3.肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患への減量・代謝改善手術の臨床応用
はじめに
新型コロナ感染症の世界的大流行(パンデミック)はやっと落ち着きを見せているが、肥満も世界的に大流行の状態にあり、2017年のOECDのデータでは日本では肥満と定義されるBMI 25以上人口がメキシコ・米国では70%、ハンガリー・イギリス・カナダなどでも50%を超え、大きな社会・医学的問題となっている。
肥満をもたらす病態は複雑であり、基本治療である栄養・運動療法だけでは減量は困難なことも多い。近年、薬物治療とともに、肥満外科治療(減量・代謝改善手術)の進歩と普及は目を見張るものがあり、これらの最新の医療・医学を統合的に組み合わせた肥満症治療が推奨される。特に、肥満外科手術は肥満関連がんの予防、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)関連疾患の改善などが次々と明らかにされ、注目を集めている。本稿では減量・代謝改善手術の進歩、現状と課題に焦点を当てて解説する。
1.肥満の現状とその複雑な病態
日本国内における肥満人口の割合は厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」から過去10年間では横ばいないし、微増の傾向にあるが、1980年と比較すると男性ではほぼ倍増し、中高年の増加が目立つ。また、治療に難渋するBMI≧35の高度肥満については「平成29年 国民健康・栄養調査報告」から0.6%存在している。
肥満とは医学的には摂取エネルギーが消費エネルギーを超えて余剰エネルギーが体内で脂肪として過剰にたまる状態であり、その中でも内臓脂肪型肥満は糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・高血圧・冠動脈硬化など生活習慣病の原因となり、肥満の改善や予防は医学的観点からだけでなく、医療費の抑制という医療経済学的観点からも重要である。肥満の原因は単純には過食と運動不足となるが、その背景は運動をしないでも済む社会の実現、商業主義にあおられた美食・大食のもたらす食物の過剰摂取の存在に加えて、孤食の機会の増加、小児での食育の課題、高ストレス社会におけるストレス対応としての過食の問題など要因は複雑であり、運動療法と食事療法だけではうまくいかないことも多く、個別の病因・病態を把握した上での、食事療法、運動療法、認知行動療法に加えて、難治例には薬物療法、最近では肥満外科療法を含めた統合的肥満症治療が必要である 1)。