3.2型糖尿病と骨粗鬆症の接点
はじめに
糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(quality of life:QOL)を保つことである。そのためにはさまざまな合併症の予防が重要であり、これを実現するためには、血糖のみならず、血圧や脂質なども含めた統合的な治療が求められる。近年では加えて、糖尿病で認めることの多い併存症にも配慮する必要性が指摘されており 1)、骨粗鬆症や骨折もその中に含めて捉えるべきと考えられる。
本稿では糖尿病と骨粗鬆症・骨折の関連について概説するとともに、われわれが進めてきた臨床試験のサブ解析の結果を紹介しながら、日常臨床においてどのようにアプローチをすべきか考えていきたい。
1.糖尿病と骨粗鬆症・骨折
糖尿病と骨粗鬆症、ならびに骨折の関連について注目されるようになってきたのは、比較的最近のことである。1990年代に発表されたRotterdam studyなどがその嚆矢となり、その後多くの研究によって、糖尿病症例においては1型・2型を問わず、骨折のリスクが上昇することが示されてきた。骨粗鬆症の診断におけるゴールドスタンダードは骨密度であるが、特に2型糖尿病においては骨密度がむしろ上昇することが知られ、骨密度の低下ではなく骨質の低下が、糖尿病症例における骨折リスクの上昇に寄与するとの考え方が受け入れられている 2~6)。
骨折の高リスク者の同定は重要な課題であり、さまざまな方法が提唱されているが、中でも汎用されているのがFracture Risk Assessment Tool(FRAX)スコアである。これは向こう10年間の主な骨粗鬆性骨折(上腕骨折、前腕骨折、脊椎圧迫骨折、大腿骨近位部骨折)などの発症率を予測するリスクエンジンであり、ウェブ上で公開されている 7)。必要な項目としては、年齢、性別、体重、身長、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイドの投与、関節リウマチの既往、続発性骨粗鬆症の既往、飲酒、骨密度の12個が挙げられるが、骨密度のデータは省略することもできる。本邦のガイドラインにおいては、これまでの疫学的検討から、主な骨粗鬆性骨折15%/10年以上を一般に高リスクとして扱い、治療開始を検討すべきとされている 8)。
FRAXスコアの項目のうち、1型糖尿病は続発性骨粗鬆症に含まれるものの、2型糖尿病に関する項目は含まれていない。実際、FRAXスコアが2型糖尿病に合併した骨折のリスクを過小評価しているとの課題が指摘されており 9)、また同スコアの日本人の糖尿病症例における有用性も必ずしも確立していなかった。なお国際骨粗鬆症財団が最近発表したガイドラインでは、2型糖尿病では関節リウマチの既往ありとしてFRAXスコアを算出し、それによって骨粗鬆症治療の開始を検討することを提唱している 4)。
糖尿病と骨折の関連がさらに複雑なのは、糖尿病に対する治療も骨折リスクに影響を与えるからであり、血糖コントロール不良や低血糖がそのリスクを高めることが以前から知られている。インスリン治療を受けている症例では骨折リスクが上昇するが、それが罹病期間や神経障害などの細小血管症の影響によるものか否かは明らかでない。加えて経口血糖降下薬の中でチアゾリジン誘導体が、骨折リスクを上昇させることが報告されている 4, 5)。チアゾリジン誘導体は、核内受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxisome proliferator-activated receptor:PPAR)γの作動薬であり、これによって間質前駆細胞から脂肪細胞への分化が促進される一方、同前駆細胞から骨芽細胞への分化が鏡面的に抑制されることが、機序の一つとして考えられている 10)。