はじめに 2024年度診療報酬改定については、2023年12月20日予算大臣折衝を踏まえ、診療報酬の改定率は+0.88%(医科 +0.52%、歯科 +0.57%、調剤 +0.16%)となった 1)。そして2024年1月12日付けの厚生労働大臣諮問に対し、2月14日に中央社会保険医療協議会より改定案が答申された 2)。答申書では、賃上げ全般、医療DX(Digital Transformation)、働き方改革・人材確保など、28項目の附帯意見が記載され、これらの意見に従って個別項目が改定され、「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」は、6月1日からの適用となった 3)。 よって今回は、改定された医科点数表の、糖尿病に係る項目の告示、通知および施設基準について、表1に示す「個別改定項目」 4)に従って概説する。なお、本稿で示す各表では、新設・改定箇所を青字で記した。また次回では、内分泌疾患を中心に改定内容を概説し、DPC (Diagnosis Procedure Combination:包括評価)制度については、別途概説する。 表1 個別改定について(文献4より) 画像をクリックすると拡大します 表1 個別改定について(文献4より) $(".vol4_r14_h1").modaal(); 1.外来医療の機能分化・強化など ―生活習慣病に係る医学管理料の見直し 生活習慣病に対する質の高い疾病管理を推進する観点から、生活習慣病管理料について要件および評価を見直すとともに、特定疾患療養管理料の対象疾患から、生活習慣病である、糖尿病、脂質異常症および高血圧が除外された 4)。生活習慣病管理料は名称を「生活習慣病管理料(I)」とし、検査などを包括しない「生活習慣病管理料(II)」が新設された 4)。
はじめに わが国における65歳以上の高齢者の割合は2023年9月の推計で29.1%と世界で最も多く、80歳以上の人口も10.1%と10人に1人が80歳以上という超高齢社会のただなかにある。 こうした背景から日常の臨床でも、生活に見守りや支援が必要だと思われる例が増加している。高齢糖尿病患者を支えるサービスはさまざまあり、本稿では高齢糖尿病患者や介護者が特に必要とすると思われるサービスについて概説する。忙しい外来診療の中で全てを調整するのは非常に困難であるが、高齢糖尿病患者への支援の第一歩は、診療の中で意識して支援が必要な人や将来要介護となるリスクが高い人をスクリーニングし、速やかに地域包括支援センターなどにつなげることである。 1.高齢糖尿病患者は要介護リスクが高い 令和4年版および令和5年版高齢者社会白書によると、65歳以上の要支援あるいは要介護認定者は669万人である。75歳以上で要介護の認定を受けているものは23.4%、要支援の認定を受けているものが8.9%であり、合わせると75歳以上の約3人に1人が介護認定を受けていることになる。介護が必要となった主な原因で最も多いものが認知症、次いで脳血管疾患(脳卒中)、4番目に多いものが骨折・転倒であるが、いずれも糖尿病がその発症リスクとなる(図1)。また、糖尿病があると歩行障害を1.7倍、手段的ADL障害を1.7倍、基本的ADL障害を1.8倍きたしやすい 1)。さらに、糖尿病は、脳卒中、認知症、骨折などの疾患とも独立して要介護認定のリスクが1.6倍となることも報告されており 2)、高齢糖尿病患者は要介護リスクが高い状態にある。 図1 介護が必要となった主な原因(内閣府: 令和4年版高齢者社会白書より作成)
「近代絵画の父」として知られるポール・セザンヌ(図)は、1839年1月19日、南フランスのプロヴァンスに生まれた。父のルイ=オーギュスト・セザンヌは、一介の行商人から銀行家まで成り上がった人物であった。彼は長男であり、妹が2人いた。1858年、セザンヌは父の勧めでエクス大学(現・エクス=マルセイユ大学)の法学部に進んだが、画家になる夢を諦めきれず、1861年についには父を説得し、月125フランの仕送りをもらいパリで絵画を学んだ。一旦は自分の才能の絶望し帰郷したものの、翌年パリに出戻り、画塾で学んだ。そこで、モネやルノワールと出会ったようである。その後1865年から1871年まではサロン(官展)に応募しては落選を続けた。彼がサロンに入選したのは1882年の一度きりであったが、1889年の万国博覧会に作品を展示したころには前衛的な若い芸術家や批評家たちの間でセザンヌに対する評価は高まっていった。1895年、画商ヴォラールによって開かれた初の個展は1868年ごろから1895年までにわたる約150点の油彩画でセザンヌの画業の集大成ともいわれる作品で、好評を得た 1~4)。 図 ポール・セザンヌ(不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)
