Q&A編はこちら はじめに 骨粗鬆症治療の目的は、骨折を予防しQOLの維持・向上を目指すことにある。骨粗鬆症では一度骨折を起こすと次々と骨折を起こすようになるため、一次骨折(最初の脆弱性骨折)を予防することが肝要であるが、二次骨折(既存骨折がある患者で新たに起こった骨折)を予防することも重要である。 二次骨折を予防するための取り組みである骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は1990年代後半にイギリスで開始され、以降、世界の国々で発展している。日本では骨粗鬆症による脆弱性骨折防止のための取り組みとして骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が展開されているが、特に脆弱性骨折患者における二次骨折予防に対しては重点的な対策が必要であることから、2019年に「日本版 二次骨折予防のための骨折リエゾンサービス(FLS)クリニカルスタンダード」(FLSクリニカルスタンダード作成ワーキンググループ)が策定された。また、2022年4月の診療報酬改定では大腿骨近位部骨折患者の二次骨折予防に対する取り組みを評価した「二次性骨折予防継続管理料」が新設 1)されたことから、今後FLSに対する取り組みがより一層広がっていくと考えられる。 今回は、骨粗鬆症を治療する観点から各薬剤の特長・使用上の注意について再確認していくとともに、骨粗鬆症を予防する視点から骨粗鬆症のリスクや転倒のリスクとなる薬剤について紹介する。
はじめに 血清Ca濃度は、i)腸管からのCa吸収、ii)骨吸収によるCa動員、および iii)腎尿細管でのCa再吸収で規定され、共用基準範囲は8.8~10.1mg/dLである。このうち生理作用に関わるのは約50%を占める遊離イオン化Caだが、血清蛋白の影響を受けるため、アルブミン濃度が4.0mg/dL未満では以下のように補正して評価する。 補正Ca濃度(mg/dL)=実測Ca濃度(mg/dL)+〔4 -血清アルブミン濃度(g/dL)〕 軽度で緩徐な基準範囲の逸脱は気付かれないことが多い。一方、症状を伴う血清Caの異常値は適切な対応を必要とする緊急症である。
はじめに ナトリウムイオン(Na+)が細胞外液の主要な陽イオンであるのに対し、カリウムイオン(K+)は細胞内液の主要な陽イオンである。全身のK貯蔵量は約3,000mEq(50~75mEq/kg体重)であり、細胞内にはこの約98%が存在することになる。細胞内K濃度は約150mEq/L、また細胞外は約3.5~5.5mEq/Lであり、この濃度勾配が細胞の静止膜電位の最重要形成因子である 1)。これは細胞膜に存在するNa-K-ATPaseにより、能動的に細胞内へ2つのK+を取り込み、細胞外へ3つのNa+を放出することによって成立している。静止膜電位は正常な神経・筋の機能に不可欠な活動電位発生に寄与しており、細胞外K濃度が低くなると静止膜電位はより陰性になり(=過分極)、細胞外K濃度が高くなると静止膜電位は陰性が減弱する(=脱分極)。この変化に最も影響を受ける臓器は筋肉と心臓であり、低K血症と高K血症は共に麻痺、痙攣、あるいは致命的な不整脈を引き起こし得る。ここではその診断と緊急時の対応について述べることとする。
1.ポイント ・約90%は副腎に発生する褐色細胞腫、約10%は傍神経節に発生するパラガングリオーマである。・転移・再発の予測が極めて困難であり、転移の可能性がある腫瘍に分類されている。全例で生涯にわたる再発・転移の経過観察が必要である。・診断において、カテコールアミンと比べてカテコールアミン代謝産物であるメタネフリン・ノルメタネフリンの感度・特異度が高い。・転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ(pheochromocytoma/paraganglioma:PPGL)の根治治療はいまだ存在しない。カテコールアミン過剰症状のコントロール、無増悪生存期間の延長を目標として集学的治療を行う。
はじめに 血清ナトリウムの異常は最も頻度の高い電解質異常である。本稿では、低ナトリウム血症と高ナトリウム血症の病態、症状、鑑別診断、治療について、原因となる代表的な内分泌疾患とともに述べる。
