第72回 糖尿病と診療報酬改定DX・2024
https://doi.org/10.57554/2024-0049
はじめに
超高齢社会に直面したわが国では、社会保障制度を持続可能なものとすることが不可欠である。また、自然災害の発生や新型コロナウイルス感染症の流行により安全保障や危機管理の観点からも、これらの情報の利活用推進、および医療分野のセキュリティ対策の強化が必須である。2022年6月7日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針 2022」において、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」および「診療報酬改定DX(Digital Transformation)」の取組を行政と関係業界が進めることとし、内閣総理大臣が本部長になり関係閣僚により構成される「医療DX推進本部」が設置され、政府を挙げて施策を推進していく旨が打ち出された 1)。そして、進化するデジタル技術を最大限に活用し、医療機関などにおける負担の極小化を目指すことを最終ゴールとした「診療報酬改定DX対応方針」が示された 2)。
今回は、このような「医療DX」の推進、および「診療報酬改定DX」について、2024年度診療報酬改定の答申を踏まえ、診療報酬改定DXおよび糖尿病とのかかわりについて概説する。
1.医療DXの基本的な考え方(図1)
「DX」とは、図1に示すようにデジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(Transformする)ことである。これを踏まえ「医療DX」については、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、全体最適された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくこと」と定義 3)されている。クラウドを活用した業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化のために、「オンライン資格確認」と「マイナポータル活用」、「電子カルテ情報の標準化」、「診療報酬DX」などを構築する。そして、医療DXに関する施策を推進することで、以下の5点の実現 1)を目指す。
- ①国民の更なる健康増進:生涯にわたる保健・医療・介護の情報をPHR(Personal Health Record)として自分自身で一元的に把握可能となり、健康増進や安全・安心な医療への受療、疾病の予防に寄与する。
- ②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供:本人の同意を前提として、必要に応じて全国の医療機関が診療情報を共有することで、より質の高い医療の効率的な提供が可能となる。さらに、災害時や救急時、感染症危機を含め、全国どの医療機関にかかっても、必要な医療情報が共有されることとなる。
- ③医療機関等の業務効率化:デジタル化の促進により業務効率化が進む。ICT(Information and Communication Technology)機器やAI(Artificial Intelligence)技術の活用による業務支援や、業務改善・分析ソフトによる合理化を通じて、医療機関自身がデジタル化に伴う業務改革を行うことにより、魅力ある職場が実現していく。
- ④システム人材等の有効活用:診療報酬改定に関する作業が効率化されることにより、医療情報システムに関与する人材の有効活用や費用の低減を実現し、医療保険制度全体の運営コストの削減が可能となる。
- ⑤医療情報の二次利用の環境整備:民間事業者との連携も図りつつ、保健医療データの二次利用により、創薬、治験などの医薬・ヘルスケア産業の振興に資することが可能となり、国民の健康寿命の延伸に貢献する。