高度肥満症に対する減量・代謝改善手術と療養支援
https://doi.org/10.57554/2026-0042
はじめに
この50年間、世界中の全ての国・地域でBMI 25kg/m2以上の人口比率が増加している。肥満は健康に悪影響をもたらす“疫病”として世界中に蔓延している。日本でもライフスタイルの変化などに伴い諸外国と同様に肥満者が増加しており、その対策が求められている。日本肥満学会は肥満に関連して健康障害を合併し、医学的に減量が必要な状態を「肥満症」と定義している 1)。中でもBMIが35kg/m2を超える高度肥満症は、従来の内科的治療だけでは長期的な減量の維持が難しく、十分な効果が得られないことが多い。1991年に「内科的治療を十分に試みても改善しないBMI 40kg/m2以上または35kg/m2以上かつ肥満合併症を有する症例には肥満手術(bariatric surgery)の適応を考慮する」と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって提言された。2000年代になると、腹腔鏡を用いた術式により手術の安全性が飛躍的に向上した。当初は「肥満手術」と位置づけられていたが、2007年頃には手術による代謝改善効果が注目されるようになり、減量・代謝改善手術(metabolic and bariatric surgery:MBS)と呼ばれるようになった。現在では、欧米にとどまらずアジアを含む世界中に急速に普及しており、MBS実施数はデータベースなどに登録されているだけでも年間50万件を超えている。
1.減量・代謝改善手術(MBS)の術式と適応
MBSが効果を発揮する原理は、古典的には①胃容積縮小による摂食量の抑制、②摂取した食事の吸収低下、の二つに分類される。これまで開発されたMBSは、①もしくは①+②のいずれかの作用に基づいている。現在、日本において保険診療として実施可能な術式とその適応について解説する。
1)腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)
胃を縦方向に切離し、大弯側を衣服の袖のたるみを取り除くようにして管状にする術式である(図1)。比較的シンプルな方法でありながら治療効果が高く、現在、世界で最も数多く行われている。日本では2014年より保険収載されており、MBSの85%を占めている。
①の摂食量の抑制を主目的としているが、そのほかにも胃底部の切除による食欲ホルモンであるグレリンの分泌低下、食物の急速な小腸への移動や胆汁酸の遠位空腸/回腸への流入増加によるGLP-1の早期上昇などの機序 2)を介して耐糖能改善効果も期待される。同術式の総体重減少率は25~30%、2型糖尿病の寛解率は70~80%と報告されている 3)。日本における保険適応と施設基準を表1左に示す。高度肥満に加え、特に重要な肥満関連健康障害である表中に示した5つの疾患を有する場合に適応となる。