かつては妊娠中毒症と称されていた病態は、現在では妊娠高血圧症候群と称される。とりわけ妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩12週までに正常に復する場合である。ただし、蛋白尿を認めなくても肝機能障害や腎障害、母体脳卒中や神経障害、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全などを認める場合も妊娠高血圧腎症と診断し、適切な治療が必要とされる。内分泌代謝領域では、とりわけ原発性アルドステロン症と褐色細胞腫が重要である。妊娠中は薬物療法に制限のある中で、手術を含めてどのように考え、対処するべきかを知ることが大切である。 バセドウ病は生殖年齢の女性に好発するため、その治療中に妊娠・出産を検討する場合が多い。また、時には、妊娠中にバセドウ病罹患に気付かれることもあり、対応に苦慮する。いずれの場合も、無事に出産、そして授乳に漕ぎつけることができるようさまざまな対応が必要となるため、そのための知識を学び、実践することが望まれる。 原発性副甲状腺機能亢進症は女性に好発し、多くは自他覚症状に乏しい。そのため、健診や医療機関受診の機会の少ない若年女性では、罹患に気付かないままに妊娠し、妊娠中に本症と診断されることがある。著しい高カルシウム血症のまま分娩に臨むことは避けるべきであり、妊娠の安定期に副甲状腺手術を実施することが教科書的であるが、現実的な対処法についての記述は乏しい。本特集ではより具体的な解説を提供することを心がけている。 現在は、生殖補助技術により、中枢性卵巣機能不全であっても挙児が可能となっており、間脳下垂体疾患の女性の妊娠・出産はまれではない。このような患者に対応することも内分泌代謝科医師の責務であり、そのための研鑽にも、本特集の論文を積極的に活用していただければ幸いである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 医科診療報酬点数表に掲載されている「基本診療料」は、初診、再診および入院時に行われる基本的な診療行為の費用を一括して評価するものである。一方、医科診療報酬点数表の「特掲診療料」は、基本診療料として一括して支払うことが妥当でない、特別の診療行為に対して個々に点数を設定し評価を行うものであり、評価項目は、「医学管理等」、「在宅医療」、「検査」、「画像診断」および「投薬」に分けられる。「医学管理等」は、特殊な疾患に対する診療で、医療機関が連携して行う治療管理および特定の医学管理などが行われた場合に算定する点数である 1)。よって今回は、糖尿病に係る「医学管理等」の算定項目について、2022年度の診療報酬改定に従い、「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示)」 2)、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」 3)、「特掲診察料の施設基準等の一部を改正する件(告示)」 4)および「特掲診療料の施設基準等およびその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)」 5)、これらをもとに概説する。 1.医学管理等の通則について(表1) 医学管理等の費用は、第1節 医学管理料等、第2節 プログラム医療機器等医学管理加算(※プログラム医療機器等医学管理加算では、「B100 禁煙治療補助システム指導管理加算」のみが設定されている)および第3節 特定保険医療材料料(※使用した特定保険医療材料の材料価格は、別に厚生労働大臣が定めている)に掲げる所定点数を合算した点数により算定する。 通則に示す外来感染対策向上加算は、診療所における感染防止対策に係る体制を評価するものであり、専任の院内感染管理者が配置され感染防止対策部門が設置されている場合に加算される。そして感染対策向上加算1を算定する保険医療機関に対し感染症の発生状況、抗菌薬の使用状況などの報告を行っている場合には連携強化加算を算定し、地域において感染防止対策情報の提供体制が整備されている場合にはサーベイランス(※監視することで感染症の動向を把握したり対策の効果を判定すること)強化加算を算定する 6)。 表1 第2章 特掲診療料 第1部 医学管理等 通則の告示、通知および施設基準告示の要点(文献2, 6より) 画像をクリックすると拡大します 表1 第2章 特掲診療料 第1部 医学管理等 通則の告示、通知および施設基準告示の要点(文献2, 6より) $(".vol6_r13_h1").modaal();
