2.血圧および心血管機能に対する運動療法の実践のポイント
https://doi.org/10.57554/2026-0052
はじめに
1991年、WHOと国際高血圧学会は、生活習慣修正の一環として、低・中強度の有酸素運動を高血圧患者に初めて正式に推奨した。以後、国内外の診療ガイドラインにおいて、有酸素運動は高血圧治療の基本である。「EIM(Exercise is Medicine)」とは米国スポーツ医学会が2007年に提唱したプロジェクトで、「運動不足」は健康リスクであり、「適切な運動は、多くの慢性疾患の予防・治療に有効である」という考えから、薬と同様に「運動を処方する」概念である。本稿では、運動の高血圧および心血管機能に対する効果について、最新の知見を交えて紹介する。
1.運動の種類と降圧効果
臨床現場で指導される運動には、有酸素持久運動(速歩やスロージョギングなど)、動的レジスタンス運動(ダンベルやゴムチューブを用いた運動や自重を利用したスクワット、腕立て伏せなど)、静的レジスタンス運動(握力運動など)、バランス運動、およびこれらを組み合わせた複合運動がある。同じ種類の運動であっても、個人の体力や運動強度により、有酸素運動と無酸素運動が混在する。レジスタンス運動でも負荷を減らし、回数と時間を増やせば有酸素運動の要素が多くなる。水中歩行やベンチステップ運動は、有酸素運動とレジスタンス運動の両者の効果を有する。
近年、有酸素運動とともに動的・静的レジスタンス運動や複合運動も高血圧患者に推奨されている。2023年8月までに報告された、成人高血圧患者を対象とした、運動(有酸素、動的レジスタンス、静的レジスタンス、複合)と非運動のランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)84件、5,065例のメタ解析では、運動群で収縮期血圧-7.52mmHg、拡張期血圧-4.36mmHg有意に低下し、運動の種類による降圧効果に差はなかった(図1)1)。一方、2023年2月までに報告された、背景の異なる成人を対象にさまざまな運動と非運動とのRCT 270件、15,827例のネットワークメタ解析では、いずれの運動にも降圧効果を認め、特に静的レジスタンス運動で降圧効果が大きかった(図2)2)。
また、前高血圧の成人20例を対象に、最大酸素摂取量の50%強度の歩行を10分4回と40分1回をクロスオーバーデザインで実施し、運動後12時間の血圧の推移を測定した研究では、収縮期および拡張期血圧の低下は、10分4回群で有意に遷延した(図3)3)。さらに、治療抵抗性高血圧患者140例を対象に、1時間の教育指導を行った群(SEPA)と4カ月間、施設での監視下運動療法を含む心臓リハビリテーションを行った群(C-LIFE)を比較した試験では、C-LIFE群で診察室血圧および24時間平均血圧は有意に低下した(図4)4)。従って、いずれの運動であっても、また10分間の短時間の運動の積み重ねであっても、十分な降圧効果は得られる。運動療法は、治療抵抗性高血圧に対しても有効なアプローチである。