はじめに 令和5年10月に板橋区医師会が一般区民向けに行ったアンケート(総数579人中、70歳以上131人)では、70歳以上の高齢者でのオンライン診療経験者は4%と少なかったが、同集団で不測の事態の際にかかりつけ医によるオンライン診療を希望するという方が52%、かかりつけ医でない初診でも希望するという方が20%おり、高齢者であってもオンライン診療に対するニーズが広がってきていることを示す結果であった。 高齢者はオンライン診療の良い適応であるか? と問われるとその答えは良い適応とはいえない。なぜなら、高齢者の特徴である「症状が非定型的」「多疾患を抱えている」などの特性があるため、特に初診でのオンライン診療、処方に関してはかなり慎重にならざるを得ない。また、高齢者では情報端末を持っていない、操作ができない、音声が聞き取れないなどの諸問題があり、このような場合にはオンライン診療支援者のサポートが必要となる。では、オンライン診療は高齢者に対して有用であるか? については、有用であると断言できる。通常診療を補完するような使用方法、さらにはこれまで不可能であったことを可能としたさまざまな工夫が現場では始まってきている。 一方、オンライン診療と糖尿病との相性については、採血結果に基づく診断や初診時では全く役に立たないものの、その治療においては良い適応であり、有用であると考えられる。なぜなら糖尿病診療は日常生活そのものに密接に関連しており、これらの情報が問題解決のために大いに役立つこと、血糖自己測定などのPHR(Personal Health Record)の情報が把握できる場合には通常の診療とほぼ同レベルの診療を行うことができること、さらには多職種の介入やシックデイ時の介入機会を増やしやすいなど利点は多く相性が良い。 本稿では2022年4月に日本老年医学会から発出された「高齢者のオンライン診療に関する提言」 1)を元にかかりつけ患者(再診時)を中心とした高齢者糖尿病におけるオンライン診療の利活用について紹介する。 1.高齢者糖尿病のオンライン診療の適応条件 前述したように高齢者ではスマートフォンなどの情報端末をそもそも持っていない、操作がうまくできない、音声が聞き取りにくいなどの諸問題があり、単独でオンライン診療を行うことが困難であるものも多い。また、日常生活や内服管理の正確な問診を得るためには高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」 2)でのカテゴリーⅡ以上(軽度認知障害以上または手段的ADL低下以下)、このような方にオンライン診療を行う場合には診療支援者(ご家族やケアマネジャー、看護師など)のサポートが必要となる。 また、通常の糖尿病診療としてオンライン診療を行う場合、問診だけの情報で診療を行うことは難しいため、ある程度の医学的根拠となるデータが必要となる。そのため、診療前採血、または血糖自己測定を基本としたPHRの情報が必須であり、さらに病態に合わせて体重、血圧、食事、運動などの情報も記録してもらう。これらの情報はビデオ画面経由では画像が不鮮明であるため、それぞれのツールを用いて事前に写真などで共有しておくことが望ましい。もちろんこれらの管理が難しい場合にも診療支援者のサポートが必要となる場合が発生する。 つまり、高齢者糖尿病の通常診療におけるオンライン診療の良い適応としては、ある程度生活が自立し電話でのやりとりが可能であり、情報端末を持っている方、あるいは支援者の協力が得られる方で、かつ血糖自己測定、診療前採血などを行っている方ということになる。
要約 目的・方法 八王子市内の眼科診療所との糖尿病患者の眼科・内科連携を目指すために、両科の連携と糖尿病眼手帳(以下、眼手帳)に対する意識を、2002年、2010年、2016年、2022年に調査し、その結果の推移を検討した。 結果 内科医から臨床情報を得る最も多い手段は「糖尿病連携手帳を見る」で、その回答率は4年とも80%以上であった。通院しやすい眼科選択のための八王子市内の地図作成時の掲載許可は、いずれも80%を超えていて、その情報をもとに地図を改訂した。眼手帳を患者に渡すことへの抵抗感は経年的に減少傾向を認めた。眼手帳を渡したい範囲は、「全ての糖尿病患者」との回答の比率が経年的に増加傾向を認めた。眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答が減少し、「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が増加した。 結論 2002年に比べて2010年、2016年、2022年は、各アンケート項目において眼科・内科連携に積極的な施設が増えていた。眼手帳を渡すことへの抵抗感は減少し、より早期に渡すようになり、眼科医が渡すことへのこだわりが減っていた。
Q&A編はこちら はじめに バセドウ病や慢性甲状腺炎に代表される甲状腺疾患は女性に多く、若年で診断される頻度が高い 1)。このため、内分泌疾患を診療する医師であれば、甲状腺疾患患者の妊娠に関連したマネージメントに携わる機会は多い。本稿では、代表的な甲状腺疾患であるバセドウ病、甲状腺機能低下症、甲状腺腫瘍について、妊娠前、妊娠中、産後のそれぞれの時期に注意すべきポイントについて概説する。 1.バセドウ病 バセドウ病は最も頻度の高い内分泌疾患の一つである。妊娠期間中にバセドウ病を新規に発症する症例も妊娠女性の0.05%に存在するが 2)、元々バセドウ病と診断されている症例が多く、妊娠に関連したマネージメントができるようにしておく。甲状腺ホルモンが高い状態で妊娠した場合、流産、早産、妊娠高血圧症候群などのリスクが上がる。バセドウ病の原因として知られるTSH受容体抗体(thyroid stimulating hormone receptor antibody:TRAb)や甲状腺刺激抗体(thyroid stimulating antibody:TSAb)は胎盤を通過するため、妊娠中の抗体価が高ければ胎児および新生児甲状腺機能亢進症を引き起こす。抗甲状腺薬の選択や調整を含め、バセドウ病合併妊娠の診療において以下の3点に特に注意する。 妊娠後の母胎合併症リスクが高い症例(未治療状態、高用量の抗甲状腺薬でコントロール不十分、TRAb抗体価が高いなど)を見極め、妊娠前から介入する(図1)。 妊娠5週から9週6日まではチアマゾールを中止する。チアマゾール関連奇形症候群について正しく認識し、適切な患者説明に努める。 産後の抗甲状腺薬の調整には、産後にバセドウ病の病勢が悪化すること、授乳を意識した抗甲状腺薬の投与量調整の2点を意識する。