はじめに 糖尿病治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの確保であり、そのためには、血糖値を目標レベルにすることに加えて、脂質、血圧、肥満、喫煙などの多くのリスクを総合的にコントロールし血管障害などの種々合併症を予防することが必要といわれている。このフレーズは、血糖値を目標レベルに維持することのみに集中することへの注意喚起で、血糖値を目標レベルに維持することは糖尿病治療の基礎と思われる。血糖値をできる限り厳格に調整するのがよいには違いないが、平均的な血糖値レベルの指標であるHbA1cを基準とした場合は、低血糖のリスクが増え死亡のみならず血管障害も悪化させることが知られており、血糖値の上下変動が小さい、低血糖のリスクを減らした形での血糖値目標レベルの設定が必要と思われている 1)。このような目標の達成は、血糖値を血糖値非依存性に下げるSU薬やインスリンを中心とした従来の治療法では難しかったが、ここ10年、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬などの単独では低血糖のリスクを高めない種々の薬剤が使えるようになり、可能になりつつある。 本稿では、インスリンにインクレチン関連のGLP-1受容体作動薬を併用することが、いかに良質な血糖治療目標達成に有用であるかを概説する。 1.インクレチンとは 血糖値を一定に保つためにインスリンは不可欠なホルモンである。空腹時でも糖は利用されるのでインスリンの分泌は一定量必要だが(基礎分泌)、食後には食事性に急激に体内に流入してきた栄養素を処理するために多量のインスリンが必要となる(追加分泌)。ここで大事なのは、血糖値に応じてのインスリン分泌量の調整だが、血糖の上がりを予想して上がる前に多量のインスリンが分泌され上昇を抑えるという、インスリン分泌の補助、増幅機構である。この機構がうまく働けば血糖値はあまり変動しないことになるが、この機構の主たる担い手がインクレチンである。 生理的なインスリン分泌パターンをインスリン注射のみで再現するのは、日々一定の生活をしているわけではない実生活を考えると難しいことが多い。そこで、インスリン注射中の患者さんでも、良好な血糖コントロールを目指す場合は、種々の薬剤の助けを借りる必要がある。インクレチン関連薬には、日々の違いによる変動を和らげる効果があり、しばしば併用されてきた。
はじめに 2型糖尿病の注射療法において、GLP-1受容体作動薬はすでに定着したが、2023年4月から新たな作用機序であるGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが発売された。 1.チルゼパチドの作用機序 チルゼパチドはGIPのアミノ酸配列から設計されており、C20脂肪酸側鎖を付加することで内因性アルブミンへの結合性を高めて半減期を長くした週1回の注射投与製剤である 1, 2)。GIP/GLP-1受容体作動薬であるにもかかわらず、週一回のインクレチン関連薬の注射療法で臨床的効果がGLP-1受容体作動薬と似ているためにGLP-1受容体作動薬として誤解されることがある。しかし、この薬剤はGLP-1受容体よりもGIP受容体への結合が強い性質を持つため、新たな作用機序の薬剤と理解すべきである。 GIPは小腸から分泌されるインクレチンホルモンの一つであり、生理的濃度では、膵臓からのインスリン分泌を促進し、また脂肪細胞への脂肪の貯蔵を促すことなどが知られている。しかし、薬理的血中濃度になると食欲抑制の作用があると考えられている。このような性質を持つGIPのアナログ製剤であるチルゼパチドは、2型糖尿病の治療においては、血糖値依存的なインスリン分泌促進効果と食欲抑制の結果、体重減少によるインスリン感受性が是正されることも相まって血糖値を改善させる。 2.チルゼパチドの適応 チルゼパチドは2型糖尿病治療薬で、現時点で肥満症治療の適応はない。つまり2型糖尿病ではない人におけるその有効性と安全性の検証は十分にされているとはいえない。
前編 医師の立場から はじめに バセドウ病には治癒がなく、寛解を目指して治療を行う病気である。バセドウ病の療養は長期にわたるため、患者が継続的に病気と向き合い付き合っていくことが必要となる。そのためには、まず患者自身が病気の正しい知識を持つこと、自らが病気を理解して、治療に参加できるように支援すること、患者本来の社会生活が大きく中断されることがないよう多職種が連携して患者支援をおこなっていくことがポイントとなる。特に、これまで行ってきた治療方法からの変更にあたっては、患者への十分な情報提供を行った上で、患者自身が納得してより適切な治療選択ができるように、職種を超えて患者をサポートすることが必要である。 1.伊藤病院の医療相談室について 当院の医療相談室は、患者支援センター内に位置している。看護師5名で構成され、当院の病棟や外来、手術室の勤務経験がある者が配置されている。