7.インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注

  • 大門 眞 Daimon, Makoto
    至誠堂総合病院 健康増進センター長/弘前大学名誉教授
公開日:2023年12月20日

はじめに

 糖尿病治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの確保であり、そのためには、血糖値を目標レベルにすることに加えて、脂質、血圧、肥満、喫煙などの多くのリスクを総合的にコントロールし血管障害などの種々合併症を予防することが必要といわれている。このフレーズは、血糖値を目標レベルに維持することのみに集中することへの注意喚起で、血糖値を目標レベルに維持することは糖尿病治療の基礎と思われる。血糖値をできる限り厳格に調整するのがよいには違いないが、平均的な血糖値レベルの指標であるHbA1cを基準とした場合は、低血糖のリスクが増え死亡のみならず血管障害も悪化させることが知られており、血糖値の上下変動が小さい、低血糖のリスクを減らした形での血糖値目標レベルの設定が必要と思われている 1)。このような目標の達成は、血糖値を血糖値非依存性に下げるSU薬やインスリンを中心とした従来の治療法では難しかったが、ここ10年、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬などの単独では低血糖のリスクを高めない種々の薬剤が使えるようになり、可能になりつつある。

 本稿では、インスリンにインクレチン関連のGLP-1受容体作動薬を併用することが、いかに良質な血糖治療目標達成に有用であるかを概説する。

1.インクレチンとは

 血糖値を一定に保つためにインスリンは不可欠なホルモンである。空腹時でも糖は利用されるのでインスリンの分泌は一定量必要だが(基礎分泌)、食後には食事性に急激に体内に流入してきた栄養素を処理するために多量のインスリンが必要となる(追加分泌)。ここで大事なのは、血糖値に応じてのインスリン分泌量の調整だが、血糖の上がりを予想して上がる前に多量のインスリンが分泌され上昇を抑えるという、インスリン分泌の補助、増幅機構である。この機構がうまく働けば血糖値はあまり変動しないことになるが、この機構の主たる担い手がインクレチンである。
 生理的なインスリン分泌パターンをインスリン注射のみで再現するのは、日々一定の生活をしているわけではない実生活を考えると難しいことが多い。そこで、インスリン注射中の患者さんでも、良好な血糖コントロールを目指す場合は、種々の薬剤の助けを借りる必要がある。インクレチン関連薬には、日々の違いによる変動を和らげる効果があり、しばしば併用されてきた。

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