4.肥満症治療における内視鏡的治療の進歩―内視鏡的スリーブ状胃形成術
はじめに
近年、糖尿病合併肥満症に対するGLP-1受容体作動薬など、肥満症例に対する内科的治療の進歩は著しいが、生活指導や内科治療法のみで減量を長期に維持することは未だ容易ではない。高度肥満症例に対しては、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)が保険収載され、標準治療として実施されているようになり良好な長期成績が報告されている 1, 2)。その結果、外科的治療の実施数は着実に増加傾向にあるが、海外に比べ高度肥満症例の割合が低く、外科的治療の社会的周知・理解も十分とはいえない状況で、多くの適応症例が治療機会を逃していると予想される。
治療抵抗性の高度肥満例の多い欧米では、内科的治療と外科手術の橋渡し的役割として、さまざまな内視鏡的インターベンションが開発されてきた。特に、本稿で紹介する、Mayo Clinicのグループにより考案された内視鏡的スリーブ状胃形成術(endoscopic sleeve gastroplasty:ESG)は、2013年に初の臨床例が報告されて以来、すでに2万5千例以上の実施例が報告されている 3, 4)。
1.ESG手技の実際
1)ESGの手順
ESGは、内視鏡用縫合器(OverStitch Sx, Apollo Endosurgery社)を用いて胃を内腔から縫縮し、食後の満腹感を早期に達成させるとともに、胃内容の排出時間を遅延させることで長時間にわたる食欲の抑制を目指す治療法である 3)。治療に用いられるOverStitch Sxは、内視鏡先端に取り付けた曲針を用いて組織を縫工する器具で、小型の糸付き針を、曲針を組織に穿通させた後、鉗子孔を通して挿入した持針器とでやり取りすること縫合を行う。ESGでは、胃壁全層をコークスクリュー状の組織アンカーデバイスによって曲針内に引き込み、全層縫合による強固かつ耐久性の高い縫縮を目指す。縫縮は、胃角レベルから始め、前壁→大彎→後壁→後壁→大彎→前壁の順で口側へと縫い進め、「U字型」に連続縫合をした後、糸どめ用デバイスで固定する。約5~10針を胃体下部から体上部にかけて行うと、胃体部はスリーブ手術後同様に円筒状に変形する(図1)。
糸の縫縮力が不十分な場合、術後早期に縫合が緩むことで満腹感が減少し、体重が再増加する可能性がある。小規模な前向き研究では、従来の「U字型」縫縮に対して、胃の長軸方向の縫縮を追加した手法により体重減少効果に有意差が見られた 5)。当院でも、縫合回数を増やすことや、「U字型」にさらに大彎横方向のステッチを加える「ボックス型」縫合を導入するなどの縫縮力を強化するための改善策を試みている。