医療相談室では、患者や家族が安心して治療が受けられるように、病気に対する悩みだけでなく、これらによって生じる社会的、経済的、心理的問題などのさまざまな不安や悩みに対し、診療の補助業務の一環として看護師が相談対応を行っている。患者は「診察室では聞けなかった」「説明されたが頭が真っ白になってしまった」ということがある。相談にあたっては、患者一人一人に耳を傾け、わかりやすい言葉を用いて説明するよう心がけている。 伊藤病院の医療相談室での相談対応件数は、2022年は合計5,072件であった(表1)。主な相談内容は、病気や治療選択のイメージングのほか、甲状腺アイソトープ検査や放射性ヨウ素内用治療の際のヨウ素制限の説明指導、日常生活や心理面の相談である。医療相談室を利用するきっかけは医師からの依頼が最も多く(表2)、診療の補助業務の位置づけとして活用されているといえる。 表1 伊藤病院の医療相談室での相談件数(2022年)
後編 医療スタッフの立場から Q&A編はこちら はじめに バセドウ病では甲状腺の自己免疫異常により甲状腺刺激ホルモンの受容体(TSH受容体)に対する抗体(TRAb)が出現している。このTRAbが甲状腺を刺激し、甲状腺が腫れ、甲状腺でのホルモンの分泌が盛んになりさまざまな症状を示す。バセドウ病は20~40歳台に好発し、男女比は1:4と女性に多い。バセドウ病は妊娠や出産などのライフステージにあわせて治療を選択したり、喫煙やストレスなど日常生活が増悪因子になり得ることから、禁煙したりストレスとうまく付き合いながら治療を継続したりする必要がある。また、薬物療法の中心である抗甲状腺薬治療では、副作用の頻度が高いこと、病気の勢いが安定せず薬の中止に至らない寛解導入困難や薬を中止することができた後にも再発が起こり得ることから、より確実にバセドウ病をコントロールするため放射性ヨウ素内用療法や手術への変更が好ましい場面がある 1)。適切な治療選択へ向けては、患者へ十分情報を提供しよく相談した上で意思決定がなされることが必要である。 このため当院では診察時の医師からの説明に加え、リーフレット、ホームページでの情報提供と、医療相談室における面談を行い、バセドウ病の治療選択を中心にさまざまな場面で患者支援を行っているので紹介する。 1.症例1~診断から初期治療~ 48歳女性 喫煙歴あり X年職場の異動後、仕事が多忙でストレスが多くイライラしていた。暑がり、動悸も出現したが、更年期だと思い放置していた。 6カ月後職場健診で、体重減少とコレステロール低値を認めた。検査を行ったところ甲状腺ホルモン高値が判明した。専門病院へ受診したところ甲状腺ホルモン高値に加えTRAb陽性でありバセドウ病と診断された。 今後の挙児希望はなくチアマゾール(メルカゾール®)で治療を開始した。 1)診断 動悸や汗、手のふるえなどの甲状腺中毒症の症状や甲状腺の腫れ(甲状腺腫)を認めた場合、血液検査で甲状腺の機能を確認する。甲状腺中毒症では、血液中の甲状腺ホルモン(FT4、FT3)が高値で、TSHが低値となっており、バセドウ病では、ほとんどの場合、血液検査でTRAbや甲状腺刺激抗体(TSAb)が陽性となるので診断が可能である。TRAbやTSAbの測定で判断が難しい場合、アイソトープの検査を行う。 提示症例では暑がり・動悸など甲状腺中毒症の症状があったが更年期障害と思い放置していた。その後健診の一般検査の異常値を契機に、甲状腺ホルモン高値とTRAb陽性が明らかとなりバセドウ病と診断された。更年期症状は発汗過多、動悸、疲労感など更年期症状に共通した症状が多く注意が必要である 2)。バセドウ病の症状は、小児では落ち着きのなさや夜尿が認められること、高齢者では症状を呈しにくいことなど、年代や性別によって症状が異なる点に注意が必要となる。また、症例のように他の疾患と思い込んで診断が遅れる場合もある。
はじめに Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬は、その高い血糖降下作用に加えて、心血管イベントの抑制および腎保護効果についてのエビデンスも確立されており、臨床での使用機会が増えている。また、最近は経口薬も登場し、GLP-1受容体作動薬を必要とする患者の治療選択肢が広がった。本稿では、GLP-1受容体作動薬のポジショニングと導入の実際、注意事項について解説する。 1.2型糖尿病治療におけるGLP-1受容体作動薬の位置づけ GLP-1は主に下部小腸に存在するL細胞から分泌され、GLP-1受容体を介してβ細胞から血糖依存性にインスリン分泌を促進するとともに、グルカゴンの分泌を抑制することにより、血糖降下作用を発揮する。さらに、膵外作用として胃内容物排出遅延作用や食欲抑制作用、血管拡張、血圧低下作用、体重減少に対する影響など、多面的な効果が期待される。その強力な血糖降下作用に加えて、単独では低血糖を起こしにくい安全性や食欲抑制作用、体重への影響は、2型糖尿病治療の選択肢として魅力的である。