(扉)特集にあたって

  • 竹内靖博 Takeuchi, Yasuhiro
    虎の門病院 副院長/内分泌センター センター長
    野田光彦 Noda, Mitsuhiko
    国際医療福祉大学 市川病院 教授(糖尿病・代謝・内分泌内科)/埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科 客員教授 
公開日:2024年1月12日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(1): 0001./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(1): 0001.
https://doi.org/10.57554/2024-0001

 医学と医療の進歩とともに、妊娠中の女性の健康を守るための知識と技術が高度化してきた。その中でも糖尿病・内分泌代謝領域においては、高血糖と高血圧の管理が、母体と児の健康を守る上で重要な課題となっている。また、生殖年齢の女性に好発するバセドウ病をはじめとする甲状腺機能異常症への対応についても多くの経験が蓄積されてきた。さらに、妊娠希望者の高齢化や生殖補助技術の進歩により、さまざまな疾患や病態を抱えて妊娠・出産を希望する女性が増えており、これらの女性への対応も重要な課題となっている。このような背景から、プレコンセプションケアという考え方が注目されるようになり、多くの医療機関で実践されるようになっている。
 本特集では、糖尿病・内分泌代謝領域に焦点を絞って、妊娠・出産もしくはそこに至る過程において生じるさまざまな問題について実践的な知識と情報を提供することを目指した。糖尿病もしくは糖代謝異常を有する患者においては、妊娠前から出産後の授乳に至るまで、さらには糖代謝異常に関するその後のフォローアップまで、きめ細やかな対応が必要であり、そのための解説を提供できるよう配慮した。
 また、妊娠中の高血圧症は、とりわけ妊娠後期の母児の健康に重大な影響を及ぼす。かつては妊娠中毒症と称されていた病態は、現在では妊娠高血圧症候群と称される。とりわけ妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩12週までに正常に復する場合である。ただし、蛋白尿を認めなくても肝機能障害や腎障害、母体脳卒中や神経障害、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全などを認める場合も妊娠高血圧腎症と診断し、適切な治療が必要とされる。内分泌代謝領域では、とりわけ原発性アルドステロン症と褐色細胞腫が重要である。妊娠中は薬物療法に制限のある中で、手術を含めてどのように考え、対処するべきかを知ることが大切である。
 バセドウ病は生殖年齢の女性に好発するため、その治療中に妊娠・出産を検討する場合が多い。また、時には、妊娠中にバセドウ病罹患に気付かれることもあり、対応に苦慮する。いずれの場合も、無事に出産、そして授乳に漕ぎつけることができるようさまざまな対応が必要となるため、そのための知識を学び、実践することが望まれる。
 原発性副甲状腺機能亢進症は女性に好発し、多くは自他覚症状に乏しい。そのため、健診や医療機関受診の機会の少ない若年女性では、罹患に気付かないままに妊娠し、妊娠中に本症と診断されることがある。著しい高カルシウム血症のまま分娩に臨むことは避けるべきであり、妊娠の安定期に副甲状腺手術を実施することが教科書的であるが、現実的な対処法についての記述は乏しい。本特集ではより具体的な解説を提供することを心がけている。
 現在は、生殖補助技術により、中枢性卵巣機能不全であっても挙児が可能となっており、間脳下垂体疾患の女性の妊娠・出産はまれではない。このような患者に対応することも内分泌代謝科医師の責務であり、そのための研鑽にも、本特集の論文を積極的に活用していただければ幸いである。

著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし

妊娠と高血糖、そして、ホルモン関連疾患と ―女性固有のライフステージに必要なケアとは― 一覧へ