6.2型糖尿病の経口血糖降下薬療法における服薬アドヒアランス ~服薬指導を通じた向上を目指して~

  • 藤井博之 Fujii, Hiroyuki
    国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 薬剤部 副部長
公開日:2023年2月14日

はじめに

 世界保健機関(WHO)から「Adherence to long-term therapies : evidence for action」という報告書 1)が発せられ、特に慢性疾患における服薬アドヒアランスの重要性が強調されてから20年もの月日が経過した。この間に経口血糖降下薬は9つの薬効群にまで増え、さらには糖尿病治療薬においてもOD錠や配合錠などが登場し、治療選択肢が格段に増えた。しかしながら、長期にわたる日々の治療の主体は患者であり、医学的に適切な薬剤が処方されたとしても、適切な服薬が遂行されなければ、期待される効果は得られにくくなる。したがって、服薬アドヒアランスは薬物治療の土台として重要な要素である。服薬アドヒアランスは患者だけにその責任が押し付けられるものではなく、医療者とともに作り上げるべきものであり、医療者の関わり方や工夫でその方向性がいかようにも変わり得る可能性が多面的に示唆されている。なお、服薬アドヒアランスとは、患者自ら理解して積極的に薬物治療に参加することと定義されている。
 2型糖尿病患者を対象に、服薬アドヒアランスとHbA1c値の関係を検討した海外の報告 2)によると、服薬アドヒアランス良好群は不良群と比較して、HbA1c値が1.3%有意に低値であったことは注目に値する。
 服薬アドヒアランスが良くないことを服薬ノンアドヒアランスと呼ぶこともある。服薬ノンアドヒアランスは、副作用・費用・手間などに起因した自己判断による「意図的」なノンアドヒアランスと、服用の意思はあっても失念や多忙を理由とした「非意図的」なノンアドヒアランスに分類される 3, 4)こともあり、この考え方に基づいたアプローチも服薬アドヒアランスの改善において一助となる可能性がある。
 図1のように、服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因を考える際には薬剤側、患者側、医療者側の3つに分けて考えられることが多いが 5)、各要因は相互に複雑に絡み合っていることも想定され、一つ一つひもときつつ、定期的・継続的な評価を繰り返すという地道な取り組みが必要になると考えている。本稿では服薬アドヒアランスに影響し得る要因のいくつかを紹介してみたい。

図1 服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因文献5より改変)

 近年はスティグマという観点から、「服薬アドヒアランス」との用語を「服薬実施率」などの表現に変換することが推奨されることもあるが、本稿では引用文献などの記載に基づき「服薬アドヒアランス」を使わせていただく。

1.服薬アドヒアランス向上のヒント

1)用法について

 服薬アドヒアランスの低い患者群では、「薬を服用する時間が煩雑だ」という回答が多く、また、昼の服薬アドヒアランスは、朝・夕・就寝前と比較して有意に低いとの報告 6)がある。したがって、複数の併用薬の用法が1日においてできるだけシンプルであることが望ましく、さらには昼に服薬をしなくても済むような薬剤の活用を検討することは意義があると考えられる。
 服用薬剤数が6種類以上であっても服薬状況が良好な患者は、そのほとんどが朝1回の用法に集中していたとの報告 7)もあり、検討の余地があるのであれば1日1回に集約するような工夫によって服薬アドヒアランスの改善が期待できる可能性もある。
 1錠中に2成分を含有している配合錠の活用を検討することは、表面的な服用錠数を減らすという意味では用法の簡素化の一助として期待され、さらには配合錠の方が薬価としても割安になる点はメリットの一つと考えられる。ただし、2成分が含有されていることを、患者および服薬補助者などが適切に理解しておくことがリスクマネジメントなどの観点では肝要と考えられる。
 服用回数を大幅に減らすという観点では、DPP-4阻害薬の週1回製剤も挙げられるが、服薬アドヒアランスへの影響については患者背景なども考慮する必要がある。週1回という服用頻度がシンプルかつ簡便で服薬管理に好意的なケースもあれば、併用中の他剤との兼ね合いからそこまでのメリットを享受できず、飲み忘れのリスクが懸念されるケースも想定されることから、患者の意思や服薬環境を各医療スタッフの視点で確認・評価することも大切であると思われる。

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