妊娠中の甲状腺疾患管理の最新エビデンス
https://doi.org/10.57554/2026-0074
ポイント
- 顕性甲状腺機能低下症は母児に対する有害事象との関連が明確であり、妊娠中は速やかなレボチロキシン補充と適切な甲状腺刺激ホルモン(TSH)管理が推奨される。
- 潜在性甲状腺機能低下症(SCH)では、妊娠特異的TSH基準範囲を用いた評価が重要であり、特にTSH>4.0mIU/Lでは治療介入の有益性が示されている。
- 妊娠中のバセドウ病管理では、妊娠初期の抗甲状腺薬による催奇形性リスクと甲状腺機能亢進症再燃リスクのバランスが重要であり、TSH受容体抗体(TRAb)測定による胎児リスク評価と最小有効量での治療が推奨される。
1.妊娠中の甲状腺機能の生理的変化
妊娠中は、胎児への甲状腺ホルモン供給、胎盤での甲状腺ホルモン代謝、腎ヨウ素クリアランスの増加、および胎児発育に伴うヨウ素需要の増大により、母体の甲状腺ホルモン需要が増加する。妊娠初期には胎盤由来のヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)が上昇し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する弱い刺激作用を介して甲状腺ホルモン産生が促進される。その結果、遊離サイロキシン(FT4)および遊離トリヨードサイロニン(FT3)は軽度上昇し、負のフィードバックによりTSHは低下する。さらに、妊娠に伴うエストロゲン上昇により血中サイロキシン結合グロブリン(thyroxine binding globulin:TBG)濃度は上昇し、妊娠中には総サイロキシン(total T4)の上昇が認められる。妊娠中期以降はhCG濃度が低下するため、TSH抑制は徐々に解除される。また、妊娠中は糸球体濾過量の増加によりヨウ素の腎排泄が亢進する。これに加え、胎児および胎盤へのヨウ素供給が必要となるため、母体のヨウ素需要は増大する。ヨウ素は甲状腺ホルモンの必須構成成分であり、胎児自身の甲状腺ホルモン産生が開始された後も、その供給は母体に依存している。従って、妊娠期間を通じて母体のヨウ素充足を維持することが重要である。
妊娠中に甲状腺機能を評価する際には、妊娠週数あるいは妊娠期別の基準範囲を用いることが重要である。これらの基準範囲は地域のヨウ素充足状態や測定系によって異なるため、可能であれば各国あるいは施設ごとの基準値を用いることが望ましい。