はじめに 糖尿病は認知症のリスクを約2倍に増加させる。糖尿病では、認知症の前駆段階と考えられている軽度認知障害のリスクも高くなり、遂行機能や注意力、記憶力などの障害により、服薬や食事・運動療法のアドヒアランス低下をきたし得る。そのため、認知症を予防することは重要である。糖尿病治療においては、高齢者の個々の状態に合わせた柔軟な血糖コントロール目標の設定や低血糖への配慮、血糖変動の抑制が必要である。また、運動療法や食事療法だけではなく、人との交流などの社会的活動を積極的に行うことも認知症予防に有効である可能性が示されている。近年では、これらの要因に同時にアプローチすることで、より大きな認知症予防効果が得られることが期待されている。本稿では、糖尿病における認知症予防のエビデンスに加えて、2019年からわが国で開始された「高齢者2型糖尿病における認知症予防のための多因子介入(J-MIND-Diabetes)」の成果について概説したい。 1.血糖コントロールと認知症予防 現時点で、厳格な血糖コントロールが認知機能の低下や認知症発症を抑制できるとする結論には至っていない。ACCORD-MIND研究では、平均年齢が62.5歳の高齢者2,977例を対象に、HbA1c 6.0%未満を目標とした強化療法群とHbA1c 7.0~7.9%を目標とした通常治療群に分け、40カ月後の認知機能低下と脳容積の変化を比較した。その結果、強化療法群では、脳萎縮の進行抑制が通常治療群よりも抑制されたが、認知機能低下には有意な差は認められなかった 1)。また、ACCORD-MIND研究を含む5報のランダム化比較試験のメタ解析でも、厳格な血糖コントロールが認知機能低下を抑制することはできないことが報告されている 2)。合併症予防の観点から、高血糖は是正されるべきであるが、同時に低血糖への配慮が必要である。 さらに、糖尿病における認知症予防のためには、血糖変動を考慮した介入が重要である。Taiwan Diabetes Cohort Study では、60歳以上の高齢者2型糖尿病16,706例を対象に、血糖変動とアルツハイマー型認知症発症の関連性を中央値約9年の追跡調査で検討した。その結果、ベースラインから1年目までの外来受診時の空腹時血糖とHbA1c値の変動係数が大きい群では、認知症の発症リスクが高くなることが示されている 3)。また、わが国の久山町研究では、60歳以上の1,017例の高齢者を対象として、糖負荷試験の成績と認知症発症の関連性について約10.9年の追跡調査を行い、負荷後2時間の血糖が高いと、アルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクが高いことを報告している 4)。 以上の報告より糖尿病に合併する認知症を予防するためには、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」に示されるように高齢者の個々の状態に合わせた柔軟な血糖コントロール目標の設定、低血糖への配慮、血糖変動を抑制した血糖コントロールが必要かもしれない。Moranら 5)はKaiser Permanente Northern Californiaに登録された約25万人の2型糖尿病患者のデータを元に、延べ約460万回のHbA1c値のデータを収集し、血糖コントロールと認知症発症の関連を検討している。主要な結果としては、HbA1c値9%以上の期間が長いほど、認知症の発症リスクが高くなるという結果であった。さらにMoran らは、サブ解析として、多くの診療ガイドラインで提唱されている血糖コントロール目標値を基に、HbA1c値が6.0~7.9%の範囲を血糖管理目標値と設定し、認知症の発症との関連を検討している。結果として、観察期間中のHbA1c値が6.0%未満、8~8.9%、9%以上であった割合の10%を、6.0~7.9%の範囲に置き換えることで、認知症の発症リスクが、それぞれ1%、3%、5%減少したことを報告している 5)。本研究では、高齢者の日常生活動作や認知機能、併存疾患、服薬状況による目標値の考慮はされていないが、高血糖の是正と低血糖への配慮の重要性を認知症予防の観点からも支持するものである。近年では、各ガイドラインの提言に沿って、高齢者の個々の状態に合わせて設定された血糖コントロール状況と糖尿病の合併症や死亡との関連が蓄積されており 6, 7)、認知機能低下や認知症発症との関連についても新たなエビデンスの構築が急がれる。
