5.GLP-1受容体作動薬による2型糖尿病治療

  • 利根淳仁 Tone, Atsuhito
    岡山済生会総合病院 内科・糖尿病センター 副センター長
公開日:2023年12月8日

はじめに

 Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬は、その高い血糖降下作用に加えて、心血管イベントの抑制および腎保護効果についてのエビデンスも確立されており、臨床での使用機会が増えている。また、最近は経口薬も登場し、GLP-1受容体作動薬を必要とする患者の治療選択肢が広がった。本稿では、GLP-1受容体作動薬のポジショニングと導入の実際、注意事項について解説する。

1.2型糖尿病治療におけるGLP-1受容体作動薬の位置づけ

 GLP-1は主に下部小腸に存在するL細胞から分泌され、GLP-1受容体を介してβ細胞から血糖依存性にインスリン分泌を促進するとともに、グルカゴンの分泌を抑制することにより、血糖降下作用を発揮する。さらに、膵外作用として胃内容物排出遅延作用や食欲抑制作用、血管拡張、血圧低下作用、体重減少に対する影響など、多面的な効果が期待される。その強力な血糖降下作用に加えて、単独では低血糖を起こしにくい安全性や食欲抑制作用、体重への影響は、2型糖尿病治療の選択肢として魅力的である。例えば、セマグルチドを用いたSUSTAIN-6試験 1)では、HbA1cの変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-1.1%、セマグルチド1.0mg投与群で-1.4%(ベースラインの平均HbA1c 8.7%)、体重の変化量はセマグルチド0.5mg投与群で-3.6kg、セマグルチド1.0mg投与群で-4.9kg(ベースラインの平均体重92.1kg)と、高い効果を示している。また、近年では先述のSUSTAIN-6試験 1)に加えて、LEADER 試験 2, 3)やREWIND試験 4)などの大規模臨床試験により、GLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制作用および腎保護効果を示す数々のエビデンスが確立されてきた。
 このような昨今の流れを受けて、米国糖尿病学会から発表された「糖尿病診療ガイドライン2023(Standards of Care in Diabetes 2023〔図1〕)」 5)では、「高リスク2型糖尿病患者における心腎リスクの低減」を目標としたアルゴリズムが提示されており、動脈硬化性心疾患(あるいはそのハイリスク指標)を有する場合、GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬を優先的に選択するよう推奨している。また、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を有するケースでは、SGLT2阻害薬に次ぐ優先順位でGLP-1受容体作動薬が挙げられている。さらに、「血糖および体重管理」を目標としたアルゴリズムでも、その効果が優れた薬剤としてGLP-1受容体作動薬を挙げている。また、「注射療法への治療強化」の項目では「ほとんどの患者において、インスリンに先立ってGLP-1受容体作動薬またはGIP/GLP-1受容体作動薬を考慮する」と記載されている。すなわち、「first injection therapy(最初の注射療法)はGLP-1受容体作動薬」というのが、2型糖尿病治療における最近の潮流である。
 一方、日本糖尿病学会が2023年10月に発表した「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版) 6)図2)」でも、Step 3のAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患として、慢性腎臓病と心血管疾患については、SGLT2阻害薬と並んでGLP-1受容体作動薬が治療選択肢に挙げられている。
 このように、血糖改善効果と臓器保護の両面から、2型糖尿病治療においてGLP-1受容体作動薬の重要性はますます高まっている。

このコンテンツは糖尿病リソースガイドの有料会員登録後にお読みいただけます。

  • ・糖尿病・内分泌医療を中心に、新しい時代の臨床現場を支援する糖尿病・内分泌プラクティスWebの閲覧が可能
  • ・糖尿病プラクティス(2020~2022年・3年間分)の論文や、本サイトが厳選したスペシャルコンテンツが閲覧可能
  • ・メールマガジン週1回配信 最新ニュースやイベント・学会情報をもれなくキャッチアップ
  • ・糖尿病の治療に関するアンケートに参加可能、回答はメルマガやウェブで公開
  • ・その他、有料会員向けコンテンツ・サービスを企画中!乞うご期待ください
糖尿病の注射薬療法の実際 ―インスリンとGLP-1・GIPの作動薬― 一覧へ