(扉)特集にあたって
https://doi.org/10.57554/2024-0034
「スポーツ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか…?
春であれば新たなシーズンが始まる野球、サッカー、冬であればラグビー、スキーなどさまざまな競技スポーツを思い起こす方が多いのではないかと思う。柔道、剣道、相撲、レスリングなどの格闘技や、バレーボール、バスケットボールなどの球技を想起される方もいらっしゃると思う。しかし、中世の英国では狩猟、乗馬、釣りがスポーツであった。スポーツ(sport)の語源はラテン語の“deportare(運び去る、運搬する)”という言葉である。つまり、気分の転換、仕事や家事などの日常生活からの解放こそがスポーツ、スポーツは遊ぶことであり、楽しむことなのである。
しかし日本では運動嫌いの人たちが少なくない。その理由の一つとして、体育の授業が挙げられる。私自身も鉄棒では前方支持回転ができずに劣等感に打ちひしがれたし、授業中に「達成感」を実感したこともない。一部の教師は何をするにも命令口調で、辟易とした覚えがある。大学ではサッカー部に所属し、有能な先輩たちの活躍で東日本医科学生総合体育大会での優勝も経験したが、私がスポーツとして心から楽しむことができたのは、40歳の中盤から始めたフルマラソンだった。
ゴルフの際になかなか人数が集まらなかったので、一人でできるジョギングを始めた。手始めに10kmのロードレースを走り、3カ月後には、ハーフマラソンを経験した。そして、半年後に無謀にもホノルルマラソンに挑戦したのである。フルマラソンはハーフマラソンの「2倍」の距離を走るレースだが、苦しさと辛さは、5倍にも10倍にも思えた。レースの後半には、もう2度とマラソンなんか走らない…と繰り返し呟いていた。しかし、レースが終わって数時間経つと、何とも言えぬ達成感と充実感を覚えたのである。そして、その後もマウイマラソン、シドニーマラソン、NAHAマラソン、北海道マラソンなど30を超える大会に参加した。走るということが、何も考えずに自由になれる、楽しいものだと実感したのである。スポーツはまさに遊ぶことであり、楽しむことなのである。
ひとが遊び、楽しむことのサイエンスをまとめてみたいと思い「スポーツと内分泌疾患」というタイトルの特集を組んでみた次第である。遊び好きの私が原案を作り、まじめで勉強家の細井雅之先生が多くのエキスパートの先生たちに声をかけてくださり、今回の特集が出来上がった。
メンタルヘルス、骨格筋・骨関連ホルモン、ジェンダー、水電解質、糖代謝異常など多くの側面からのスポートロジーをお楽しみいただきたい。
著者のCOI (conflicts of interest)開示:細井雅之;講演料(サノフィ、住友ファーマ、日本イーライリリー)