Q&A編はこちら はじめに スティグマとは、特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」という意味を持ち、誤った知識や情報が拡散することにより、対象となった者が精神的・物理的に困難な状況に陥ることを指す 1)。糖尿病のある人に対する社会からの差別と偏見は、糖尿病のある人に社会的・経済的に不利益を与え、彼ら自身の社会的地位と自尊感情を著しく損なっている。この状況を糖尿病スティグマという 2)。 1.糖尿病患者の食事療法 糖尿病と診断されただけで、社会で自己管理ができていない人間というレッテルを貼られてしまい、糖尿病でない人からは下に見られ、医療者からも「自己管理ができていないから糖尿病になる」と言われることもある。また、食事療法においても「ごはんを食べてはいけない」「果物は糖分が多いから食べてはいけない」「誕生日でもショートケーキを1/4だけしか食べてはいけない」といった科学的根拠に基づかない食事制限をかける『指導』ばかり受けることも少なくない。しかし、食事療法は糖尿病治療の基本であり、血糖マネジメントや体重マネジメントに必要不可欠となるが、糖尿病のある人を含めた多くの人の背景は多種多様であり、個別化が重要となってきている 3, 4)。また、食事というものは炭水化物やタンパク質、脂質、ビタミン、微量元素といった栄養素のみで推し量れるものではなく、そこには食事をとる楽しみや家族との思い出など、栄養素をとる以上の意義があるものであるということを忘れてはいけない。糖尿病に罹患したために、食事を医療者側に決められる生活は間違っており、医療者自身も患者の気持ちに立ち患者の思いを尊重した関わりを持つことが必要である。
ポイント 糖尿病と歯周病は相互リスク因子である。 糖尿病は歯周病の発症頻度を上昇させ、さらに悪化させる。 2型糖尿病患者の歯周病治療はHbA1cの値を改善する。 糖尿病治療は歯周病を改善する可能性がある。 1.総論 歯周病と糖尿病の相互作用は現在では既知となり、医療従事者はもちろん、患者、一般の人々にも認知されつつある。本稿では近年改訂された「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン2023」1)と「糖尿病診療ガイドライン2019」2)を反映しつつ、最新のエビデンスを紹介、解説していく。 1)歯周病と糖尿病は相互リスク因子 歯周病に罹患すると、糖尿病患者に限らず、プラークに対する炎症反応として、歯周組織でIL(interleukin)-6や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αなどの炎症性サイトカインが産生される。炎症性サイトカインは局所的な歯槽骨の吸収を生じさせ、支持組織の喪失を招く。歯周ポケット内面は微小潰瘍となっており、細菌が産生したLPSなどの病原因子も血行性に全身に還流し、菌血症を引き起こす。つまり、この歯周ポケット内の炎症は口腔内の局所だけでなく、血液を介して血清レベルで全身性に影響を及ぼす。炎症性サイトカインを介してC反応性タンパク質(C-reactive protein:CRP)の増加やインスリン抵抗性の低下もしくはインスリン感受性の低下を招いていると考えられている 2)。加えて、近年では口腔内細菌叢の変化による腸内細菌叢の変化を介した影響も報告されている 3)。 糖尿病に罹患すると、口腔乾燥が生じて唾液の自浄作用が低下すること、白血球の遊走能・貪食能・殺菌能などの機能低下を生じて免疫応答が低下すること、血中ブドウ糖がタンパク質と結合して最終糖化産物(AGEs)が歯周組織のコラーゲンなどの機能的な性質を変化させてしまうことが知られており、歯周病が悪化する原因と考えられている 2)。また、糖尿病に罹患すると歯周病の発症率が増加することが最近の研究でも報告されており、Zhengらのメタアナリシスによると糖尿病患者の歯周炎有病率が67.8%、非糖尿病患者では35.5%とあり、糖尿病患者で有意に高い(OR:1.85、95%信頼区間:1.61~2.11)4)。さらに、糖尿病に罹患すると歯周病の発症率が増加するだけでなく、歯周病が増悪するとの研究結果もある。Inagakiらの研究では、日本において、糖尿病患者6,099人のHbA1cと口腔内所見を検討すると、1型糖尿病ではHbA1c 7.0%以上で現在歯数が20歯未満になるオッズ比が2.38、2型糖尿病ではHbA1c 8.0%以上で現在歯数が20歯未満になるオッズ比が1.16となり、糖尿病患者の血糖コントロールが悪化すると歯の喪失リスクが高まることが報告されている 5)。
はじめに 近年、インスリンポンプや持続グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)など先進デバイスの進化により1型糖尿病の治療成績は向上し、以前と比較すると低血糖リスクを低減しながら安全かつ良好な血糖コントロールを実現することが可能になってきた。一方、低血糖リスクの高い高齢1型糖尿病患者には本来、先進デバイスを活用した安全な治療が望まれるが、認知機能低下やデジタルリテラシーの問題で先進デバイス導入の障壁となることも多く、大きな課題を抱えている。 本稿では、高齢1型糖尿病の治療について、先進機器の活用という観点も含めてその現状と今後の展開について解説する。 1.高齢1型糖尿病患者の特性と課題 WHO (世界保健機関) では65歳以上を老年期 (または高齢期) としているが、身体的・精神的な老化の進行は多種多様であり、患者個々に応じた対応が必要となる。一般に高齢者糖尿病の治療に際して問題となる点として、記銘力・認知機能の低下、ADL低下、糖尿病合併症も含めた臓器障害の進行、癌の合併などが挙げられる。米国糖尿病学会が発行する「Standards of Care in Diabetes(糖尿病標準治療)2024」 1)では、治療の単純化と減処方が提唱されており、特に食事に対するインスリン(prandial insulin)を減量または中止することにより低血糖リスクの低減を目指している。 高齢1型糖尿病患者においても低血糖予防に重点を置いた治療内容および治療目標の適正化を図ることは重要であるが、prandial insulinの減量・中止は血糖コントロールを大きく乱すことにつながり、ステップダウンも含めた治療の個別化に難渋するケースも多い。本人や家族の状況あるいは介護施設などの社会環境的な要因で、それまで行ってきたインスリン頻回注射療法やインスリンポンプ療法が継続できず、1日1回の持効型インスリン注射など不十分な治療を余儀なくされる場面もあり、今後、社会基盤のさらなる整備が望まれる。
