Abstract Objective Diabetes mellitus is reportedly associated with mortality, intensive care unit (ICU) admission, and other poor outcomes in COVID-19 patients. Although there have been studies examining the relationship between glycemic control and COVID-19 outcome in other countries, there have been few reports from Japan. This study aims to clarify the relationship between outcome and glycemic control in COVID-19 patients with diabetes. Methods A single-center retrospective cohort study was conducted for COVID-19 patients with diabetes who were admitted to St. Luke's International Hospital. We analyzed the association between inpatient glycemic control status and death and intensive care unit (ICU) admission as primary endpoints, and the periods of hospitalization as a secondary endpoint. Results Of the 275 patients, 37 were in the poor outcome group who died or were admitted to the ICU; these patients had a significantly higher mean blood glucose level during hospitalization (164.3 [100-343] mg/dL) than the 238 patients in the good outcome group (123.4 [69-401] mg/dL, p<0.001). The mean blood glucose cutoff for the two groups was 122.2 mg/dL. A multivariate logistic regression analysis showed a significant association between a higher mean blood glucose level and a poor outcome (odds ratio [OR]: 14.0, 95% confidence interval [CI]: 1.73-114, p<0.05). Furthermore, patients with a lower mean blood glucose level of <122.2 mg/dL had a significantly shorter periods of hospitalization (7.5 [7-8] days) than those with a higher level of ≥122.2 mg/dL (11.0 [9-13] days, p<0.001). Conclusion A lower mean blood glucose level during hospitalization was associated with significantly lower mortality and ICU admission rates and shorter periods of hospitalization.
はじめに 妊娠中に血糖の異常をきたす「妊婦の糖代謝異常」は、母児の健康問題を引き起こすことが知られている(表1)。母体に惹起される問題は流産および早産、羊水過多、帝王切開となる率の増加、妊娠高血圧症候群の合併などがある。児については、妊娠初期から高血糖状態にある場合には胎児死亡(母体の流産につながる)や先天異常、妊娠経過中の母体の高血糖状態の児への影響としては巨大児・large for gestational age(LGA)児(過体重児)、新生児低血糖症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、呼吸窮迫症候群などが挙げられる 1)。妊婦の糖代謝異常は全妊婦のうちのおよそ10%にみられると考えられており、妊娠中に血糖測定などの検査を行い、見逃すことなく発見し母児の健康問題のリスクを回避しなければならない。本稿では、妊婦の糖代謝異常について、診断を中心に述べる。 表1 糖代謝異常妊婦による母児合併症(日本糖尿病学会編・著: 糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂, 東京, 2019, p.283.より) 1.妊婦の糖代謝異常の分類 妊婦の糖代謝異常は、①妊娠糖尿病、②妊娠中の明らかな糖尿病、③糖尿病合併妊娠の3つに分けられる 2)。 ①妊娠糖尿病:妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常で、糖尿病に至っていない耐糖能異常は妊娠糖尿病に分類される。妊娠糖尿病は、糖尿病合併妊娠や妊娠中の明らかな糖尿病に比べ軽度な糖代謝異常である。 ②妊娠中の明らかな糖尿病:妊娠前から糖尿病があった可能性が高いが、妊娠中に糖代謝異常が初めて発見された場合で、糖尿病網膜症を認めないときには、妊娠中の明らかな糖尿病に分類される。