1.ロコモティブシンドローム・フレイルからみた骨粗鬆症
https://doi.org/10.57554/2026-0066
はじめに
2007年に超高齢社会を迎えた日本では、2023年には高齢化率が29%を超え、今後も増加が見込まれている 1)。そのため、健康寿命の延伸と介護予防は、社会的急務であると言える。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、要支援・要介護認定の原因として転倒・骨折が13.9%、関節疾患が10.2%、脊髄損傷が2.2%を占め、運動器障害全体では26.3%に達し、認知症や脳血管疾患を上回っている 2)。このため運動器の健康は、介護予防、自立高齢者の増加、すなわち健康寿命の延伸に極めて重要な課題と言える。
こうした状況を踏まえて、日本整形外科学会は2007年に加齢に伴う運動器の脆弱化を包括的にあらわす概念である「ロコモティブシンドローム」(以下ロコモ)を提唱した。ロコモは「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義され 3)、転倒・骨折と同様に要支援・要介護の重大な危険因子であり、進行すると要介護状態への移行リスクが著しく増加する。
一方、骨粗鬆症による脆弱性骨折、中でも椎体骨折や大腿骨近位部骨折は、患者の運動機能を低下させ、死亡率も高めることが知られている。このため、骨粗鬆症は高齢期の健康や高齢者の自立の大きな阻害要因となっている。そして、骨粗鬆症とロコモは相互に悪化させ合う関係にある。骨粗鬆症は骨折リスクを高め、骨折は運動機能の低下や姿勢の変化をもたらすことで移動機能を低下させ、ロコモの発症や進行に直結する。逆に、ロコモの進行は筋力低下や易転倒性を招き、骨折リスクを高める。両者が単独で、あるいは相互作用的進行によって脆弱化が進み、フレイルに陥ることになる。
ロコモと骨粗鬆症は病態においても、予防・治療対策においても深く関連し合っており、内科医を含む幅広い診療科でその関係を理解し、日常臨床に生かすことが求められる。本稿では、ロコモおよびフレイルと骨粗鬆症の関連を整理し、骨折予防に向けた実践的視点を述べる。
1.ロコモティブシンドローム対策の重要性
ロコモは、進行すると要介護状態になるリスクが高くなる。Yoshimuraらは、地域在住高齢者を対象とした前向き研究(ROAD study)の6年間の追跡調査で、ロコモ度3該当者はロコモ非該当者に比べて、死亡リスクが3.78倍、要介護移行リスクが3.63倍と有意に高いことを報告している 4)。ロコモ度1、2では、こうした有意なリスク上昇はなかった。ロコモを早期に発見して、進行を予防することがいかに重要かを示す知見である。
同じYoshimuraらの横断研究では、ロコモとフレイルおよびサルコペニアとの関係も示されている。地域在住高齢者におけるロコモ、フレイル、サルコペニアの該当の有無を調べたところ、フレイル、サルコペニアの該当者は全てロコモ度1以上に該当していた 5)。ロコモ度2とフレイル、サルコペニアとの包含関係も同様であった。すなわち、ロコモの発症・進行を予防することは、フレイルやサルコペニアの予防にも直結する。ロコモ対策は、単に移動機能の低下を防ぐだけでなく、フレイルの予防戦略としても位置づけられる。
社会的な対策としても、厚生労働省の「健康日本21(第三次)」では「ロコモの高齢者の減少」が2035年度までに達成すべき目標のひとつに掲げられており、国を挙げての取り組みが進んでいる。