はじめに 甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡は、甲状腺疾患(主にバセドウ病や橋本病)を基盤に発症する致死的な内分泌緊急症(死亡率は前者が約10%、後者が約30%)であり、的確な早期診断と迅速な集学的治療の開始が患者の生死を左右する。しかしながら、両緊急症の疫学的データの不足により、2005年ごろに診断基準や治療指針が国際的にも未確立であった経緯があり、日本甲状腺学会は両緊急症の診断基準と治療指針の作成を臨床重要課題に指定した(甲状腺クリーゼは日本内分泌学会でも指定)。甲状腺クリーゼは、全国疫学調査で収集した臨床データをもとに診断基準と治療指針が作成され、「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017」として刊行されている 1)。粘液水腫性昏睡は、日本甲状腺学会員を対象とした2008年の実態調査により収集した臨床データをもとに診断基準第3次案と治療指針案が作成・公表されている。両緊急症ともに死亡率が高く、緊急治療が必要な病態であるため、救急医・一般内科医・循環器内科医などの非甲状腺専門医が初期診療にあたるケースが多い。そのため、救急診療に携わる医療従事者は本症の診断や治療法についてよく理解しておくことが重要である。本稿では両緊急症の診断基準と治療指針を中心に概説する。
Q&A編はこちら 2023年7月31日に訂正した。訂正内容については、下記を参照されたい。https://practice.dm-rg.net/correction/0103_a0044 はじめに インスリン発見から100年の時を経て、近年のインスリン製剤やデバイスは著しい進化を遂げている。インスリン製剤やデバイスの組み合わせによって治療法にも選択肢が増え、1型糖尿病においてもオーダーメイド医療が意識されるようになってきた。血糖コントロールは、食事、運動量、ストレスなど、生活のすべてが影響する。患者のライフスタイルに合わせた治療法を提案するためには、インスリン製剤やデバイス類に精通し、それぞれのメリット・デメリットを把握しておく必要がある。本稿では、現在本邦で行うことのできる1型糖尿病の治療法についてデバイスを中心に述べる。
はじめに 副腎クリーゼ(急性副腎不全症)や褐色細胞腫クリーゼは、放置すれば致死的病態に至る内分泌性緊急症の代表的疾患である。副腎クリーゼではステロイドが急激に絶対的または相対的に欠乏することで循環障害やショックに至る。慢性副腎不全症患者に種々のストレス(感染、外傷など)が加わり、ステロイド需要量が増加した場合や膠原病、自己免疫疾患などで長期服用中のステロイド薬が不適切に減量・中止された場合の発症が多い 1)。ステロイド補充や投与の病歴聴取が診断の鍵となるが、症状が非特異的であるため、救急対応において診断に難渋する場合も少なくない。下垂体卒中は副腎クリーゼの成因の一つであり、下垂体腺腫の突然の出血や梗塞によってACTH、コルチゾールの急激な分泌低下をきたす 2)。一方、褐色細胞腫・パラガングリオーマは副腎髄質または副腎外傍神経節に存在するクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生性の神経内分泌腫瘍で、潜在的に転移性であることから、悪性腫瘍の取り扱いとなっている。薬剤、造影剤、食事、排尿など種々の要因によりカテコールアミンの急激な過剰分泌をきたし、顕著な高血圧(高血圧クリーゼ)や標的臓器障害が誘発される 3)。本稿ではこれらの病態と加療について概説する。
日曜日の昼下がり、突然、温泉に行きたくなる。福井に住んでいた三十数年前なら、夕陽が沈む時間を見計らって車を飛ばし、越前海岸の日帰り温泉「漁火(いさりび)」に向かっていたところだ。露天風呂にゆったりと浸かり、潮騒に耳を澄ませながら、夕陽が水平線に完全に沈むまで日本海の景色を堪能する。丸い太陽が水平線に隠れるほんの少し前には、オレンジ色の光が一瞬真横に広がって、今日一日への別れの挨拶のように見える。日が完全に沈んだ後の、海の碧と空の青との間に横たわる茜色のグラデーションも、太陽が退場した後の余韻として誠に相応しい幕引きだ。
はじめに 生理的条件下でヒトの血糖値(グルコース濃度)はおおむね70~130mg/dL程度の範囲に維持されている。中枢神経はグルコースをエネルギー源として利用し、肝臓や腎臓は糖新生を行い、神経系やホルモンを介して糖代謝恒常性が維持されている。低血糖はこの糖代謝恒常性維持機構に何らかの異常をきたすことで発生する。すなわち低血糖症を見つけ、原因を追究することはその背景にあるさまざまな疾患を診断・治療する契機にもなり得る。本稿では低血糖症を病因別にまとめ、外来や病棟での鑑別、緊急時の対応方法を概説する。
はじめに 糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)と高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)は高度のインスリン作用不足と脱水を背景によって生じる糖尿病の急性合併症で、救急外来でしばしば遭遇する。また、乳酸アシドーシスはビグアナイド薬の副作用として知られており、まれではあるが致死率の高い疾患である。本稿ではこれらの病態と、診断・治療について解説する。