妊娠中における糖代謝の変化の影響から糖代謝異常が惹起され、妊娠中の明らかな糖尿病となるほか、妊娠前に見逃されていた糖尿病、妊娠中に発症した劇症1型糖尿病および急性発症1型糖尿病も妊娠中の明らかな糖尿病に含まれる。 ③糖尿病合併妊娠:妊娠前からすでに糖尿病に罹患している場合、糖尿病合併妊娠に分類される。妊娠中に初めて糖尿病と診断された者であっても、眼底検査で確実な糖尿病網膜症がある場合には、妊娠前からすでに糖尿病に罹患していたはずなので、糖尿病合併妊娠に分類される。 妊婦の糖代謝異常は、妊娠自体がインスリン抵抗性増大をもたらすことに起因する。妊娠中(特に妊娠後期)は胎盤からのインスリン拮抗ホルモン(胎盤由来のエストロゲン、プロゲステロン、胎盤ラクトゲン)の分泌が増加する。また、妊娠によってグルカゴン分泌抑制、サイトカインの分泌が促される 3)。これらを受けて、妊婦はインスリン抵抗性の増大をきたす。インスリン抵抗性の増大によって血糖値が上昇しやすくなり、母体の膵β細胞からのインスリン分泌も増加する。しかし、その代償性のインスリン分泌増加が不十分であると、正常レベルまで血糖値を下げることができず、糖代謝異常が惹起される。この妊娠中の糖代謝の変化の影響から、妊娠中の明らかな糖尿病や妊娠糖尿病を発症する。妊娠糖尿病では、妊娠中の明らかな糖尿病のように、本来の糖尿病の病態ほどの耐糖能異常には至っておらず、比較的軽度な糖代謝異常である。また、糖尿病合併妊娠では、妊娠前に比べ、妊娠するとより高血糖になりやすくなり、治療として用いるインスリンの必要量が妊娠週数が進むにつれてより多くなっていく。
医学と医療の進歩とともに、妊娠中の女性の健康を守るための知識と技術が高度化してきた。その中でも糖尿病・内分泌代謝領域においては、高血糖と高血圧の管理が、母体と児の健康を守る上で重要な課題となっている。また、生殖年齢の女性に好発するバセドウ病をはじめとする甲状腺機能異常症への対応についても多くの経験が蓄積されてきた。さらに、妊娠希望者の高齢化や生殖補助技術の進歩により、さまざまな疾患や病態を抱えて妊娠・出産を希望する女性が増えており、これらの女性への対応も重要な課題となっている。このような背景から、プレコンセプションケアという考え方が注目されるようになり、多くの医療機関で実践されるようになっている。 本特集では、糖尿病・内分泌代謝領域に焦点を絞って、妊娠・出産もしくはそこに至る過程において生じるさまざまな問題について実践的な知識と情報を提供することを目指した。糖尿病もしくは糖代謝異常を有する患者においては、妊娠前から出産後の授乳に至るまで、さらには糖代謝異常に関するその後のフォローアップまで、きめ細やかな対応が必要であり、そのための解説を提供できるよう配慮した。 また、妊娠中の高血圧症は、とりわけ妊娠後期の母児の健康に重大な影響を及ぼす。かつては妊娠中毒症と称されていた病態は、現在では妊娠高血圧症候群と称される。とりわけ妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩12週までに正常に復する場合である。ただし、蛋白尿を認めなくても肝機能障害や腎障害、母体脳卒中や神経障害、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全などを認める場合も妊娠高血圧腎症と診断し、適切な治療が必要とされる。内分泌代謝領域では、とりわけ原発性アルドステロン症と褐色細胞腫が重要である。妊娠中は薬物療法に制限のある中で、手術を含めてどのように考え、対処するべきかを知ることが大切である。 バセドウ病は生殖年齢の女性に好発するため、その治療中に妊娠・出産を検討する場合が多い。また、時には、妊娠中にバセドウ病罹患に気付かれることもあり、対応に苦慮する。いずれの場合も、無事に出産、そして授乳に漕ぎつけることができるようさまざまな対応が必要となるため、そのための知識を学び、実践することが望まれる。 原発性副甲状腺機能亢進症は女性に好発し、多くは自他覚症状に乏しい。そのため、健診や医療機関受診の機会の少ない若年女性では、罹患に気付かないままに妊娠し、妊娠中に本症と診断されることがある。著しい高カルシウム血症のまま分娩に臨むことは避けるべきであり、妊娠の安定期に副甲状腺手術を実施することが教科書的であるが、現実的な対処法についての記述は乏しい。本特集ではより具体的な解説を提供することを心がけている。 現在は、生殖補助技術により、中枢性卵巣機能不全であっても挙児が可能となっており、間脳下垂体疾患の女性の妊娠・出産はまれではない。このような患者に対応することも内分泌代謝科医師の責務であり、そのための研鑽にも、本特集の論文を積極的に活用していただければ幸いである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 医科診療報酬点数表に掲載されている「基本診療料」は、初診、再診および入院時に行われる基本的な診療行為の費用を一括して評価するものである。一方、医科診療報酬点数表の「特掲診療料」は、基本診療料として一括して支払うことが妥当でない、特別の診療行為に対して個々に点数を設定し評価を行うものであり、評価項目は、「医学管理等」、「在宅医療」、「検査」、「画像診断」および「投薬」に分けられる。「医学管理等」は、特殊な疾患に対する診療で、医療機関が連携して行う治療管理および特定の医学管理などが行われた場合に算定する点数である 1)。よって今回は、糖尿病に係る「医学管理等」の算定項目について、2022年度の診療報酬改定に従い、「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示)」 2)、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」 3)、「特掲診察料の施設基準等の一部を改正する件(告示)」 4)および「特掲診療料の施設基準等およびその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)」 5)、これらをもとに概説する。 