5.腎疾患のある2型糖尿病(透析中を含む)の経口血糖降下薬療法
はじめに
2型糖尿病における腎機能障害は、スルホニル尿素(SU)薬による低血糖やビグアナイド薬による乳酸アシドーシスなど、経口血糖降下薬による臨床上重要な有害事象と関連が深い。薬剤により異なる、代謝および排泄における腎の寄与や、代謝物の血糖低下作用を理解することが、有害事象回避のために重要である。近年は、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下やアルブミン尿の抑制に効果のある薬剤の登場により、腎機能低下を有する2型糖尿病の治療は大きく変わりつつある。すなわち、腎機能の低下につれて選択肢が狭まっていく、という消極的な薬剤調整だけではなく、腎保護作用を期待しあえて選択する、という積極的な調整ができるようになった。本稿では、薬物代謝と糖代謝が腎機能低下によってどう変化するかについて述べ、腎機能低下時の薬剤選択における注意点、腎保護作用を持つ薬剤の現時点でのエビデンスについて概説する。
1.腎機能低下が糖代謝および薬物代謝に与える影響
腎臓は、糖新生の約25%を担っており、肝臓に次ぐ糖新生臓器である 1)。2型糖尿病では糖新生が亢進するが、非糖尿病と比較した臓器別の糖新生増加率は、肝臓が約1.3倍に対し腎臓が約3倍と、肝よりも腎の増加が顕著である 2)。加えて、腎はインスリンの分解を部分的に担っており、その機能低下によりインスリンの代謝および排泄が遅延し、高インスリン血症が生じる。したがって腎機能低下時には糖新生およびインスリンクリアランスが低下し、低血糖が起きやすく、また遷延しやすくなる。一方、主に骨格筋におけるインスリン抵抗性は、eGFR 45(mL/min/1.73m2)未満となる慢性腎臓病(CKD)分類ステージ3b以降で増大する 3)。
腎機能低下時は、薬剤の代謝および排泄能力も低下するため、薬剤効果が増強および遷延する。肝代謝の薬剤であっても、中間代謝産物が血糖降下作用を有しており、投与量の調整が必要な場合がある。