はじめに インスリンは糖尿病治療になくてはならない存在である。しかしながら、その投与手技の煩雑さゆえに患者のQOLを著しく損ない、実効性に乏しい治療法としての側面も併せ持つ。従来は黙認されてきたこうした課題も、複雑化し高度化する社会的ニーズの中で必然的に解決が求められてきた。こうした時代の変遷の中でインスリンは飛躍的な進化を続け、さらなる新境地を開こうとしている。本稿では実用化が目前に迫る週1回インスリン製剤の特徴や臨床試験データの紹介と、週1回投与という新機軸がもたらす変革について考察する。 1.週1回インスリン製剤の登場 幾重にも進化を重ねてきたインスリンは、今また新たな局面を迎えようとしている。週1回インスリン製剤の登場である。本稿では現在臨床試験段階にある2種類の製剤について概説する。 1)Insulin icodec(イコデク) 血中半減期70時間の長時間作用型経口インスリン製剤の骨格を基本に、3つの部位のアミノ酸を置換することで分子安定性を高め、インスリン受容体(IR)との親和性を低下させることで血中半減期を延長している(図1)1)。さらに、溶解性も向上させることにより通常のU100インスリン配合物よりも7倍濃い濃度を実現し、週1回投与時の液量を1日1回の持効型溶解インスリン(BI)と同程度とすることを可能にした。さらにC20の脂肪酸付加によりアルブミンとの結合を増強し分子量を増大させることで、組織への拡散遅延や腎臓からの排泄を阻害し循環血液中に長く留め、血中半減期をさらに延長している。余談だが、本製剤名のicodecは、今回新たに付加されたC20脂肪酸:1,20 icosanedioic acid(イコサン二酸)を由来としている。こうした遺伝子組換え技術の進歩により196時間という長い半減期を獲得したが、代償的に最高血中濃度までの到達時間16時間、臨床的定常状態(トラフ濃度が90%を超える状態)への到達までに3~4回の投与を要する。定常状態においてイコデクは週1回の投与で7日以上の持続的かつ安定した血糖低下効果を示し、その血糖低下作用はグラルギンU100(U100)の連日投与とイコデクの週1回投与(U100の7日分の総量)が同等であることが確認されている 2)。前述の通り、長い血中半減期ゆえに効果がピークに到達するまでにタイムラグが生じ、既存のBIから同量で切り替えた際にこの期間の空腹時血糖値(FPG)の上昇が危惧された。このために導入されたのがloading dose(LD)である。これは初回投与時にイコデクを高用量で投与することで、血中濃度が不十分な期間を穴埋めするというユニークなアイデアである。第2相試験(Ph2)では開始用量の2倍を初回に投与したところ低血糖が増加した 3)ことを踏まえ、第3相試験(Ph3)のONWADS 1-6 trialsでは1.5倍に変更され、調整アルゴリズムも見直された(表1)4)。結果を概説すると(図2)、HbA1cは2型糖尿病(T2D)における初回導入・basal supported oral therapy(BOT)からの切り替えで対照薬に比して有意に低下し、強化療法(MDI)でのBIの切り替えでは1型糖尿病(T1D)・T2Dともに非劣性が示された。低血糖はT2Dを対象としたONWARDS 1-5では対照薬と同等であったが、T1Dを対象としたONWARDS 6ではデグルデク(Deg)に比して有意に多く 1)、インスリン抵抗性の低い患者での調整には課題が残された。インスリン分泌能の低下した患者を多く抱える本邦でも懸念点の一つであり、実臨床下での使用経験の蓄積が求められている。イコデクは2024年中の発売を目指しており、その朗報に期待が寄せられる。
はじめに 多細胞生物、特に高度に発達した生命体が生きるためには、環境に応じて生体の機能を素早く制御し、生体の恒常性維持を図る仕組みが必要である。そうした仕組みは異なる細胞同士が相互に情報をやり取りすることによって可能になるが、こうした細胞間情報伝達の方法の一つが液性因子を介した細胞間のコミュニケーションである。 こうした液性因子は古典的にホルモンと呼ばれるものに相当する。特定の細胞から分泌されたホルモンが標的細胞の細胞表面にある特異的な受容体に結合すると、受け手の細胞内ではホルモンに応じた特異的なシグナルが伝達され、特定の遺伝子発現、運命決定や蛋白の分泌が起きるなど、細胞応答として細胞の状態が変化する。では、このような細胞応答の過程で、シグナルはどのように細胞内を伝わり、その機能の発現を引き起こしているのだろうか。 細胞の性質変化が起きるとき、最も考えやすいのは遺伝子の発現変化と、それに引き続くタンパク質の翻訳の変化が介在するケースだが、この場合は遺伝子の転写と翻訳という時間のかかるプロセスが必要であり、より素早い応答が必要とされる環境では遅すぎる場合もある。また、そもそも遺伝子の発現制御は核内で起こる現象であるため、細胞にとっては少なくとも細胞表面から核内までシグナルを伝達するメカニズムが必要であり、これにも迅速な伝達手段が必要である。