1.医学管理等の通則について(表1) 医学管理等の費用は、第1節 医学管理料等、第2節 プログラム医療機器等医学管理加算(※プログラム医療機器等医学管理加算では、「B100 禁煙治療補助システム指導管理加算」のみが設定されている)および第3節 特定保険医療材料料(※使用した特定保険医療材料の材料価格は、別に厚生労働大臣が定めている)に掲げる所定点数を合算した点数により算定する。 通則に示す外来感染対策向上加算は、診療所における感染防止対策に係る体制を評価するものであり、専任の院内感染管理者が配置され感染防止対策部門が設置されている場合に加算される。そして感染対策向上加算1を算定する保険医療機関に対し感染症の発生状況、抗菌薬の使用状況などの報告を行っている場合には連携強化加算を算定し、地域において感染防止対策情報の提供体制が整備されている場合にはサーベイランス(※監視することで感染症の動向を把握したり対策の効果を判定すること)強化加算を算定する 6)。 表1 第2章 特掲診療料 第1部 医学管理等 通則の告示、通知および施設基準告示の要点(文献2, 6より) 画像をクリックすると拡大します 表1 第2章 特掲診療料 第1部 医学管理等 通則の告示、通知および施設基準告示の要点(文献2, 6より) $(".vol6_r13_h1").modaal();
はじめに 糖尿病治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの確保であり、そのためには、血糖値を目標レベルにすることに加えて、脂質、血圧、肥満、喫煙などの多くのリスクを総合的にコントロールし血管障害などの種々合併症を予防することが必要といわれている。このフレーズは、血糖値を目標レベルに維持することのみに集中することへの注意喚起で、血糖値を目標レベルに維持することは糖尿病治療の基礎と思われる。血糖値をできる限り厳格に調整するのがよいには違いないが、平均的な血糖値レベルの指標であるHbA1cを基準とした場合は、低血糖のリスクが増え死亡のみならず血管障害も悪化させることが知られており、血糖値の上下変動が小さい、低血糖のリスクを減らした形での血糖値目標レベルの設定が必要と思われている 1)。このような目標の達成は、血糖値を血糖値非依存性に下げるSU薬やインスリンを中心とした従来の治療法では難しかったが、ここ10年、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬などの単独では低血糖のリスクを高めない種々の薬剤が使えるようになり、可能になりつつある。 本稿では、インスリンにインクレチン関連のGLP-1受容体作動薬を併用することが、いかに良質な血糖治療目標達成に有用であるかを概説する。 1.インクレチンとは 血糖値を一定に保つためにインスリンは不可欠なホルモンである。空腹時でも糖は利用されるのでインスリンの分泌は一定量必要だが(基礎分泌)、食後には食事性に急激に体内に流入してきた栄養素を処理するために多量のインスリンが必要となる(追加分泌)。ここで大事なのは、血糖値に応じてのインスリン分泌量の調整だが、血糖の上がりを予想して上がる前に多量のインスリンが分泌され上昇を抑えるという、インスリン分泌の補助、増幅機構である。この機構がうまく働けば血糖値はあまり変動しないことになるが、この機構の主たる担い手がインクレチンである。 生理的なインスリン分泌パターンをインスリン注射のみで再現するのは、日々一定の生活をしているわけではない実生活を考えると難しいことが多い。そこで、インスリン注射中の患者さんでも、良好な血糖コントロールを目指す場合は、種々の薬剤の助けを借りる必要がある。インクレチン関連薬には、日々の違いによる変動を和らげる効果があり、しばしば併用されてきた。
はじめに 2型糖尿病の注射療法において、GLP-1受容体作動薬はすでに定着したが、2023年4月から新たな作用機序であるGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが発売された。 1.チルゼパチドの作用機序 チルゼパチドはGIPのアミノ酸配列から設計されており、C20脂肪酸側鎖を付加することで内因性アルブミンへの結合性を高めて半減期を長くした週1回の注射投与製剤である 1, 2)。GIP/GLP-1受容体作動薬であるにもかかわらず、週一回のインクレチン関連薬の注射療法で臨床的効果がGLP-1受容体作動薬と似ているためにGLP-1受容体作動薬として誤解されることがある。しかし、この薬剤はGLP-1受容体よりもGIP受容体への結合が強い性質を持つため、新たな作用機序の薬剤と理解すべきである。 GIPは小腸から分泌されるインクレチンホルモンの一つであり、生理的濃度では、膵臓からのインスリン分泌を促進し、また脂肪細胞への脂肪の貯蔵を促すことなどが知られている。しかし、薬理的血中濃度になると食欲抑制の作用があると考えられている。このような性質を持つGIPのアナログ製剤であるチルゼパチドは、2型糖尿病の治療においては、血糖値依存的なインスリン分泌促進効果と食欲抑制の結果、体重減少によるインスリン感受性が是正されることも相まって血糖値を改善させる。 2.チルゼパチドの適応 チルゼパチドは2型糖尿病治療薬で、現時点で肥満症治療の適応はない。つまり2型糖尿病ではない人におけるその有効性と安全性の検証は十分にされているとはいえない。
