神経系による腎機能の保護
はじめに
近年、腎臓領域において、腸内細菌との関連(腸腎連関)や心血管疾患との関連(心腎連関)が数多く報告されており、腎臓と多臓器との連関が注目されている。そのため、日常臨床においても専門分野だけでなく、臓器連関を意識した治療が肝要である。特に糖尿病・内分泌領域と腎臓領域との関わりといえば、sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬の腎保護効果が想起され、すでに日常診療に浸透し始めている。慢性腎臓病におけるダパグリフロジンの効果を検討したDAPA-CKD試験では、CKD 患者において、糖尿病の有無にかかわらず、推算糸球体濾過量(eGFR)低下、末期腎不全、腎疾患死・心血管死の複合リスクがダパグリフロジン投与群で有意に低いという結果であった 1)。SGLT2阻害薬による腎保護効果の機序としては緻密斑を介した尿細管糸球体フィードバック、Na利尿作用による体液再分配、尿細管仕事量の減少による糖毒性や低酸素の改善、後続の尿細管への仕事量増加に起因した酸素需要の亢進によるエリスロポエチン産生促進などが挙げられる 2)。また、その他にもSGLT2阻害薬により心拍数増加を伴わない血圧低下がみられることから、交感神経への直接作用なども示唆されている。
交感神経・副交感神経からなる自律神経系は大部分の内臓機能を制御する神経系であり、動脈圧、胃腸管分泌、膀胱排泄、発汗などを介して、数秒から数十秒の単位で迅速かつ強力に内臓機能を変化させることができる。近年になって自律神経系が免疫系を介して、腎臓をはじめとした多臓器へ作用を及ぼすことが分かってきたが、依然として不明な点も多い。本稿では腎臓と自律神経系に関する生理学的な内容を確認し、神経系との関連(脳腎連関)におけるこれまでの知見や臨床応用への展望について概説していく。
1.自律神経支配と腎臓
自律神経系は中枢神経を出た後、神経節を経由して節前線維から節後線維へ乗り換え、標的臓器を支配する。交感神経・副交感神経のいずれも節前線維は共通してコリン作動性神経であり、神経伝達物質のアセチルコリンを放出し、節後線維へ興奮を伝える。節後線維は標的臓器において、神経終末よりノルアドレナリン(交感神経)、アセチルコリン(副交感神経)を放出し、臓器にさまざまな影響を及ぼす(図1、2)。また、腎臓は腹腔内臓器の中でも神経支配が豊富な臓器であり、特に交感神経と感覚神経線維が主である 3)。腎神経叢は腹腔神経節、上部・下部腎臓神経節、上腸間膜神経節、胸部内臓神経線維から構成され、主にノルアドレナリンを神経伝達物質とするアドレナリン作動性ニューロンからなる。腎動脈などの血管平滑筋細胞ではα1Aアドレナリン作動性受容体を介して血管収縮や腎血流を調整し、糸球体傍装置ではβ1アドレナリン作動性受容体を介してレニン分泌を調節し、尿細管ではα1Bアドレナリン作動性を介してナトリウム再吸収などに関与する。また、副交感神経が腎臓へ直接入る経路も一部で報告されているが、その機能は明らかになっていない。