5.肥満症患者の心理・性格特性とオベシティスティグマ

  • 野崎剛弘 Nozaki, Takehiro
    中村学園大学大学院 栄養科学研究科 特命教授
    澤本良子 Sawamoto, Ryoko
    福岡歯科大学 総合医学講座 心療内科 助教
    小牧 元 Komaki, Gen
    福岡新水巻病院 臨床検査科部長
公開日:2023年10月25日

はじめに

 肥満症治療の対象となる患者は種々の心理特性や性格特性を持ち、その理解は肥満症治療において不可欠である。また肥満者に対する社会的偏見・差別(オベシティスティグマ)の存在は治療の妨げとなるばかりでなく、医療政策上も看過できない問題となっている。本稿では、肥満者や高度肥満症患者の心理特性、性格特性について述べ、オベシティスティグマについて概説する。

1.肥満者の心理特性

 肥満者の心理特性として、よく研究されているのは“抑うつ”である 1)。肥満と抑うつは双方向性に影響を与える関係にあることが確認されている。肥満者は抑うつ時に体重が増え活動が減少する傾向が見られる。その場合は、悲哀や苦痛など“典型的うつ病”の症状に収まらない“非定型うつ病”の可能性がある。気分障害の約3分の1がこれに当てはまるといわれ、食欲の亢進または著しい体重の増加がその診断基準の一つとなっている。非定型うつ病では、抑うつや不安状態に反応してむちゃ食いが見られ、特に炭水化物や甘い菓子類が多いといわれる 2)。他に、肥満症患者の心理特性には、自尊感情や自己効力感の低下、認知の歪み、ボディイメージの障害などが見られるが、高度肥満になるほど、その傾向が強くなる。
 肥満者の食行動も心理特性と関連している。肥満者ではむちゃ食い(制御できない過食:binge eating)、だらだら食い(grazing)、夜間摂食症候群などがしばしば見られる 3)。これらの異常な摂食行動は、“抑制的摂食”の反動としての心理的“脱抑制による摂食”や、ストレスや不快な感情が誘因となる“情動的摂食”に基づく場合が多い。

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