2.内分泌疾患を原因とする骨粗鬆症
はじめに
1991年にコペンハーゲンで開催された骨粗鬆症のコンセンサス会議にて、骨粗鬆症は「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患」と定義された 1)。遺伝的素因、生活環境、閉経および加齢以外に明らかな原因疾患を特定できない骨粗鬆症を「原発性骨粗鬆症」と診断するのに対し、骨量や骨質の低下を来す背景疾患を認める病態を「続発性骨粗鬆症」と区別する。一般的に続発性骨粗鬆症を来す病態では、骨形成と骨吸収のバランスが破綻し、骨密度の明らかな低下がなくても骨質の劣化により骨折リスクは上昇していることが多い。骨粗鬆症の患者の中で、閉経後女性の30%、男性の50~80%が続発性骨粗鬆症と推定されるが、続発性骨粗鬆症の管理における原則は、原疾患の治療と原因薬物の減量ないしは中止である。そのため、適切なマネジメントを行う上で病態の評価は不可欠である。
続発性骨粗鬆症を来す原因疾患を表1に列挙する 2)。本稿では、内分泌疾患を原因とする骨粗鬆症に着目し、病態や骨折リスク、治療後の経過を中心に考察する。なお、性腺機能低下症や糖尿病による骨粗鬆症については、本特集の別稿や成書を参照されたい。男性の性腺機能低下症に伴う続発性骨粗鬆症でも、テストステロン低下ではなくそれに伴うエストロゲン低下が骨強度低下の主要な原因となることを補足しておく。

1.副腎
1)クッシング症候群
クッシング症候群は、副腎からのコルチゾールの過剰分泌により、満月様顔貌、中心性肥満といった特徴的な身体所見(クッシング徴候)を呈する疾患である 3)。クッシング症候群患者の30~65%に骨粗鬆症を認め、骨量低下まで含めると60~80%の患者が該当する 4)。コルチゾールは、① Wnt/β-カテニン経路を介した骨芽細胞前駆細胞の分裂や分化を阻害し、② 骨芽細胞のアポトーシスを誘導し、③ 骨芽細胞の機能を直接阻害する作用が合わさって、骨形成を抑制する。破骨細胞分化因子のRANKL(receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand)やマクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony stimulating factor : M-CSF)の発現を誘導し、破骨細胞分化抑制因子のオステオプロテゲリン(osteoprotegerin : OPG)の発現を抑制する。結果として、破骨細胞の形成が促進され、骨吸収が亢進する。コルチゾール過剰により成長ホルモンやゴナドトロピン(LH、FSH)の分泌が低下することで、骨強度はさらに低下する。機序は不明だが、コルチゾールはビタミンDによる腸管でのカルシウム吸収を抑制するとも報告されている。上記の作用の総和として骨粗鬆症が進行する。
骨密度の低下が顕在化する前から骨折リスクは上昇するとされるが、コルチゾールの過剰で骨細胞がアポトーシスを起こし、骨表面でのリモデリングの調整が破綻している影響が想定される。骨折は、海綿骨の豊富な脊椎や、大腿骨頸部で起こりやすい。ある報告によると、クッシング症候群患者の76%に脊椎骨折(そのうちの48%は無症候性)がみられたとされている 5)。クッシング症候群では低エネルギー外傷による骨折が正常人に比べて5倍多く発生しており、診断前の骨折リスクが特に高いが、治療を開始すると骨折リスクは低下するため、速やかな診断・治療が肝要である。クッシング症候群の治療により骨密度低下は改善し、3~5年程度で基準範囲に回復し得る。ただし、重度のコルチゾール過剰により骨に不可逆的変化が起こり、治療後も骨粗鬆症が改善しないケースもあり得ることに注意する。