バセドウ病の治療選択の支援-前編 医師の立場から

  • 渡邊奈津子 Wanatabe, Natsuko
    伊藤病院 内科
公開日:2023年12月11日

はじめに

 バセドウ病では甲状腺の自己免疫異常により甲状腺刺激ホルモンの受容体(TSH受容体)に対する抗体(TRAb)が出現している。このTRAbが甲状腺を刺激し、甲状腺が腫れ、甲状腺でのホルモンの分泌が盛んになりさまざまな症状を示す。バセドウ病は20~40歳台に好発し、男女比は1:4と女性に多い。バセドウ病は妊娠や出産などのライフステージにあわせて治療を選択したり、喫煙やストレスなど日常生活が増悪因子になり得ることから、禁煙したりストレスとうまく付き合いながら治療を継続したりする必要がある。また、薬物療法の中心である抗甲状腺薬治療では、副作用の頻度が高いこと、病気の勢いが安定せず薬の中止に至らない寛解導入困難や薬を中止することができた後にも再発が起こり得ることから、より確実にバセドウ病をコントロールするため放射性ヨウ素内用療法や手術への変更が好ましい場面がある 1)。適切な治療選択へ向けては、患者へ十分情報を提供しよく相談した上で意思決定がなされることが必要である。

 このため当院では診察時の医師からの説明に加え、リーフレット、ホームページでの情報提供と、医療相談室における面談を行い、バセドウ病の治療選択を中心にさまざまな場面で患者支援を行っているので紹介する。

1.症例1~診断から初期治療~

  • 48歳女性
  • 喫煙歴あり
  • X年職場の異動後、仕事が多忙でストレスが多くイライラしていた。暑がり、動悸も出現したが、更年期だと思い放置していた。
  • 6カ月後職場健診で、体重減少とコレステロール低値を認めた。検査を行ったところ甲状腺ホルモン高値が判明した。専門病院へ受診したところ甲状腺ホルモン高値に加えTRAb陽性でありバセドウ病と診断された。
  • 今後の挙児希望はなくチアマゾール(メルカゾール®)で治療を開始した。

1)診断

 動悸や汗、手のふるえなどの甲状腺中毒症の症状や甲状腺の腫れ(甲状腺腫)を認めた場合、血液検査で甲状腺の機能を確認する。甲状腺中毒症では、血液中の甲状腺ホルモン(FT4、FT3)が高値で、TSHが低値となっており、バセドウ病では、ほとんどの場合、血液検査でTRAbや甲状腺刺激抗体(TSAb)が陽性となるので診断が可能である。TRAbやTSAbの測定で判断が難しい場合、アイソトープの検査を行う。
 提示症例では暑がり・動悸など甲状腺中毒症の症状があったが更年期障害と思い放置していた。その後健診の一般検査の異常値を契機に、甲状腺ホルモン高値とTRAb陽性が明らかとなりバセドウ病と診断された。更年期症状は発汗過多、動悸、疲労感など更年期症状に共通した症状が多く注意が必要である 2)。バセドウ病の症状は、小児では落ち着きのなさや夜尿が認められること、高齢者では症状を呈しにくいことなど、年代や性別によって症状が異なる点に注意が必要となる。また、症例のように他の疾患と思い込んで診断が遅れる場合もある。

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