例えば、セマグルチドを用いたSUSTAIN-6試験 1)では、HbA1cの変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-1.1%、セマグルチド1.0mg投与群で-1.4%(ベースラインの平均HbA1c 8.7%)、体重の変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-3.6kg、セマグルチド1.0mg投与群で-4.9kg(ベースラインの平均体重92.1kg)と、高い効果を示している。また、近年では先述のSUSTAIN-6試験 1)に加えて、LEADER 試験 2, 3)やREWIND試験 4)などの大規模臨床試験により、GLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制作用および腎保護効果を示す数々のエビデンスが確立されてきた。 このような昨今の流れを受けて、米国糖尿病学会から発表された「糖尿病診療ガイドライン2023(Standards of Care in Diabetes 2023〔図1〕)」 5)では、「高リスク2型糖尿病患者における心腎リスクの低減」を目標としたアルゴリズムが提示されており、動脈硬化性心疾患(あるいはそのハイリスク指標)を有する場合、GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬を優先的に選択するよう推奨している。また、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を有するケースでは、SGLT2阻害薬に次ぐ優先順位でGLP-1受容体作動薬が挙げられている。さらに、「血糖および体重管理」を目標としたアルゴリズムでも、その効果が優れた薬剤としてGLP-1受容体作動薬を挙げている。また、「注射療法への治療強化」の項目では「ほとんどの患者において、インスリンに先立ってGLP-1受容体作動薬またはGIP/GLP-1受容体作動薬を考慮する」と記載されている。すなわち、「first injection therapy(最初の注射療法)はGLP-1受容体作動薬」というのが、2型糖尿病治療における最近の潮流である。 一方、日本糖尿病学会が2023年10月に発表した「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版) 6)(図2)」でも、Step 3のAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患として、慢性腎臓病と心血管疾患については、SGLT2阻害薬と並んでGLP-1受容体作動薬が治療選択肢に挙げられている。 このように、血糖改善効果と臓器保護の両面から、2型糖尿病治療においてGLP-1受容体作動薬の重要性はますます高まっている。
はじめに 糖尿病治療において近年、新規薬剤の登場が続いており、デバイスも大きな進化を遂げている。デバイスに関する特筆すべき変化は、外来診療にて2021年以降、持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitoring:CGM)を用いた血糖管理が広く行われるようになったことである。本稿では、CGMデータを解釈するための要点と、AGPレポート(図1)を活かした実臨床における活用法について紹介する。 図1 AGPレポート 1.CGMとは CGMは上腕や腹部などの皮膚にセンサーを装着して、間質液のグルコース濃度を測定する機器である。CGMが普及するまでは、1日数回の血糖自己測定(Self Measurement of Blood Glucose:SMBG)による血糖値の確認が一般的であった。しかしながら、SMBGは、穿刺時に疼痛を伴うことに加えて、測定時点の値の推移は確認できるが、その間の値の推移は推定するしかないという問題点を抱えていた。CGMでは、血糖変動が連続したグラフで表示されるため、「血糖変動の見える化」を可能とした。本邦で使用可能なCGMは数種類あるが、本稿では、施設要件なく使用可能であるFreeStyleリブレを想定し、CGMの活用法、特にインスリン治療の最適化に必要な解析ソフト(FreeStyleリブレの場合、リブレView)に焦点を当てて紹介する。