前編 医師の立場から はじめに バセドウ病には治癒がなく、寛解を目指して治療を行う病気である。バセドウ病の療養は長期にわたるため、患者が継続的に病気と向き合い付き合っていくことが必要となる。そのためには、まず患者自身が病気の正しい知識を持つこと、自らが病気を理解して、治療に参加できるように支援すること、患者本来の社会生活が大きく中断されることがないよう多職種が連携して患者支援をおこなっていくことがポイントとなる。特に、これまで行ってきた治療方法からの変更にあたっては、患者への十分な情報提供を行った上で、患者自身が納得してより適切な治療選択ができるように、職種を超えて患者をサポートすることが必要である。 1.伊藤病院の医療相談室について 当院の医療相談室は、患者支援センター内に位置している。看護師5名で構成され、当院の病棟や外来、手術室の勤務経験がある者が配置されている。医療相談室では、患者や家族が安心して治療が受けられるように、病気に対する悩みだけでなく、これらによって生じる社会的、経済的、心理的問題などのさまざまな不安や悩みに対し、診療の補助業務の一環として看護師が相談対応を行っている。患者は「診察室では聞けなかった」「説明されたが頭が真っ白になってしまった」ということがある。相談にあたっては、患者一人一人に耳を傾け、わかりやすい言葉を用いて説明するよう心がけている。 伊藤病院の医療相談室での相談対応件数は、2022年は合計5,072件であった(表1)。主な相談内容は、病気や治療選択のイメージングのほか、甲状腺アイソトープ検査や放射性ヨウ素内用治療の際のヨウ素制限の説明指導、日常生活や心理面の相談である。医療相談室を利用するきっかけは医師からの依頼が最も多く(表2)、診療の補助業務の位置づけとして活用されているといえる。 表1 伊藤病院の医療相談室での相談件数(2022年)
後編 医療スタッフの立場から Q&A編はこちら はじめに バセドウ病では甲状腺の自己免疫異常により甲状腺刺激ホルモンの受容体(TSH受容体)に対する抗体(TRAb)が出現している。このTRAbが甲状腺を刺激し、甲状腺が腫れ、甲状腺でのホルモンの分泌が盛んになりさまざまな症状を示す。バセドウ病は20~40歳台に好発し、男女比は1:4と女性に多い。バセドウ病は妊娠や出産などのライフステージにあわせて治療を選択したり、喫煙やストレスなど日常生活が増悪因子になり得ることから、禁煙したりストレスとうまく付き合いながら治療を継続したりする必要がある。また、薬物療法の中心である抗甲状腺薬治療では、副作用の頻度が高いこと、病気の勢いが安定せず薬の中止に至らない寛解導入困難や薬を中止することができた後にも再発が起こり得ることから、より確実にバセドウ病をコントロールするため放射性ヨウ素内用療法や手術への変更が好ましい場面がある 1)。適切な治療選択へ向けては、患者へ十分情報を提供しよく相談した上で意思決定がなされることが必要である。 このため当院では診察時の医師からの説明に加え、リーフレット、ホームページでの情報提供と、医療相談室における面談を行い、バセドウ病の治療選択を中心にさまざまな場面で患者支援を行っているので紹介する。 1.症例1~診断から初期治療~ 48歳女性 喫煙歴あり X年職場の異動後、仕事が多忙でストレスが多くイライラしていた。暑がり、動悸も出現したが、更年期だと思い放置していた。 6カ月後職場健診で、体重減少とコレステロール低値を認めた。検査を行ったところ甲状腺ホルモン高値が判明した。専門病院へ受診したところ甲状腺ホルモン高値に加えTRAb陽性でありバセドウ病と診断された。 今後の挙児希望はなくチアマゾール(メルカゾール®)で治療を開始した。 1)診断 動悸や汗、手のふるえなどの甲状腺中毒症の症状や甲状腺の腫れ(甲状腺腫)を認めた場合、血液検査で甲状腺の機能を確認する。甲状腺中毒症では、血液中の甲状腺ホルモン(FT4、FT3)が高値で、TSHが低値となっており、バセドウ病では、ほとんどの場合、血液検査でTRAbや甲状腺刺激抗体(TSAb)が陽性となるので診断が可能である。TRAbやTSAbの測定で判断が難しい場合、アイソトープの検査を行う。 提示症例では暑がり・動悸など甲状腺中毒症の症状があったが更年期障害と思い放置していた。その後健診の一般検査の異常値を契機に、甲状腺ホルモン高値とTRAb陽性が明らかとなりバセドウ病と診断された。更年期症状は発汗過多、動悸、疲労感など更年期症状に共通した症状が多く注意が必要である 2)。バセドウ病の症状は、小児では落ち着きのなさや夜尿が認められること、高齢者では症状を呈しにくいことなど、年代や性別によって症状が異なる点に注意が必要となる。また、症例のように他の疾患と思い込んで診断が遅れる場合もある。
はじめに Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬は、その高い血糖降下作用に加えて、心血管イベントの抑制および腎保護効果についてのエビデンスも確立されており、臨床での使用機会が増えている。また、最近は経口薬も登場し、GLP-1受容体作動薬を必要とする患者の治療選択肢が広がった。本稿では、GLP-1受容体作動薬のポジショニングと導入の実際、注意事項について解説する。 1.2型糖尿病治療におけるGLP-1受容体作動薬の位置づけ GLP-1は主に下部小腸に存在するL細胞から分泌され、GLP-1受容体を介してβ細胞から血糖依存性にインスリン分泌を促進するとともに、グルカゴンの分泌を抑制することにより、血糖降下作用を発揮する。さらに、膵外作用として胃内容物排出遅延作用や食欲抑制作用、血管拡張、血圧低下作用、体重減少に対する影響など、多面的な効果が期待される。その強力な血糖降下作用に加えて、単独では低血糖を起こしにくい安全性や食欲抑制作用、体重への影響は、2型糖尿病治療の選択肢として魅力的である。例えば、セマグルチドを用いたSUSTAIN-6試験 1)では、HbA1cの変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-1.1%、セマグルチド1.0mg投与群で-1.4%(ベースラインの平均HbA1c 8.7%)、体重の変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-3.6kg、セマグルチド1.0mg投与群で-4.9kg(ベースラインの平均体重92.1kg)と、高い効果を示している。