1.高血糖緊急症―ケトーシス、乳酸アシドーシスを含めて
はじめに
糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)と高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)は高度のインスリン作用不足と脱水を背景によって生じる糖尿病の急性合併症で、救急外来でしばしば遭遇する。また、乳酸アシドーシスはビグアナイド薬の副作用として知られており、まれではあるが致死率の高い疾患である。本稿ではこれらの病態と、診断・治療について解説する。
1.DKAの病態
DKAは高度のインスリン欠乏による急性代謝失調である。インスリン作用の不足に加えて、インスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン・カテコラミン・成長ホルモンが上昇し、脂肪組織での脂肪分解が増加し、肝臓でのケトン体合成が亢進することで代謝性アシドーシスをきたす。さらに肝臓でのインスリンによる糖放出抑制が障害され、末梢組織での糖利用が低下するため著明な高血糖が生じ、浸透圧利尿により脱水も伴う 1)。
DKAは1型糖尿病の発症時、またはインスリン注射の中断で生じることが多いが、2型糖尿病でも起こり得る。誘因となるのは、感染症・膵炎・虚血性心疾患・脳血管障害などの重度の全身性疾患・手術・外傷・薬剤(ステロイド・抗精神病薬など)などである 2)。
なお、血糖値が200mg/dL未満と著明な高血糖がないにもかかわらず、ケトアシドーシスを生じる正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic diabetic ketoacidosis:EDKA)も存在する。EDKAは妊娠・過度な糖質やエネルギー制限・肝疾患・膵炎・大量飲酒などが関連すると考えられているが、近年SGLT2阻害薬使用例での発生が相次いでいる 3)。SGLT2阻害薬は尿糖排泄を増加させるため、生体内のエネルギー利用が脂質代謝に傾き、肝臓でのケトン体産生が増加する。ここに極端な糖質制限や脱水などが生じるとケトアシドーシスが生じるが、尿糖排泄のため血糖値の上昇は軽度にとどまることが機序と考えられている。