本稿で述べるタンパク質のリン酸化とは、細胞内においてこうした素早いシグナル伝達を可能にしている代表的なメカニズムの一つであるといえる。 1.リン酸化とは タンパク質のリン酸化は、遺伝子変化を介さないタンパク質の性質変化、すなわち「翻訳後修飾」と呼ばれる修飾の中で最もよく研究されたものの一つであり、遺伝子の発現変化を介する必要がないため、細胞内の素早い応答を可能にしている。化学的に見た場合、リン酸化とは、キナーゼ(タンパク質キナーゼ)と呼ばれる酵素がATPの持つリン酸基を標的タンパク質の特定のアミノ酸に付加する反応である。この反応はATPのリン酸基がアミノ酸のヒドロキシル基(OH基)に攻撃される形で起きるものであるため、リン酸化が生じるのはOH基を有するアミノ酸のみである。すなわち、セリン(Ser:S)、スレオニン(Thr:T)、チロシン(Tyr:Y)の3種類のアミノ酸のみがリン酸化を受けることになる(図1)。 リン酸基はO-を2分子有しているため、リン酸化されたアミノ酸ではその親水性および電荷が大きく変化する。この親水性および電荷の変化の結果、リン酸化されたアミノ酸が安定に存在できる位置が変化し、これに伴ってタンパク質全体で立体構造の変化が生じる。こうした構造変化の結果、タンパク質の機能の変化、あるいは別のタンパク質との相互作用が起き、その結果として下流のシグナル経路に影響が及ぶ。このように、「アミノ酸極性の変化を介した標的タンパク質の立体構造の変化」に基づいて、異なるタンパク質に次々と影響が及んでいく現象が、タンパク質のリン酸化による細胞内情報シグナル伝達の本体である。一方で、このリン酸基は脱リン酸化酵素によって除去されることもあり、脱リン酸化が起きると、タンパク質の立体構造は元の状態に戻ることができる。こうしたリン酸化・脱リン酸化の反応により、細胞内のシグナルは素早くonとoffとが可逆的に制御され、柔軟な細胞内シグナルが可能になっている。
はじめに SGLT2阻害薬は、尿糖排泄を増加させ血糖降下を期待する糖尿病の治療薬として開発された。しかし、その後の多くの大規模臨床研究により、SGLT2阻害薬には、その種類によらず、血糖降下作用に独立した心腎保護効果が証明され、その適応は慢性腎臓病、心不全にまで拡大された。一方で、浸透圧利尿に伴う脱水、エネルギーロスに伴うサルコペニアの懸念から、高齢者に対する安全性への懸念も存在する。本稿では、SGLT2阻害薬の臓器保護作用、高齢者における注意、そしてその背景にある病態について解説する。 1.SGLT2阻害薬の腎保護効果 SGLT2阻害薬の腎保護効果として、アルブミン尿の減少効果とeGFR低下速度の改善効果の二つが報告されている。顕性アルブミン尿を有する患者を対象に、カナグリフロジン、ダパグリフロジンの有効性を検証したCREDENCE試験(糖尿病患者のみ)1)、DAPA-CKD試験(非糖尿病患者を含む)2)、いずれの臨床研究においても、SGLT2阻害薬によるアルブミン尿減少効果が示されている。この研究に参加した多くの患者にはすでにレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が投与されていたことから、SGLT2阻害薬には従来の標準治療に上乗せしたアルブミン尿減少効果が期待される。そして、この効果の背景には尿細管糸球体フィードバック機構の改善が関与していることが知られている。 さらに近年、腎臓病領域の臨床研究の評価項目としてeGFR低下速度が重要視されつつある。この点で、EMPA-KIDNEY試験から興味深い結果が報告されている 3)。この試験では、アルブミン尿の有無に関わらずeGFRが低下している慢性腎臓病患者(非糖尿病を含む)を対象にSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)の腎予後が主要評価項目として評価された。結果、CREDENCE試験、DAPA-CKD試験と同様に、顕性アルブミン尿期における腎予後改善が確認された。その有効性から、試験が早期終了となった影響もあり、正常、微量アルブミン尿期の統計的な腎予後改善効果は示されなかったが、この病期においてもeGFR低下速度の改善は確認されたことから、SGLT2阻害薬にはアルブミン尿期によらない腎機能低下抑制効果が期待できると考えてよいと思われる(図1)。さらに、DAPA-CKD試験のサブ解析結果からは、試験中にアルブミン尿の改善がない症例でも腎機能低下速度の改善が認められており、この点もこれまでの糖尿病性腎臓病治療にない新たな特徴となる 4)(図2)。 現在、RAS阻害薬の普及によるアルブミン尿の改善や高齢化に伴い、アルブミン尿を呈さない腎機能低下患者数が増加傾向にある。このSGLT2阻害薬がアルブミン尿期によらない腎機能低下速度の改善をもたらす点は、従来予想されていたアルブミン尿改善効果に加え、今後の糖尿病関連腎臓病治療に意義深いものである。