また、近年では先述のSUSTAIN-6試験 1)に加えて、LEADER 試験 2, 3)やREWIND試験 4)などの大規模臨床試験により、GLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制作用および腎保護効果を示す数々のエビデンスが確立されてきた。 このような昨今の流れを受けて、米国糖尿病学会から発表された「糖尿病診療ガイドライン2023(Standards of Care in Diabetes 2023〔図1〕)」 5)では、「高リスク2型糖尿病患者における心腎リスクの低減」を目標としたアルゴリズムが提示されており、動脈硬化性心疾患(あるいはそのハイリスク指標)を有する場合、GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬を優先的に選択するよう推奨している。また、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を有するケースでは、SGLT2阻害薬に次ぐ優先順位でGLP-1受容体作動薬が挙げられている。さらに、「血糖および体重管理」を目標としたアルゴリズムでも、その効果が優れた薬剤としてGLP-1受容体作動薬を挙げている。また、「注射療法への治療強化」の項目では「ほとんどの患者において、インスリンに先立ってGLP-1受容体作動薬またはGIP/GLP-1受容体作動薬を考慮する」と記載されている。すなわち、「first injection therapy(最初の注射療法)はGLP-1受容体作動薬」というのが、2型糖尿病治療における最近の潮流である。 一方、日本糖尿病学会が2023年10月に発表した「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版) 6)(図2)」でも、Step 3のAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患として、慢性腎臓病と心血管疾患については、SGLT2阻害薬と並んでGLP-1受容体作動薬が治療選択肢に挙げられている。 このように、血糖改善効果と臓器保護の両面から、2型糖尿病治療においてGLP-1受容体作動薬の重要性はますます高まっている。
はじめに 糖尿病治療において近年、新規薬剤の登場が続いており、デバイスも大きな進化を遂げている。デバイスに関する特筆すべき変化は、外来診療にて2021年以降、持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitoring:CGM)を用いた血糖管理が広く行われるようになったことである。本稿では、CGMデータを解釈するための要点と、AGPレポート(図1)を活かした実臨床における活用法について紹介する。 図1 AGPレポート 1.CGMとは CGMは上腕や腹部などの皮膚にセンサーを装着して、間質液のグルコース濃度を測定する機器である。CGMが普及するまでは、1日数回の血糖自己測定(Self Measurement of Blood Glucose:SMBG)による血糖値の確認が一般的であった。しかしながら、SMBGは、穿刺時に疼痛を伴うことに加えて、測定時点の値の推移は確認できるが、その間の値の推移は推定するしかないという問題点を抱えていた。CGMでは、血糖変動が連続したグラフで表示されるため、「血糖変動の見える化」を可能とした。本邦で使用可能なCGMは数種類あるが、本稿では、施設要件なく使用可能であるFreeStyleリブレを想定し、CGMの活用法、特にインスリン治療の最適化に必要な解析ソフト(FreeStyleリブレの場合、リブレView)に焦点を当てて紹介する。
Q&A編はこちら はじめに 下垂体は下垂体前葉ホルモンである副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)と、後葉ホルモンであるバソプレシン(AVP)、オキシトシンの分泌の場である。それぞれ視床下部からの制御および標的臓器からの負のフィードバックにより常に分泌調整が行われている(図1)。そのため、ホルモンの基礎値を評価する場合はその調節因子と共に解釈する必要がある。 図1 視床下部-下垂体前葉-標的ホルモン制御 下垂体ホルモン異常としてホルモンが過剰に分泌される下垂体機能亢進症と、ホルモン分泌が低下する下垂体機能低下症に大別される。前者は下垂体ホルモン産生性の下垂体腫瘍が多くを占めており、術前精査では分泌抑制試験による負のフィードバックの確認や、分泌刺激試験で反応性や奇異反応の検索を行う 1)(表1)。 表1 下垂体機能亢進症の診断 F:コルチゾール 画像をクリックすると拡大します 表1 下垂体機能亢進症の診断 F:コルチゾール. $(".vol6_k11_h1").modaal();