内科診療において最も現場感覚を要するものが緊急時の対応であろう。糖尿病・内分泌疾患の臨床もその例に漏れないことは言を俟たない。したがって、そのような状況では、十分な経験を有することがまさしく円滑な治療に繋がるが、『糖尿病・内分泌プラクティスWeb』の今号の特集では、若手医師にとっては実体験を補完するものとして、そしてベテランの医師にとってはご自身の臨床を振り返りつつ新たな視点を加えるものとして、身近にご活用いただける企画になっているものと確信している。 本特集では、冒頭、勝山修行先生に、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖状態、さらには乳酸アシドーシスについて、手際よく具体的におまとめいただき、次いで、山田穂高先生には、低血糖症の病態と具体的な対応策について、広い視野に基づいて詳述していただいている。 さらに、内分泌領域では、柳瀬敏彦先生に、放置すれば死に至る、内分泌性緊急症の代表的な疾患である副腎クリーゼと褐色細胞腫クリーゼについて、深いご経験から敷衍していただき、就中、急性副腎クリーゼの原因疾患の一つである下垂体卒中についても別項立てで取り上げていただいた。また、田中祐司先生ほかの先生方には、同じく致命率の高い甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡について、最近のガイドラインや診断基準を踏まえてシステマティックに論考していただいている。 後半では、電解質異常について、まずは宮田 崇先生と有馬 寛先生に、臨床上高頻度に緊急症を来しうる血清ナトリウム異常について、その病態、症状、鑑別診断、治療について代表的な原因疾患とともにご解説いただき、次いで、菱田吉明先生と曽根正勝先生には、ともに麻痺、痙攣、致命的な不整脈などを引き起こしうる高、低カリウム血症について、体内のカリウム調節機構から緊急時の対応まで、実際に即して展開していただいた。そして最後に、山本昌弘先生には、高、低カルシウム血症について、その症候と病態生理、鑑別診断から、さらには具体的な治療に至るまで、具体的に描出していただいた。 本特集の執筆陣は、その分野に広範な経験と知識を有する専門家の方々である。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、今回の特集によって読者諸賢の理解が深まり、それによって得られたものを臨床の現場にフィードバックしていただければ、企画者としてこのうえない喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 酸塩基平衡は必須の知識でありながら、かなり難しく考えられているように思われる。若い医師たちを見ていると、血液ガス解釈のテクニックを習得することだけに満足してしまっていたり、診断や治療のアルゴリズムに盲目的に従うだけで、患者を背景とした病態に思いが至っていない状況も多く経験する。
はじめに 糖尿病治療に用いられる注射薬は、インスリン製剤、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬および配合注射薬に分けられる。自己注射に対する指導管理は「C101在宅自己注射指導管理料」で算定し、注射薬は「薬価基準」、注入器は「C151注入器加算」、注射針は「C153注入器用注射針加算」、血糖測定やインスリン注入に関しては「C150血糖自己測定器加算」、「C152間歇注入シリンジポンプ加算」および「C152-2持続血糖測定器加算」で算定する。そして注射薬の投与に用いられる特定医療保険材料は所定点数に含まれ、医療機器は医療機関などからの給付・貸与となり、注射薬に係る算定については複雑である。 よって今回は、2022年4月の診療報酬改定および12月適用の薬価基準 1)を中心に、自己注射に係る注射薬と特定医療保険材料について概説する。なお、2022年12月21日の中央社会保険医療協議会によると、2023年度薬価改定では、国⺠負担軽減の観点から、平均乖離率♯7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目が改定の対象となる 2)。 ♯平均乖離率とは、{(現行薬価×販売数量)の総和-(実販売単価×販売数量)の総和}/(現行薬価×販売数量)の総和で計算される数値をいう。