高齢者の慢性疾患の長期にわたる診療をどのように実践していくかという課題は、世界共通の重要な社会的テーマである。その水準は、経済状況や利用可能な医療資源によって自ずと異なる。わが国は、国民皆保険制度や医療への良好なアクセスが達成された結果、国際的にも一二を争う長寿社会を実現してきたが、一方で超高齢社会において増大する医療コストへの対処を余儀なくされる課題先進国でもある。私たち医療従事者は、わが国固有の状況に適合した医療の在り方を新たに探っていく必要がある。 糖尿病は加齢関連疾患であり、わが国では糖尿病を有する人の約7割が高齢者である。高齢者は複数の合併症や併存疾患を持っていることが多く、治療に付随する低血糖に対して脆弱なため、高齢者糖尿病の診療はさまざまな配慮を必要とする。一方で、近年の治療薬やデバイスの進歩は目覚ましく、従来エビデンスが乏しいといわれてきた高齢者糖尿病についても、今後の診療に大きく影響を与えそうな結果が次々と報告されている。 本特集では、高齢者糖尿病に関するトピックスおよび課題として、6つの項目を取り上げた。まず、SGLT2阻害薬を高齢者でどう使うかについて、滋賀医科大学の久米真司先生に解説していただいた。心不全やCKDの併発例は珍しくなく、日々診療で直面する重要テーマの筆頭である。次に、製造販売承認を取得し巷間でも大きな話題となっている週1回インスリン製剤について、東邦大学の吉川芙久美先生と弘世貴久先生に執筆をお願いした。インスリンイコデクだけでなく開発中の製剤についても触れてくださっている。高齢1型糖尿病の問題については、岡山済生会総合病院の利根淳仁先生が、CGMやインスリンポンプなど先進機器の活用という観点も含めて、その現状と今後の展開について詳述してくださった。糖尿病専門医もしばしば悩むところだが、リテラシーに配慮しながら効率的に導入する体制構築のヒントが多く示唆されている。受診者や家族から多く質問される認知症の予防については、国立長寿医療研究センターの杉本大貴先生と櫻井孝先生に解説をお願いした。糖尿病治療と密接に関わる生活習慣介入のエビデンスについて、日本で実施された多因子介入研究 J-MIND-Diabetesを含めて、現在の知見が詳しく説明されている。高齢者のオンライン診療については、野村医院の野村和至先生に執筆をお願いした。「高齢者のオンライン診療に関する提言」が発表され、社会実装が進みつつある現在、第一線で実践する声は貴重である。最後に、医療スタッフが知っておくべき高齢者糖尿病の支援サービスについて、東京都健康長寿医療センターの豊島堅志先生に解説していただいた。介護や支援について、地域包括支援センターの重要性を含め、具体的なポイントがわかりやすく記載されている。 詳細かつコンパクトで読み応えのある記事をご執筆いただき、筆者の皆様に心より感謝申し上げるとともに、本特集が幅広い読者にとって診療の質の向上に役立つことを確信している。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:鈴木 亮;講演料(日本イーライリリー、ノボ ノルディスク ファーマ、住友ファーマ、MSD、日本ベーリンガーインゲルハイム、アステラス製薬、サノフィ、帝人ヘルスケア、興和、第一三共)、研究費・助成金(住友ファーマ)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、田辺三菱製薬) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病の薬物療法においては近年新しいタイプの経口薬が次々と登場し、以前に比べるとインスリンの使用頻度は減少している。しかしながら、1型糖尿病患者はもちろんのこと、2型糖尿病においてもインスリン分泌低下を主たる病態とする患者に対しインスリンによる治療が必要となるケースは依然多い。 また、糖尿病発症時や高血糖持続時などの糖毒性*解除が必要な場合、感染症や手術などで厳格な血糖値管理が必要な場合、妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠で経口薬が使用できない場合などにもインスリンによる治療が求められる。 本稿では、現在本邦で使用できるインスリンの種類や、2型糖尿病診療におけるインスリン治療の考え方、使い方を模擬症例に沿って解説する。 *糖毒性:高血糖状態が続くことで膵β細胞からのインスリン分泌能が低下し、またインスリン抵抗性が高まることによりさらなる高血糖を招く悪循環の状態 1.症例: 56歳男性 【現病歴】自営業であり健診を長らく受けていなかった。半年ほど前から口渇と体重減少が出現し、また倦怠感が徐々に増強したため心配になり10年ぶりに健診を受けたところ、血糖高値(HbA1c 10.2%、随時血糖値 280 mg/dL)を指摘された。入院治療が必要と判断され、初回の治療導入目的に入院となった。 【現症】身長 172 cm、体重 60.0 kg、BMI 20.3 【入院時検査所見】尿:糖(+++)、ケトン(+)、蛋白(-)、尿中Cペプチド(24h)80 μg/日、血液:HbA1c 10.4%、空腹時血糖値 214 mg/dL、血中Cペプチド 0.8 ng/mL、抗GAD抗体(-) 入院翌日の血糖推移を表1に示す。 表1 入院翌日の血糖推移
はじめに 糖尿病患者、とりわけ1型糖尿病を持つ者が直面する課題として、スポーツと低血糖との関係は重要である。1型糖尿病を持つ者は日々、インスリンの自己管理を行いながら生活しており、適度な運動は健康維持に不可欠であると同時に、低血糖のリスクを高める要因でもある。このような背景から、インスリン治療を受けている患者がスポーツを安全に楽しむための方法を個別に設定することが、臨床医や医療スタッフにとっての大きな目標となっている。本稿では、特に持続血糖モニター(CGM)を用いた低血糖予防策に焦点を当て、1型糖尿病患者がスポーツを安全に楽しむための具体的な方法を探求する。 1.1型糖尿病を持つアスリートの活躍とアドボカシー活動 1型糖尿病を持ちながらも、各スポーツ界で活躍するアスリートたちのエピソードは、多くの人々にとって大きな勇気と希望の源である。