Q&A編はこちら はじめに 下垂体は下垂体前葉ホルモンである副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)と、後葉ホルモンであるバソプレシン(AVP)、オキシトシンの分泌の場である。それぞれ視床下部からの制御および標的臓器からの負のフィードバックにより常に分泌調整が行われている(図1)。そのため、ホルモンの基礎値を評価する場合はその調節因子と共に解釈する必要がある。 図1 視床下部-下垂体前葉-標的ホルモン制御 下垂体ホルモン異常としてホルモンが過剰に分泌される下垂体機能亢進症と、ホルモン分泌が低下する下垂体機能低下症に大別される。前者は下垂体ホルモン産生性の下垂体腫瘍が多くを占めており、術前精査では分泌抑制試験による負のフィードバックの確認や、分泌刺激試験で反応性や奇異反応の検索を行う 1)(表1)。 表1 下垂体機能亢進症の診断 F:コルチゾール 画像をクリックすると拡大します 表1 下垂体機能亢進症の診断 F:コルチゾール. $(".vol6_k11_h1").modaal();
はじめに インスリンポンプを用いた持続皮下インスリン注入療法(CSII)は、頻回注射法(MDI)と比して血糖管理を向上し、患者のQOLを高めるエビデンスが小児や妊婦など一部の集団におけるランダム化比較試験で示されてきたが普遍的な優位性を示すものではなかった 1, 2)。また、持続血糖モニター(CGM)が普及してからは、リアルタイムCGMを使用しているかどうかの方が、MDIかCSIIかよりも血糖管理上の意義が大きいことが明らかになった 3)。すなわち、CSIIにおいてもCGM機能を搭載したSAP(Sensor Augmented Pump)療法の選択が望ましいといえる。しかし、わが国でもハイブリッドクローズドループシステム(HCL)搭載型のインスリンポンプが登場した。HCLは、リアルワールド研究においても従来型のSAPやMDIに対して血糖改善効果が示されている 4)。実際に、基礎インスリンの設定に難渋することがなくなりつつある一方で、上手くHCLを継続できない症例も少なくない 5)。その背景にはさまざまな要因があり、適切な対応でHCL使用率が改善する可能性がある。本稿では、CSIIをどのように安全かつ有効に使用するかについて概説する。 1.インスリンポンプ療法のメリットとデメリット CSIIはSAP、HCLと進化し、1型糖尿病診療の最先端であることは疑う余地がない。ただ、医療者・患者の双方に、ポンプにすれば必ず血糖が良くなるという誤解がよくある。特にCSIIは、速効性の高いインスリンを持続投与することで生理的な基礎インスリンを模倣しているという原理上、適切な管理による絶え間ない皮下注射が行われなければ速やかにインスリン枯渇状態となり、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に至る、という脆弱性を孕んでいることを決して忘れてはならない。表1にMDIおよびCSIIの選択が望ましい理由をそれぞれ列記した。重症低血糖を繰り返す患者や、妊娠計画時のように厳格な血糖管理が必要な場合などにはポンプ導入に消極的になってはいけないが、導入前には患者およびケア担当者とともに適応をよく検討したい。 表1 頻回注射法(MDI)と持続皮下インスリン注入療法(CSII)の主な選択理由
はじめに 2型糖尿病は、インスリンの分泌障害とインスリン抵抗性、さらには脂肪毒性が絡み合って高血糖を特徴とした複雑な病態を示す疾患である。新規2型糖尿病患者を対象としたUKPDS(UK Prospective Diabetes Study)などの大規模臨床試験の結果から、経年的に膵β細胞機能が低下することが知られており、経過とともにインスリン治療を行う患者は増加する。インスリン治療を検討するタイミングとしてよくあるのは、経口血糖降下薬だけでは血糖管理が安定しない、増量しても改善しない場合である。しかしインスリン導入を入院に限ると、仕事や学業、介護などの理由で数日でも入院はできないと考える人は多い。患者を説得し入院の同意が得られないと治療強化のタイミングを逃してしまう。そこで外来インスリン導入の出番である。それも糖尿病専門医に限らず外来での導入が可能となれば、遅滞なく多くの必要な患者への治療強化が可能となる。本稿では、2型糖尿病のインスリン治療の中でも外来診療でインスリン導入を考える際のポイントについて解説する。GLP-1受容体作動薬導入との使い分けや配合注に関する解説は本特集の他稿に譲る。 1.インスリン療法の適応 インスリン療法の適応には絶対的適応と相対的適応がある(表1) 1, 2)。絶対的適応例では入院による導入が望ましい。ただし、2型糖尿病でインスリン依存状態になる病態である、①病歴が長くインスリン分泌が重度に低下した場合、②若年の肥満男性に多い清涼飲料水ケトーシス(一時的なインスリン依存状態)では、入院での導入が望ましいものの外来で対応できる場合もある。一方、相対的適応例におけるインスリン療法の開始や経口薬からの切り替えは外来でも行える。 表1 インスリン療法の絶対的適応と相対的適応(文献2より)
当サイトは、糖尿病・内分泌領域において医師・医療スタッフを対象に、臨床に直結した医療情報を提供する電子ジャーナルです。
該当する職種をクリックして中へお進みください。