周術期の糖尿病管理

  • 馬本恒太朗 Umamoto, Kotaro
    国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科
    坊内良太郎 Bouchi, Ryotaro
    国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科 第一糖尿病科医長/国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病総合診療センター長
公開日:2026年6月25日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2026; 4(3): 0044./J Pract Diabetes Endocrinol. 2026; 4(3): 0044.
https://doi.org/10.57554/2026-0044

はじめに

 今回、周術期の血糖管理というテーマで、周術期における血糖管理の意義、栄養方法に応じた血糖管理の要諦、周術期における糖尿病治療薬の調整方法について紹介する。本邦における調査研究の結果、糖尿病が強く疑われる者は1,000万人を超えることが明らかになっている。また、糖尿病がある人においては、悪性腫瘍、特に大腸がん・肝臓がん・すい臓がんの罹患率が糖尿病がない人と比べて有意に高いことが知られており 1)、糖尿病がある人の外科手術症例の周術期管理は誰しも一度は経験し得る。さらに、糖尿病合併症が進行した人においては、下肢の重症感染症など緊急手術を要する事態に至る場合もあり、特にそうした症例においては周術期の血糖管理が生命予後に直結する。糖尿病治療の最終的な目標である「糖尿病がない人と変わらない寿命とQOL」 2)を実現するために、本稿を参考にしていただければ幸いである。

1.なぜ周術期に厳格な血糖管理が必要か

1)周術期の血糖管理の意義

 周術期において、血糖管理が重要であることは本稿の読者であればおそらく周知の事実であろう。高血糖が持続することは、免疫能の低下などを通じて創部の感染症のリスクを高めること、創傷治癒の遅延を引き起こすことにより、術後合併症や死亡率のリスクを上昇させる。低血糖も、QT延長などの不整脈や意識障害を引き起こすことで術後経過が不良となるリスクになる。また、これに加えて、血糖の乱高下も予後不良のリスク因子であるとの報告がある 3)
 このように、周術期における血糖管理が良好な術後経過にとって有用であることは明らかであり、糖尿病科医は専門的な知識や経験を活かして外科症例の周術期管理に多大なる貢献をしてきた。Gotoら 4)は、糖尿病がある人が大腸がん手術を受ける際に、糖尿病専門医が介入することが良好な術後経過に資することを明らかにしており、今後ますます糖尿病科医の役割は重要になると考えられる。

2)周術期の血糖管理をどの程度にすることが妥当か

 予定手術においては、術前より良好な血糖管理を実現していることが望まれる。米国糖尿病学会(ADA)のガイドラインでは、血糖管理目標をHbA1c 8%未満と設定している 5)。周術期の血糖管理目標について、日本糖尿病学会による『糖尿病診療ガイドライン2024』では、周術期における血糖管理目標を140~180mg/dLとし、低血糖を回避できる場合には、より厳格な管理目標(血糖110~140mg/dLあるいは100~180mg/dL)を設定することも適切である可能性が示されている 6)。なお、緊急手術においては血糖管理が不良であっても手術を行うことがあるが、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態、重症低血糖を認める際には、全身状態の安定が枢要となる。

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