はじめに インスリンポンプを用いた持続皮下インスリン注入療法(CSII)は、頻回注射法(MDI)と比して血糖管理を向上し、患者のQOLを高めるエビデンスが小児や妊婦など一部の集団におけるランダム化比較試験で示されてきたが普遍的な優位性を示すものではなかった 1, 2)。また、持続血糖モニター(CGM)が普及してからは、リアルタイムCGMを使用しているかどうかの方が、MDIかCSIIかよりも血糖管理上の意義が大きいことが明らかになった 3)。すなわち、CSIIにおいてもCGM機能を搭載したSAP(Sensor Augmented Pump)療法の選択が望ましいといえる。しかし、わが国でもハイブリッドクローズドループシステム(HCL)搭載型のインスリンポンプが登場した。HCLは、リアルワールド研究においても従来型のSAPやMDIに対して血糖改善効果が示されている 4)。実際に、基礎インスリンの設定に難渋することがなくなりつつある一方で、上手くHCLを継続できない症例も少なくない 5)。その背景にはさまざまな要因があり、適切な対応でHCL使用率が改善する可能性がある。本稿では、CSIIをどのように安全かつ有効に使用するかについて概説する。 1.インスリンポンプ療法のメリットとデメリット CSIIはSAP、HCLと進化し、1型糖尿病診療の最先端であることは疑う余地がない。ただ、医療者・患者の双方に、ポンプにすれば必ず血糖が良くなるという誤解がよくある。特にCSIIは、速効性の高いインスリンを持続投与することで生理的な基礎インスリンを模倣しているという原理上、適切な管理による絶え間ない皮下注射が行われなければ速やかにインスリン枯渇状態となり、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に至る、という脆弱性を孕んでいることを決して忘れてはならない。表1にMDIおよびCSIIの選択が望ましい理由をそれぞれ列記した。重症低血糖を繰り返す患者や、妊娠計画時のように厳格な血糖管理が必要な場合などにはポンプ導入に消極的になってはいけないが、導入前には患者およびケア担当者とともに適応をよく検討したい。 表1 頻回注射法(MDI)と持続皮下インスリン注入療法(CSII)の主な選択理由
はじめに 2型糖尿病は、インスリンの分泌障害とインスリン抵抗性、さらには脂肪毒性が絡み合って高血糖を特徴とした複雑な病態を示す疾患である。新規2型糖尿病患者を対象としたUKPDS(UK Prospective Diabetes Study)などの大規模臨床試験の結果から、経年的に膵β細胞機能が低下することが知られており、経過とともにインスリン治療を行う患者は増加する。インスリン治療を検討するタイミングとしてよくあるのは、経口血糖降下薬だけでは血糖管理が安定しない、増量しても改善しない場合である。しかしインスリン導入を入院に限ると、仕事や学業、介護などの理由で数日でも入院はできないと考える人は多い。患者を説得し入院の同意が得られないと治療強化のタイミングを逃してしまう。そこで外来インスリン導入の出番である。それも糖尿病専門医に限らず外来での導入が可能となれば、遅滞なく多くの必要な患者への治療強化が可能となる。本稿では、2型糖尿病のインスリン治療の中でも外来診療でインスリン導入を考える際のポイントについて解説する。GLP-1受容体作動薬導入との使い分けや配合注に関する解説は本特集の他稿に譲る。 1.インスリン療法の適応 インスリン療法の適応には絶対的適応と相対的適応がある(表1) 1, 2)。絶対的適応例では入院による導入が望ましい。ただし、2型糖尿病でインスリン依存状態になる病態である、①病歴が長くインスリン分泌が重度に低下した場合、②若年の肥満男性に多い清涼飲料水ケトーシス(一時的なインスリン依存状態)では、入院での導入が望ましいものの外来で対応できる場合もある。一方、相対的適応例におけるインスリン療法の開始や経口薬からの切り替えは外来でも行える。 表1 インスリン療法の絶対的適応と相対的適応(文献2より)
フランスの国際空港にその名前を冠するシャルル・ド・ゴール(図)は1890年11月22日、フランスのリールに5人兄弟の3番目として生まれた。ド・ゴール家は古い有産階級の家柄で父のアンリはパリのイエズス会系私立学校の平服教授であった 1, 2)。ド・ゴールは1909年から1912年にかけて陸軍士官学校に在学した。入学時の成績は221人中119番目であったが、卒業時は13番で少尉の位であった 2)。卒後に配属された部隊で、後に第一次世界大戦の英雄となるペタン大佐と邂逅した。ペタンとド・ゴールはナチス・ドイツとの戦いでは反目しあうこととなったが、ド・ゴールの能力を認め取り立てたのはペタンであった。第一次世界大戦でド・ゴールは三度負傷し、ドイツ軍の捕虜となる経験をした 3)。 図 シャルル・ド・ゴール(Deutsches Bundesarchiv, B 145 Bild-F015892-0010より)
1.ポイント 原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)は二次性高血圧の中でも最も頻度が高く、恒常的なミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)活性化が臓器障害を引き起こす。 アルドステロン産生腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)による片側病変に対しては手術による病変側副腎摘除術が望ましく、両側性もしくは手術の希望や適応のない場合にはMR拮抗薬(MR antagonist:MRA)の投与が必要である。 PAに対してMRA加療を行う場合には、MR活性化の十分な阻害を目指して投与量を調整するべきである。 2.総論 PAは、アルドステロン(ALD)の自律性分泌により腎尿細管からのナトリウム・水の再吸収およびカリウム排泄亢進の結果、循環血漿量増加が起こり、結果としてレニン抑制、低カリウム血症、高血圧を呈する代表的な二次性高血圧である。PAは片側病変であれば手術摘除することで治癒可能な例があることに加え、本態性高血圧(essential hypertension:EH)に比して脳卒中、心肥大、心房細動、冠動脈疾患、心不全などの脳・心血管合併症の頻度が高く 1)、PAを疑う症例には適正な検査・治療がなされることが推奨される。 全高血圧症におけるPAの頻度は、プライマリケア施設で3.8~12.7%といわれており 2)適切にスクリーニング検査を行い疑わしい症例を拾い上げることが重要である。 