3.本態性高血圧の成因・診断・治療法―ナトリウム調節異常と本態性高血圧

  • 荒川仁香 Arakawa, Kimika
    九州医療センター臨床検査科 医長・検査部 部長
公開日:2024年3月27日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(2): 0020./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(2): 0020.
https://doi.org/10.57554/2024-0020

はじめに

 本態性高血圧の成因については複数の因子が互いに関連しながら関与しているという、いわゆるモザイク説が約80年前にPageにより提唱された 1, 2)。その中でも食塩、本稿で述べるところのナトリウム(Na)調節異常は中心的因子といえる。Guytonらは血圧上昇とともに尿中食塩排泄が増えることを発見し、血圧と腎におけるNaと水排泄との関係、すなわち圧利尿(Na利尿)曲線を明らかにし、この曲線が右側にリセットされることにより高血圧が持続するとした。これは高食塩下において腎でのNa排泄が不十分であることが細胞外液増加につながり、心拍出量の増加と末梢血管抵抗が上昇することで血圧が上がるとする理論である 3)。本稿では、高食塩下でのNa(ここでは食塩と同義)調節異常と本態性高血圧について述べる。

1.Na調節異常の成り立ち、どこで起きているのか?

 本態性高血圧の原因としてのNa調節異常を説明する上で欠かせない圧利尿(Na利尿)とそのリセットには、腎臓内間質圧の上昇や近位尿細管のsodium hydrogen exchanger 3(NHE3)やsodium-phosphate cotransporter isoform 2といったNaトランスポーターの変化など複数の因子が関与している 4)。このことから、Na調節異常は腎臓で起こっているといえる。実際に本態性高血圧患者が正常血圧のドナーの腎臓を移植すると高血圧が改善したとの報告がある。この報告では、さらに平均4.5年のフォロー中、降圧薬投与なしで正常血圧を維持できたとされる 5)。この結果から、本態性高血圧には腎臓でのNa調整異常が主に関与していることがうかがえる。また、Na調節異常と関連がある食塩感受性についても腎臓なしには語れない。epithelial sodium channel(ENaC)は遠位ネフロンにおいてNaの再吸収に関わっているトランスポーターの一つであり、食塩感受性の始まりや維持に関与している 6)。これらはいわゆる腎障害説と呼ばれるものである。一方で、食塩感受性高血圧患者と食塩非感受性正常血圧患者とで食塩負荷後のNaバランスに差がみられなかったとする報告もあり 7)、Schmidlinらは食塩感受性のある患者と非感受性の対照群とで食塩負荷によるNaバランスや血行動態の変化を比較した結果、食塩負荷による心拍出量増加は両者で同等に起こるも、対照群では全身の血管抵抗の低下が起こるが食塩感受性あり群では血管抵抗低下が弱く血圧が上昇する経過を示した 8)。これらの結果より、食塩感受性が腎臓でのNa排泄異常だけで説明がつく現象ではないこともうかがえる。これらは血管機能障害説と呼ばれ、血管内皮細胞での一酸化酸素(NO)産生障害 9)や血管平滑筋細胞でのsoluble guanylate cyclase signalingの異常 10)などによる高食塩下の腎内や末梢血管の拡張障害が原因とするものである。
 さらに、最近の報告では高食塩摂取期間にNaが皮膚やその他の組織の間質に蓄積し、プロテオグリカンと複合体を形成し高い浸透圧性をもって貯留することで、血管内容量ひいては血圧を干渉する役割を担うとされている 11)。組織でのNa蓄積は高食塩摂取や加齢により増加し、高血圧や心血管病リスクと関連するとの報告もある 12)。組織におけるNaの上昇はT細胞を刺激しサイトカインである IL-17Aが産生され 13)、これが血管のリモデリング、内皮機能障害や腎でのNa排泄障害を促進する。また、組織のNaはアミロライド感受性Naチャネルを介し樹状細胞活性化を促進し 14)、単球をIL-6、TNFαやIL-1βを産生する樹状細胞様フェノタイプへと変化させる 15)。その上、Naは骨髄細胞内に入るとCaによるNADPHオキシダーゼの活性化が起こり、活性酸素種(ROS)産生へとつながる。このように、組織に貯留したNaにより免疫細胞が活性化され、高血圧発症や維持につながる。
 加えて、高血圧患者やマウスにおいて腸内細菌叢の多様性が減っている状態、すなわちdysbiosisが指摘されている 16)。また、マウスやヒトへの高食塩摂取によりLactobacillus murinusが減り、これによりインドール産生が低下する。このインドールはCD4+細胞からTH17細胞への分化に影響を与えることが示されており、逆にLactobacillus murinusを高食塩摂取下のマウスに投与すると食塩感受性高血圧や自己免疫性脳脊髄炎が改善したとの報告もある 17)。このように腸内においてもNa調節や高血圧との関連が示唆される知見もある。
 以上のまとめとして、図1に高Na(食塩)摂取時の血圧上昇のメカニズムを示す。

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