糖代謝の調節機構

  • 酒井真志人 Sakai, Mashito
    日本医科大学 大学院医学研究科 分子遺伝医学分野 教授
公開日:2024年1月17日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(1): 0009./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(1): 0009.
https://doi.org/10.57554/2024-0009

はじめに

 血糖値の恒常性は、インスリンとグルカゴンに代表されるホルモンによって、肝臓の糖産生と末梢組織におけるグルコース利用が調節されることで維持されている。本稿では、これらのホルモンによる肝臓と骨格筋・脂肪組織における糖代謝調節機構について概説する。また後半では、その他の臓器を標的とする糖尿病治療薬としてメトホルミンとSGLT2阻害薬を取り上げ、消化管および腎臓を介した血糖降下作用の機序を紹介する。

1.肝臓における糖代謝調節

 摂食時には、経口摂取した炭水化物由来のグルコースが主にATP(アデノシン三リン酸)の供給源となる。また余剰なグルコースや遊離脂肪酸は、グリコーゲンや中性脂肪に変換されエネルギー源として、前者は骨格筋や肝臓に、後者は主に脂肪組織に貯蔵される 1)
 肝細胞では、グルコースはGLUT2(glucose transporter type 2)を介して細胞内へ取り込まれる。摂食時には、グルコースはグルコキナーゼによりグルコース-6-リン酸へとリン酸化され、グリコーゲン合成と解糖系で利用される。グルコース-6-リン酸は解糖系によりピルビン酸へと変換され、ミトコンドリア内に輸送されてアセチルCoAとなり、クエン酸回路に入っていく。また、アセチルCoAは、脂肪酸や中性脂肪の合成にも用いられる。解糖系とクエン酸回路で作られたNADHとFADH2は、電子伝達系への電子供与体となり、これらが酸化される過程で形成されるプロトン(水素イオン)の濃度勾配を駆動力とするATP合成酵素によってATPが生じる。呼吸商(respiratory quotient:RQ)は酸素消費量に対する二酸化炭素排出量の体積比であり、グルコース(C6H12O6)が酸化される際は、RQ = 6CO2/6O2 = 1となる。脂質のRQは平均すると約0.7、タンパク質のRQは約0.8であるため、生体のRQは通常0.7~1の間で推移する。
 肝細胞における摂食時の糖・脂質代謝はインスリンによって制御されている。インスリン受容体は、α-サブユニットとβ-サブユニットからなり、インスリンが結合するとβ-サブユニットのチロシンキナーゼ活性が増加する。インスリン受容体の自己リン酸化が起こると、インスリン受容体基質(insulin receptor substrate:IRS)がリクルートされてリン酸化される。IRSタンパク質は、次にPI3キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase:PI3K)をリクルートして活性化し、PI3Kはホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)をリン酸化してホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)を生成する。PIP3によって活性化された3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ(PDK1)は、次にセリンスレオニンキナーゼであるAKTをリン酸化することで活性化する。活性化したAKTはグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK3)依存性の経路を含む複数のメカニズムでグリコーゲン合成を誘導する。また、糖新生系酵素遺伝子の発現を誘導する転写因子であるFoxO1をリン酸化して阻害することにより、糖新生系酵素の発現を抑制するとともに、グルコキナーゼの発現を誘導して解糖を促進する。さらに、AKTはTSCタンパク質をリン酸化し阻害することにより、mTORC1(mTOR複合体1)を活性化して、タンパク質合成、脂質合成を促進する(図12)

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