4.心血管疾患のある2型糖尿病の経口血糖降下薬(非インスリン)療法
はじめに
2型糖尿病は心血管疾患のリスクファクターであり、実際に心血管疾患を発症することはまれなことではない。本稿では心血管疾患のある2型糖尿病患者に対して、どの糖尿病治療薬を使用すべきか検討したい。
近年、経口血糖降下薬が増え、多くの介入試験が施行されている。われわれは治療薬それぞれの持つ作用を理解するとともに、イベント抑制効果が十分に実証されているかどうかについても理解しておく必要がある。そして、特に心血管疾患のある2型糖尿病患者で注目したい薬剤がSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬であり、その2製剤を中心に概説する。また、糖尿病患者において低血糖がしばしば問題になるが、低血糖と心血管イベントとの関係についても触れておきたい。
1.SGLT2阻害薬
1)SGLT2阻害薬の作用機序
SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮する。さらに体重減少、降圧、脂質改善といった効果なども認められている。また、インスリンを介した作用とは異なるため、単独では低血糖を来す可能性は低い。ただし、血糖低下作用は近位尿細管を介する作用であり、腎機能が低下した患者ではその効果が減弱するため、腎不全や透析例に血糖コントロール目的には使用しない。
2)SGLT2阻害薬の多面的効果
大規模臨床試験において、SGLT2阻害薬は心血管疾患を有するといった心血管リスクの高い2型糖尿病患者の心血管イベントを有意に減少させることが実証されている。心血管疾患のある2型糖尿病患者を対象にしたEMPA-REG OUTCOME試験では、エンパグリフロジンの使用により主要評価項目である心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中を合わせた複合心血管イベントのリスクが有意に低下した(図1A) 1)。また、心血管死、全死亡、心不全入院のリスクも有意に低下した(図1B ~ D) 1)。また、心血管リスクの高い2型糖尿病患者(50%以上に心血管疾患の既往あり)を対象にしたCANVAS試験においても、カナグリフロジンの使用により心血管イベントリスクが有意に低下した 2)。

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