スクリーニングは血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC)を血漿レニン活性(plasma renin activity:PRA)で除した値(aldosterone renin ratio:ARR)を用い、ARR≧200かつPAC≧60pg/mLで陽性と判定する(ARR100~200はARR境界域とし患者ニーズや臨床所見、年齢などを考慮し、機能確認検査実施の要否を個別に検討する)。スクリーニング陽性者に対しては、各種負荷試験(機能確認試験)を行い、ALDの過剰産生が示されるとPAの診断が確定される。 PAの治療方針は、その病型や病変の局在に強く関与する。PAの病型には主に片側性PA(アルドステロン産生腺腫〔aldosterone producing adenoma: APA〕)と両側性PA(特発性アルドステロン症〔Idiopathic hyperaldosteronism:IHA〕)とがある。手術の適応となるのは片側からの比較的強いALD分泌をきたす片側性PAである 3)。 片側性PAでは、CT所見や腫瘍サイズにかかわらず、病変側副腎摘出によりALD過剰や低カリウム血症などを改善させることができる(生化学的治癒) 4)。一方で、病側副腎摘除をしても臨床的な高血圧の治癒(臨床的治癒)が得られるのは約30~52%にとどまる。この理由としては高血圧にかかわるさまざまな生活習慣に加え、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)、腎障害、肥満症などの合併が原因と考えられている。 片側性の確定診断をするには、副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS)を行うべきである。CT/MRIなど画像検査のみで腫瘍の存在を診断した場合に、実際にその腫瘍がALD過剰分泌をしているという正診率は低く(37.8%が誤診)、AVSは片側性の診断において感度95%、特異度100%でありCT/MRIより明らかに有用である。 片側性PAでは病変側副腎摘出術が推奨されるが、両側性PAの場合や、片側性PAであっても併存症のために手術ができない、もしくは手術希望がない場合には、MRAを第一選択とする薬物治療を行う 3)。ALD過剰によるMR活性化の十分な抑制により臓器障害進行が抑制される。MRA増量によりもたらされる血圧正常化、カリウムの正常化(加療開始前に低カリウム血症が認められる場合)がある程度の治療効果の目安となるが、重要なのは「MR活性化を十分阻害できている」ことである。MRAによる治療後にレニン抑制の解除(PRA≧1ng/mL/hr)を認める場合には、心腎血管リスクをEHと同等まで改善できるいう報告があり、PRA≧1というのは一つの目安となり得る 5)。
はじめに 近年、腎臓領域において、腸内細菌との関連(腸腎連関)や心血管疾患との関連(心腎連関)が数多く報告されており、腎臓と多臓器との連関が注目されている。そのため、日常臨床においても専門分野だけでなく、臓器連関を意識した治療が肝要である。特に糖尿病・内分泌領域と腎臓領域との関わりといえば、sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬の腎保護効果が想起され、すでに日常診療に浸透し始めている。慢性腎臓病におけるダパグリフロジンの効果を検討したDAPA-CKD試験では、CKD 患者において、糖尿病の有無にかかわらず、推算糸球体濾過量(eGFR)低下、末期腎不全、腎疾患死・心血管死の複合リスクがダパグリフロジン投与群で有意に低いという結果であった 1)。SGLT2阻害薬による腎保護効果の機序としては緻密斑を介した尿細管糸球体フィードバック、Na利尿作用による体液再分配、尿細管仕事量の減少による糖毒性や低酸素の改善、後続の尿細管への仕事量増加に起因した酸素需要の亢進によるエリスロポエチン産生促進などが挙げられる 2)。また、その他にもSGLT2阻害薬により心拍数増加を伴わない血圧低下がみられることから、交感神経への直接作用なども示唆されている。 交感神経・副交感神経からなる自律神経系は大部分の内臓機能を制御する神経系であり、動脈圧、胃腸管分泌、膀胱排泄、発汗などを介して、数秒から数十秒の単位で迅速かつ強力に内臓機能を変化させることができる。近年になって自律神経系が免疫系を介して、腎臓をはじめとした多臓器へ作用を及ぼすことが分かってきたが、依然として不明な点も多い。本稿では腎臓と自律神経系に関する生理学的な内容を確認し、神経系との関連(脳腎連関)におけるこれまでの知見や臨床応用への展望について概説していく。 1.自律神経支配と腎臓 自律神経系は中枢神経を出た後、神経節を経由して節前線維から節後線維へ乗り換え、標的臓器を支配する。交感神経・副交感神経のいずれも節前線維は共通してコリン作動性神経であり、神経伝達物質のアセチルコリンを放出し、節後線維へ興奮を伝える。節後線維は標的臓器において、神経終末よりノルアドレナリン(交感神経)、アセチルコリン(副交感神経)を放出し、臓器にさまざまな影響を及ぼす(図1、2)。また、腎臓は腹腔内臓器の中でも神経支配が豊富な臓器であり、特に交感神経と感覚神経線維が主である 3)。腎神経叢は腹腔神経節、上部・下部腎臓神経節、上腸間膜神経節、胸部内臓神経線維から構成され、主にノルアドレナリンを神経伝達物質とするアドレナリン作動性ニューロンからなる。腎動脈などの血管平滑筋細胞ではα1Aアドレナリン作動性受容体を介して血管収縮や腎血流を調整し、糸球体傍装置ではβ1アドレナリン作動性受容体を介してレニン分泌を調節し、尿細管ではα1Bアドレナリン作動性を介してナトリウム再吸収などに関与する。また、副交感神経が腎臓へ直接入る経路も一部で報告されているが、その機能は明らかになっていない。
