3.高齢2型糖尿病の経口血糖降下薬療法
はじめに
病院や診療所を受診する2型糖尿病患者の7割が65歳以上とされる現在、高齢者糖尿病診療の質の向上は重要なテーマである。高齢糖尿病患者の診療機会が著しく増加している状況を受けて、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を設置し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表した。患者の特徴・健康状態に基づく「カテゴリー分類」と、「重症低血糖が危惧される薬剤」の使用有無の組み合わせによってHbA1cの目標値を個別に設定するコンセプトは、高齢者における薬物療法の効果や安全性が薬物の種類のみで決定されるのでなく、若年者以上にさまざまな要因による複合的な影響を受けることを反映している。
1.高齢2型糖尿病の治療の注意点
高齢者の健康状態は若年世代と比べ個人差が大きい。健康で活発な高齢者が珍しくない一方で、糖尿病自体が臓器障害に加えて認知症やADL低下などのリスクを増大させる危険因子となることから、加齢による健康状態への影響を考慮する必要性が通常より高い。
高齢者糖尿病の特徴として、食後に血糖値が上昇しやすく、必ずしも空腹時血糖が高くない点が挙げられる。高齢糖尿病患者は低血糖に対する自覚症状がはっきりせず典型的でない(頭がふらふらする、ぼうっとするなど)ことがしばしばあり、対処が遅れがちで重症化しやすい。さらに、重症低血糖と認知機能低下はお互いのリスクを上昇させる 1)。そのため、高齢者では若年者以上に低血糖リスクを回避することが重要となる。
糖尿病を有する高齢者は非糖尿病者と比較して筋肉量や筋力が低下しやすく、サルコペニアが進みやすいことが知られている 2)。糖尿病を有していると転倒や骨折のリスクも高く、基本的ADLと手段的ADLの両者ともに低下しやすい 3)。