彼らは、日々の血糖管理の中でスポーツに情熱を注ぎ、トレーニングを通して自らの限界を超えることができるという可能性を示してくれる。元阪神タイガース投手の岩田稔氏は、プロ野球界で活躍した1型糖尿病のアスリートである 1)。岩田氏は、1型糖尿病の診断後も、プロ野球選手としてのキャリアを諦めず、病気と向き合いながらプレーを続けた。試合前に血糖値をチェックし、試合中も常に血糖値を意識しながらマウンドに立っていたそうだ。引退後は、さまざまな方の希望になるべく、株式会社 Family Design Mを立ち上げ、各種メディアへの出演を通して、あるいは患者向けのセミナーや学会の市民公開講座などで、自身の豊富な経験を発信している。また、エアロビクスの元ジュニア世界チャンピオンである大村詠一氏も1型アスリートである 2) 。大村氏は、8歳で1型糖尿病を発症し、思春期に血糖管理に大変な苦労をしながらも粘り強く競技生活を続け、ついにはエアロビクスにおける高度な技術と芸術性を体現した。今でもエアロビクス競技の普及と競技レベルの向上に努めながら、患者教育・支援活動に従事し、八面六臂の活躍を見せている。この二人の著書は、病気を抱えながらも自分の限界を超えることのできる強い心を持つことの重要性を教えてくれる。さらに、彼らは互いに協力して患者交流イベントを日本全国で展開しているのでぜひ応援したい。 日本糖尿病協会もアドボカシー活動として運動の重要性に着目している。当院の南昌江院長によって創設された協会公式のマラソンチーム「Team Diabetes Japan」は、患者とその支援者たちが一緒にマラソンを走ることで、1型糖尿病の認知度を高め、同じ病を持つ人々へ元気を届ける活動を長年行っている。最近、同協会が糖尿病治療における運動療法の重要性の啓発、普及に貢献した者に授与する「南昌江賞」が設立され、運動を通して社会に啓発を行う機運がますます高まっている。
2024年5月15日、第67回日本糖尿病学会年次学術集会の開催直前に、Dexcom G7 CGMシステムのセンサーが発売となった。同日さっそく処方してもらい使用を開始したので、まずはこのG7の使用感についてレポートしようと思う。 これまでG6では1箱に3個のセンサーが梱包されていたのに対して、G7では個包装となり、圧倒的な省スペースが達成された(写真1)。また、G6では3カ月間使用するトランスミッターをセンサー装着後にはめ込み、それに先だってトランスミッター、センサーをそれぞれスマートフォンやモニターとペアリングしておかなければいけなかったのだが、G7ではトランスミッターを内蔵したセンサーになったので、あとではめ込むトランスミッターが不要となった。G6のトランスミッターは3カ月ごとに渡さなければいけなかったので、その分の費用負担が医療機関側に課せられていたのだが、それが必要なくなった。ユーザー側にとっても、トランスミッターは箱がマトリョーシカ状態で、大きな箱の中に小さな箱があり、その中にさらに小さなトランスミッターが入っていたため、余計な荷物となっていた。 写真1 G7センサーは個包装 G7の装着方法は極めて簡便で、アプリケーターのキャップをねじって外せば(動画1)、そのまま皮膚に直接当ててボタンを押すだけでよい(動画2)。センサー装着部位については、上腕後部が推奨位置として追加された。G6では装着前に行っていたペアリングは、装着後にアプリケーターの側面にあるQRコードを読み込むだけでよくなった(写真2)。装着のための操作としては、FreeStyleリブレよりもステップが少ない。センサーの大きさは長さ24.1mm×幅27.4mmで厚さ4.7mmと、直径35mm×厚さ5mmのリブレよりも二回りほど小さく、やや薄めになっている。G6では長さ12mmの電極フィラメントを斜めに留置していたのだが、G7では長さ6mmのフィラメントが皮膚面に対して垂直に留置される。同じく垂直留置のリブレより2mm長いので、皮下脂肪が薄い人の場合は気をつけたほうがよい。
はじめに スポーツ飲料の宣伝を目にすることが多くなった。猛暑が続いており、2022年のスポーツドリンク販売金額は3,367億円、前年比113.7%で前年を上回っている(全国清涼飲料連合)。多くの方が、スポーツというと、脱水予防、と思いつかれるかもしれないが、注意点もある。以下にスポーツにおける、水電解質の変化を述べてみたい。 1.運動強度と血漿電解質 血漿量は運動強度に比例して減少し、最大運動強度では15%低下する(図1A) 1)。これは、活動する筋肉へ血症水分が移動するためである。 一方、血漿タンパク質濃度は上昇する(図1B) 1)。これは、Starling力によって活動筋へ過剰な水分が移行するのを防止するためである。 血漿電解質は、最高酸素摂取量の約50%以上で、血漿Na・Clは上昇し(図2A)、血漿乳酸は上昇、炭酸イオンは低下する(図2B) 1)。 興味深いことに、抗利尿ホルモン(AVP)は最大酸素摂取量56%以上の運動強度で、血漿濃度が上昇している(図3) 1)。295mOsm/kg H2Oが閾値で、これは安静状態よりも高値である。これが運動後の血症Na上昇の一因であるかもしれない。また、運動トレーニングにより血漿浸透圧変化に対するAVP分泌の感受性が変化し、それがトレーニング後の体液量増加を引き起こすという報告もある 2)。 図1 相対運動強度と血漿量(A)、血漿タンパク質濃度変化(B)(文献1より)
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