はじめに 1型糖尿病の治療はインスリン療法が必須である。1993年に発表されたDiabetes Control Complication Trial 1)より、1型糖尿病患者には「強化インスリン療法」を行うことが普及した。「強化インスリン療法」は「頻回注射療法」と同義ではなく、例えば、米国糖尿病学会(ADA)から出版されたKaufmanらの書 2)には、「生活スタイルに合わせて患者自身がインスリンを調節し良好な血糖コントロールを求める方法」と定義されている。一方、本邦の丸山らの書 3)ではもっと具体的な治療方針を含む記述が示され、「頻回注射療法(MDI)あるいはインスリン持続皮下注入療法(CSII)に血糖自己測定(SMBG)を併用し、インスリン注射量を患者自らが調節しながら可能な限り良好な血糖コントロールを目指す方法」と定義している。「患者自らが生活や血糖に応じてインスリンを調整する」ことこそが強化インスリン療法である。 1型糖尿病患者は、非糖尿病患者と同じように、食事や運動のほか、仕事や趣味の活動、家族や友人との会食や結婚式などのイベントへの参加、学校生活や修学旅行、海外旅行、進学や就職、結婚、出産、そして高齢期へ、といった人生を送る上でのありとあらゆる場面において、血糖を調節するためにどのようにインスリン療法を合わせるか、という工夫と共に生きなければならない。その工夫を行うために、医療従事者は1型糖尿病のインスリン治療や製剤について正しく理解し指導できること、また患者がそれらを日常生活の中で実践できるような指導を行うことが求められる。 現在の1型糖尿病のインスリン治療の選択肢を表1に示す。インスリン療法は、ペン型注入器を用いたMDIとインスリンポンプを用いた治療(CSIIとSAP〔Sensor Augmented Pump〕)の2種類から選択可能である。本稿で扱うMDIは、1型糖尿病治療では最も基本的なインスリン治療方法であり、CSIIやSAPを選択した患者も、ポンプトラブルの際にはMDIに直ちに切り替える対応を要することから、全ての1型糖尿病患者でMDIの考え方や実践方法を習得することが望ましい(CSIIやSAPについては本特集の他稿を参照されたい)。 また、すべての1型糖尿病患者においては血糖推移の把握のためSMBGや持続血糖モニター(CGM)で自身の血糖を把握し、その値や血糖変動を踏まえてインスリン調整を行う。また近年では、経口糖尿病薬であるSGLT2阻害薬の中で1型糖尿病に保険適用がある薬剤(イプラグリフロジンあるいはダパグリフロジン)も使用可能となった。 表1 1型糖尿病の治療選択肢 1.MDIの原理 MDIで重要なポイントは、基礎インスリンと追加インスリンの役割を分けて考え、両者の特徴を意識して単位数調整を試みる。ヒトのインスリン分泌には、食事による血糖上昇に対応して分泌される『追加分泌』と、カテコラミンなどのホルモンによる血糖上昇を抑制し血糖値を常に一定レベルに制御し、また脂肪の分解により脂肪酸が肝に流入しケトン体が産生されるのを抑制するために、絶え間なく分泌される『基礎分泌』の2種類の分泌様式から構成されている。1型糖尿病の治療では基礎・追加分泌補充を適切に行うことが不可欠である。
インスリンが1922年に発見されて高血糖状態であったレオナルド・トンプソン少年に注射されてから今年で101年目となる。自分(黒田)が1型糖尿病となりブタあるいはウシのインスリン製剤を打ち始めて約40年となった。当時のインスリンは現在のようにペン型のようなものはなく、使い捨ての注射器こそあったものの針は27Gと現在の34Gの注射針と比べると大変太い針であった。その後ヒトインスリン、ペン型注射器、インスリンポンプ、CGMが次々と開発利用されて糖尿病治療は飛躍的な進化を遂げた。しかしながら、これら最新の治療のUpdateについていくのが糖尿病専門医でも大変困難となってきているように感じる。 本特集では「糖尿病の注射薬療法の実際 ―インスリンとGLP-1・GIPの作動薬―」と題して7名のエキスパートの先生方にそれぞれのテーマの詳細と最新情報をご執筆いただいた。伊藤 新先生からは「1型糖尿病のインスリン治療」として強化インスリン療法の基本を中心にご執筆いただいた。岩田葉子先生、弘世貴久先生からは「2型糖尿病のインスリン治療」としてインスリンの導入についてのコツをご執筆いただいた。前田泰孝先生からは「最新インスリン注入デバイスを活用した糖尿病治療(ポンプを中心として)」として最新のHCLの治療についてご執筆いただいた。石黒瑞稀先生、西村理明先生からは「CGMデータを活用したインスリン治療の最適化」としてisCGM(FreeStyleリブレ)を用いてどのように治療に活かすのかについてご執筆いただいた。利根淳仁先生からは「GLP-1受容体作動薬による2型糖尿病治療」として注射のみならず内服製剤についてもご執筆いただいた。大西由希子先生からは「GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)の特徴」としてチルゼパチドの治験を中心にご執筆いただいた。大門 眞先生からは「インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注」としてインスリンとGLP-1受容体作動薬の併用のメリットをご執筆いただいた。 全体に非常に読みやすく、その道のビギナーからプロといわれる先生方にとっても充実した内容に満足されることと期待する。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:黒田暁生;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、日本イーライリリー、サノフィ)、鈴木 亮;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、日本イーライリリー、サノフィ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
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