はじめに 超高齢社会の進行とともに原発性骨粗鬆症による脆弱性骨折の発生が、健康寿命の延伸にとり大きな足かせとなっている。特に一度臨床的骨折を発症した患者は、再骨折の発生率が高く、骨折直後からの治療介入が極めて重要である。しかしながら、骨折後の治療率が低いことが世界的な問題となっており、新しい診療支援の取り組みが必要となってきた。海外で始まった骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は、まさに骨折直後の診療支援を推進するものであるが、わが国ではさらに一次予防や社会啓発も含めた骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が日本骨粗鬆症学会により策定された 1)。令和4年4月の診療報酬改定では、手術を行った大腿骨近位部骨折患者に対するFLSに対して、新しく二次性骨折予防継続管理料が設けられ、OLS活動の一部が経済的な担保を得られるようになった 2)。
1.ポイント ・高LDL-C血症は動脈硬化リスクとなる。特に遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)はリスクが高く見逃さないように気をつける。・LDL-C低下薬は動脈硬化リスクを軽減する。動脈硬化リスクが高いほど、LDL-Cの管理目標値を低く設定して治療する(the lower, the better)。・まず内服薬をエビデンスの順に(スタチン>小腸コレステロールトランスポーター阻害薬[エゼチミブ]>陰イオン交換樹脂[レジン])適宜組み合わせて使用し、内服でも管理目標値に達しなければPCSK9阻害薬を用いる。・二次予防の場合など、速やかなLDL-C低下が望ましい場合は、スタチンに加えて早期のPCSK9阻害薬の導入を検討する。・高LDL-C血症の動脈硬化リスクは、LDL-C値が高いほど、またその期間が長いほど高くなる(cholesterol x years risk:生涯コレステロールリスク)。どのくらい下げるか、とともに、いつから下げるか、いかに早期に診断し治療を進めるか、が大切である(the lower, the earlier, the better)。
Q&A編はこちら はじめに 低Na血症は、日常臨床において最も遭遇する頻度の高い電解質異常である。高度な急性低Na血症は種々の神経学的症状をきたし、致死的なこともある。一方、慢性的な低Na血症は転倒や骨折、骨粗鬆症、認知機能低下などさまざまな病的状態に関連する。低Na血症の症状は基本的に低浸透圧血症による。実臨床においては、診断がつかないままに放置されている低Na血症や鑑別に難渋する例が少なくない。本稿では基本事項として血漿浸透圧についての再確認と、低Na血症の診断・治療について実際の症例を提示しながら考えていきたい。
1.薬物療法の開始基準 骨粗鬆症の治療の目標は、合併症としての脆弱性骨折を防ぐことである。では、骨粗鬆症の薬物療法はいつから開始すべきなのだろうか。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」には、原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準が定められている 1)。まず、大腿骨近位部骨折または椎体骨折の脆弱性骨折がある場合には、骨密度に関係なく骨粗鬆症として薬物療法の開始が推奨されている。肋骨や骨盤(恥骨、坐骨、仙骨を含む)、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨に脆弱性骨折がある場合には、骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)の80%未満で薬物療法を開始する。脆弱性骨折がない場合は、骨密度がYAMの70%以下あるいはTスコアー2.5以下で薬物療法を開始する。骨密度がYAMの70%より大きく80%未満の場合についても、大腿骨近位部骨折の家族歴がある場合、あるいはFRAX®の10年間の骨折確率(主要骨折)15%以上の場合には、薬物療法の開始が推奨される。これらに加えて、「生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド2019年版」においては、試案ではあるものの、2型糖尿病、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)で骨折リスクが高いと判断される場合には、薬物療法の開始が推奨されている 2)。ちなみに、2型糖尿病では、罹病歴10年以上、HbA1c 7.5%以上、インスリン使用、閉経後女性チアゾリジン使用、喫煙、重症低血糖が危惧される薬剤の使用、転倒リスクが高い場合を骨折リスクが高い状態と考える。
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